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76.分たれた聖樹の運命は残酷だった

 地下に根を下ろした日から、もう数千年の時が過ぎた。元は繋がっていた兄の根と分たれ、この大地に根を這わせた。雨水を受けて成長し、風に葉や枝を揺らした。根は順調に大陸に広がり、ある日突然途切れる。


 己を守るために生み出した聖獣は封印され、我が身を守る森は焼き払われた。大木であろうと数日間も火に炙られたら、半分近く炭になってしまう。


 抵抗する聖霊はまだ弱く、悲しそうな顔で謝るだけ。あなた達が悪いのではない。まだ力がない私が悪いのよ。そう呟いて、力尽きた。もう根を伸ばす余力はない。魔法を覚えた人間は、私を敵と見做した。その魔法は、私が教えてあげたのに。


 ぽろりと溢れた涙が大雨に変わり、それで力を使い果たした。


 数百年前、捨てられた子どもを拾って育てた。まだ親が必要な幼子は、聖霊と会話しながら魔法を覚える。ぎこちなく真似をする仕草が愛らしく、魔法の使い方を教えた。


 若い芽が成長するように大きくなった子を、人間の世界に返す。この子は同族と生きていくべきよ。そう思ったから、迷いはなかった。年老いた彼は森に戻り、穏やかな生活を送る。私は彼が死ぬまで見守り、最期の一息まで看取った。


 この出来事は私にとって人間との交流であり、心温まる話で終わる。その思い出を壊し、攻撃してきた人間を許さない。私を傷つけ、恩を仇で返した。あの子はこんな使い方を望んだりしないわ。


 人間は彼から魔法を奪ったの。そうに違いない。怒りと憎しみを育てながら、傷ついた根を癒した。焼けた幹は伐り倒され、人間の王が住まう屋敷に使われたらしい。まだ回復しない身では、それ以上の情報は得られなかった。


 回復したら、真っ先に王の屋敷を壊そう。王宮と名付けた建物を下から、根で突き破って破壊を尽くすのだ。怯えて逃げ回る人間を瓦礫に巻き込み、成長に必要な栄養に変えればよい。人間の使い道など、その程度だわ。


 力を取り戻すための眠りは深く浅く、ゆらゆらと安定しない。そんなある日、海の方から何かが届いた。触れた瞬間、思い出す。隣の大陸に根付いた兄だった。すっかり忘れていた存在は、私を覚えていたらしい。触れた根が優しく絡み、栄養を分け与えてくる。


 流れ込む暖かさに、心がじわりと温もった。大陸をほぼ制圧した兄がもたらす情報と栄養を取り込みながら、驚きに身を揺らした。根を張った大地が大きく揺れ、地面を割って隆起と沈下を引き起こす。


『聖獣と聖樹? 聖霊になれる人間……そんなの、嘘よ』


 人間は汚く醜い。大陸の守護者である私の手足を奪い、体を燃やした。兄は騙されているわ。助けなくては! 私と同じ目に遭って苦しむことになる!


 傷ついた根で兄に伝える。私の知る人間という害虫のすべてを。お願いだから、間違いに気付いて。人間は愛すべき存在ではなく、駆除の対象なの。増えた害虫を処分しなくてはならないわ。私の訴えに、兄は穏やかな感情だけを伝えてきた。


 早く動けるようになりたい。もう何も奪われたくなかった。

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