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79.兄を取られたくない妹の抵抗ね

 実年齢はかなり年上だけど、ミカは見た目以上に幼い気がした。子どもの振る舞いが多くて、微笑ましく感じる。きつい言葉をかけられても、腹が立たなかった。


 大好きな兄を取られそうな妹の必死の抵抗なんだもの。ラエルが叱ったらしょげてしまうわ。何より人間に対する誤解を解きたかった。私だってすべての人間が善良だなんて言わない。元婚約者やその母である側妃のような人もいるから。


 他人を傷つけても反省しなかったり、陥れて何かを奪う人もいるわ。小金を奪うために隣人を殺すのも人間だった。でも、そんな人ばかりじゃない。


 困っている時に助けてくれたり、自分だって余っているわけじゃないのに分けてくれる人もいる。育った環境や、その時の事情で人は変わってしまうから。私達、執政側が努力すべきは「善良に生きていける環境を整える」ことよ。


 国民に仕事を与え、食料を得る金を稼がせ、納税させる。彼らが必要とする施設や道、橋を整えること。働けなくなった時に見捨てないこと。盗みを働き、人を殺さなければならない環境を作らないこと。


 難しくて簡単なことなの。積み重ねる日々が、彼や彼女らを善良な人にしてくれるわ。


「一緒に出かけましょうよ」


 屋敷に閉じこもっていても、国民の本質は見えないわよ。ミカにそう持ちかける。不満そうな顔を見て肩をすくめた。


「怖いならいいの、私とラエルだけで行くわ」


『怖いわけない! 私も行くわ!!』


 やっぱり、こう言えば食いつくのね。ミカは駆け引きも含めて、人との関わりが足りないみたい。真っ直ぐに反応してしまう。だから人間が使う社交辞令やお世辞を真に受けて、苦労したんじゃないかしら。


 誰か教える人がいればよかったのよ。これからは私とラエルで教えるわ。探した子ども服を彼女に渡した。不満を言うかと思ったら、ひらひらしたワンピースはお気に召したよう。むっとした表情を作りながらも、目は正直だった。輝いてるわ。


 褐色の肌は薄い色が似合うの。銀髪に緑の瞳だから、今日はクリーム色の服にしたわ。赤や青のラインが入ったお洒落なワンピースは、腰を黒いベルトで締めるの。でも今日はベルトなしね。裾まですとんと落ちた形は、愛らしい顔立ちの彼女に似合った。


『着たわ』


 どう? と薄い胸を反らせるミカを褒めて、ラエルに目配せした。


『うん、可愛いね。では行こうか』


 腕を絡めてラエルと並ぶ。ミカに手を差し伸べると、嫌そうな顔。ふふっ、なんだか新鮮だわ。エインズワースの子は、巫女に好意的だったから。露骨に嫌いと示されるのは、すごく久しぶりよ。貴族令嬢達は気取って、ここまで露骨に表情に出さないもの。


「ねえ、提案なんだけど」


 ミカを私とラエルの間に挟んで、手を繋ぎましょうよ。


『あなたと手を繋ぐなんて嫌』


『だったら僕も繋がない』


 兄と右手を繋いだミカに、ラエルは容赦なく言い放った。見る間に目に浮かんだ涙を瞬きで消そうとする。幼い外見だから、痛々しいわ。そっと彼女の左手を握った。涙を見られたと知ればミカは部屋に逃げ帰るだろうから、言わずに知らないフリをした。


「早くしないと、時間がないわ。今の時期は日暮れが早いのよ」


 急かされて、ミカは慌てて両手に力を込めた。しっかり握った手を見ながら、私とラエルは彼女の頭上で笑みを交わした。

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