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72.私達を認めてくださったのね

 オリファント王国から、あっという間に運ばれていた。エインズワースは聖樹様の領域と聞いたことがあったけれど、王国の地下にも影響を及ぼしていたのね。


 穏やかな笑みで接するグレイスに感謝しつつ、過去の王族の非礼を詫びる。それを笑顔で受け流す彼女は、恋人になった聖霊と幸せそうだった。婚約破棄の影響で婚期が遅れる心配をした時期もあったけれど、心から愛する人と一緒になれるなら安心したわ。


 フィリップが遠慮がちに、じいに会いたいと願い出た。本当ならすべてが片付いて、オリファント国を畳んでから顔を出すつもりでいたの。最後に土地や城の明け渡しに、前侯爵閣下を指名すれば会えるはず。そう息子には言い聞かせたけれど。


「久しぶりですな、フィリップ陛下」


 アイヴァン殿は、かつてと同じ笑顔で視線を合わせてくださる。この方の一割でもいい。優しく公正な精神をもっていたら、夫や側妃も暴挙に出なかったのではないか。滅びゆく我が王国の情報は、すでにアイヴァン殿の耳に届いているはず。それでも陛下と呼称して敬意を示す姿勢は、尊敬の一言に尽きた。


「じい……オリファント王国はもう終わります。その後、また会って欲しいのです。僕は母上を守って生きていく決意をしたから」


「ならば、見事国を畳んだ英雄をお迎えせねばなりませんな。ちょうど、隠居したじいの話し相手の席が空いておりますが……退屈に堪える勇気はおありですかな?」


 言葉が詰まった。滅びた元主である王家のフィリップは、彼にとって価値はない。それなのに、手を広げて歓迎すると口にした。


「じい、僕はもう社交辞令を知ってるよ」


 悲しそうに笑った息子は、何度も貴族相手の交渉を見てきた。貴族の誘いの半分は嘘で、その場限りの言葉だ。嬉しがらせは要らないと泣きそうな顔で答えた彼に、アイヴァン殿は大きな声で笑った。それから立ち上がり、フィリップを抱き締める。


「家族に社交辞令を使う貴族はおりませんぞ! ご安心なされ」


「じい、ほんと……?」


「母上様を守る決意はお見事。ならば文官でも武官でもいい。立場を得て金を稼ぎ、エインズワース公国に根付く覚悟をなされよ。じいは家族でもない者に、その呼称を許しておりませんぞ」


 泣き出したフィリップを優しく包む腕は、血の繋がった祖父のように優しかった。釣られて涙ぐむ。そんな私の肩を叩いたのは、ジャスミン様。公国の君主となられた美女でした。


「ご安心なさって。王太后を降りたパトリシア様は、補佐官として私の隣に立っていただきます。外交はもちろん、ここ数年の手腕はお見事でした。ぜひお願いしたいわ、断らないでくださいね?」


 断っても追いかけます。そう匂わせたジャスミン様の言葉に、私は涙に頬を濡らしながらも微笑みました。これは同情ではない。この方々はそんな安い感情で動いたりなさらないわ。


 私達は認めていただけた。大切なお嬢様を傷つけた者の家族でも、償う機会を与えられるなら。この身を粉にしてお仕えしよう。王妃になったばかりの頃、社交が苦手な私を助けてくれたのは、いつもエインズワース家のお二人だったのだもの。


 深呼吸してから、口角を上げて答えた。彼女が望む答えを、そして私が望む未来を。


「もったいなくて断れませんわ」

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