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71.聖なる樹は悪魔の木でもある

 柔らかくした砂は、下を大きく根で揺らした。蟻地獄と同じ原理で、砂は柔らかくなり上に乗った獲物を沈めて締め付ける。揺らし続けることで、砂は人を飲み込み続けた。満潮で溺れた人間はすでに砂浜の底だ。もうグレイスに見せても構わないくらい、整えてあった。


 恐れて船から降りない連中は、人間同士で片付けさせよう。現時点で砂浜を抜けるために、連中は船の板を使って砂に触れずに歩く橋を製作中だった。完成すれば、すぐに使うだろう。彼らは今回の砂を自然現象だと思っているから。


 邪魔することも可能だけど、頑張ってもらおうか。その先にある草を踏みしめ、土の上に踏み出したが最後……今度は一気に首まで沈めてあげる。人間ってのは不便だよね、呼吸が出来ても圧迫されて死ぬんだよ。手足も動かせず、叫ぶための呼吸も阻害されて。最後は歪んだ顔も沈めてしまえばいい。


 僕の管理する森に、汚い生首は不要だから。猛獣にくれてやってもいいけど、人間の肉はまずそうだし。下手に人間の肉に味を占めて、グレイスの国民を襲っても困るからね。


「ラエル、どうしたの?」


『うん、上陸するつもりみたいだから気になって見てた』


 嘘は言わない。人間とは違う種族である僕に「言わない」選択肢はあっても「嘘」はなかった。だからギリギリのところで、誤魔化す。分かっていてもグレイスははぐらかされてくれるから。甘えている自覚はあるけど、このくらいいいよね? 君の為にもなることだよ。


「軍の派遣を急ぐべきかしら」


『グレイスの母君がすでに動いているから、ほら。もう準備が進んでいるよ。さすがだね、父君と兄君が出陣するなら、祝福を授けておこう』


 普段は聖獣達が祝福を授けるが、それより僕自身が授ける方が強い。効果の時間も長いから、グレイスも安心してくれるだろう。単体で掛けると過剰な気もするね、まとめて軍ごと祝福しておこう。表現として「祝福」という単語を使っているけど、要は魔法のひとつだ。適用範囲は自由に変更可能だった。


「フィリスとシリルも出掛けちゃうのね」


『パールが屋敷と僕を守る。それにノエルが遊んでるからこき使うといいよ』


「え? それなら戦に出た方が楽できそう」


 今になってそんなことを言い出したノエルは、不満そうな顔で髭を洗う。視線を向けた先で、すでに軍を纏める父君が采配を揮っていた。人間同士の騒ぎの結末は任せるけど、グレイスのために露払いくらいはいいよね。


 口元が歪む。今でこそ聖樹なんて祭り上げられてるけど、滅ぼした古代文明の人間は僕を悪魔の木と呼んだ。グレイスが愛するエインズワースは見守るつもりだよ。聖樹なんて美しい呼び方をくれたからね。人間は自分達の都合で、僕の立ち位置を変えてしまう。願わくば、ずっと聖なる木でいられるといいけど。


 明日には、根の先が隣の大陸に届くかな? 妹に狼藉を働く驕った連中の処分は、兄である僕の役目だよね。

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