表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/123

78.昼寝を邪魔する来訪者

『人間が妻だなんて認めないわ!!』


 言い切られた強い口調に、私は呆然とする。この小さな女の子、誰? 首を傾げた私に、ラエルがぼそぼそと言い訳めいた説明を始めた。


『先日苺のケーキを焼いた日に言うつもりだったんだけど、手を切ったし忙しかったから。後回しにしてごめんね。僕の妹なんだ。隣の大陸に根付いた聖樹で、その……いろいろあって人間嫌いになってる』


「あ、うん」


 相槌を打つように頷いたものの、少女は腰に手を当てて怒っていた。褐色の肌に映える銀髪と緑の瞳、間違いなくラエルの妹だと思う。整った顔だちもそっくりだった。


 本体や根は隣の大陸にあって、精神だけ聖霊として移動したのかしら。


「隣の大陸から、来たの?」


 こんな幼子が一人で。そのニュアンスを感じ取ったのか、腰に手を当てて指さされてしまった。


『あなた失礼よ!! 私は聖樹で数千年は生きてるんですからね! 滅ぼそうと思ったら、あなたくらい簡単なのよ』


『僕が止めるけどね』


 ぼそっとラエルが冷たい口調で遮った。その表情は怒っているように見える。歳の離れた幼い妹にそんな怒り方したら、傷ついてしまうわ。慌てて取り成したら、双子だと言われた。外見詐欺なの?


『子どもの姿なのは、力が弱ってるからだよ』


 え、この子狡賢いわ。そう思った私の表情を読んで、ラエルが苦笑いして首を横に振った。どうやら見た目詐欺ならぬ、弱体して小型化だったみたい。淡い空色のワンピースを着ているが、すとんと幼児体型だ。


 彼女の言葉だけなら気分を害するのに十分だけど、我慢できちゃうわ。だって、小さな子が兄を奪われそうになって、必死に威嚇してるんだもの。


「お名前は?」


『……あなたに名乗る名前なんてないわ』


『ミカエル、ミカと呼んであげて』


 ツンと顎を反らして腕を組んだ少女ミカを無視して、ラエルがあっさり名前を教えてくれた。そう、ミカちゃんね。


「どうして人間だとダメなの?」


 話を元に戻す私へ、ミカは呆れ顔になった。こういう顔だけ見ると、確かに大人ね。やれやれといった様子で、仕方なさそうに口を開く。無視しないあたり、性格は真っ直ぐな子みたい。


『人間は裏切るわ。一夏の蝶のくせに、聖樹に危害を加える。私の与えた恩恵を仇で返すような生き物、絶対に許さない』


 悔しそうに口にされた言葉に、私はうーんと空を仰いだ。聖樹ラエルの根元で昼寝中に訪れたため、実はまだラエルと肩をくっ付けて幹に寄りかかっているのだ。お陰で少女姿のミカとも視線が合う。


『向こうの大陸の出来事をこちらに持ち込むなら、僕は容赦しないよ』


 婚約者の私が侮辱されたと感じたのか。ラエルは凄むようにミカへ言い聞かせた。泣き出しそうなミカが、唇を噛む。兄妹間の関係がこじれるのなんて、望んでないわ。


「ねえ、ミカちゃん。少しこの国で過ごしてみない? 聖樹様はこの国で守り神なの。私達はあなたを裏切ったりしないし、ラエルに危害を加えたこともない。それを確かめてくれないかしら」


 すぐに信じなくていいわ。でもこの国の人は聖樹を無条件に崇めてきた。国民と接したら、少しは分かってくれると思う。


『……少しだけだからね』


「ええ、何かあれば私かラエルに相談して」


 譲歩したミカは、ちらっとラエルの厳しい顔を見て目を伏せる。泣きそうな少女は、そのまま姿を消した。


「ラエル、お願い。ミカちゃんは私達を害する気はないのよ。見守ってあげて」


 彼女が自分で納得するまで。兄で同族のラエルは見放さないで欲しい。そう願うと前髪をかき上げて、額に口付けられた。


『僕の愛しいグレイスがそう願うなら、猶予をあげる』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ