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65.ラエルにとって簡単な一大事

 エインズワース公国は、人材も資源も恵まれている。オリファント王国から連れ帰った分家は、それぞれに己の役割を見つけて根付いた。オリファント王国から離脱して2年目の初夏、この国は今日も豊かさを享受している。


 貿易都市ウォレスのアマンダは侯爵位を得て、エインズワース公国の一大勢力を築いた。その手腕は帝国との外交や貿易に特化しており、とても助かっている。主にお母様のご苦労が半減したことが有り難いわね。


「久しぶりね、アマンダ」


「つい先日も、頼まれた搬入で顔を合わせたじゃないか」


 苦笑いするアマンダは、やはりドレスを身に纏わない。それが夜会であっても同様だった。大きな剣を背負い、女兵士といった動きやすい恰好を好んだ。オリファント王国では許されなかったが、エインズワースは気にしない。それどころか、この姿がカッコいいと真似る少女達が出るくらいだ。


「オリファント王国の話を聞いたか?」


「ええ、気の毒なこと。王妃殿下やフィリップ王子殿下の行方が気になるわ」


 他の人は全然興味ないけど。はっきり言い切った私の隣には、ラエルが寛いでいた。人前だと注意したのに、結婚直前のカップルはイチャついても許されると聞いたらしい。その話を盾に頑として譲らず、膝枕で目を閉じていた。


 周囲は白い獣が覆い尽くしている。翼を広げて眠るフィリスの上で、白猫ノエルが香箱座りをしていた。聖樹の枝に止まるパールはご機嫌で歌い、シリルは私の足にぴたりと張り付いて眠る。この場所に日陰を作る聖樹の根元は、聖獣達の憩いの場だ。外部からの立ち入りが制限された区域となる。


 新しく建てた私達の屋敷は、離宮と呼ばれることになった。本宮もただの屋敷なんだけどね。かつてのエインズワース本家も宮と称されるようになり、2年経過していた。


『気になるの? 呼び寄せようか』


 簡単そうに提案され、聞き間違えたのかと思う。そのくらい軽く口にされた。瞬きして首を傾げ、アマンダに「聞こえた?」と尋ねると頷く。彼女もちゃんと聞いていたらしい。驚いた顔で頷く。


「ラエル、あの方々がどこにいらっしゃるか分かるの?」


『前に言っただろ。僕の根の上で分からないことはない。連れて来ていいなら、飛ばすよ』


「飛ばす?」


 奇妙な表現を繰り返した私に、シリルがのそりと立ち上がって警告した。


「グレイス、気をつけて。人間を飛ばしたら、着地に困るでしょ」


 言われた通り、地下の根で空中へ発射されたら、普通は着地出来ない。それも聖樹であるラエルがこの場所まで飛ばそうとしたら、到着する頃にはお二人とも儚くなってしまいそう。


「ラエル、お願い。私を助けてくれた人達なの。傷つけないで運んでちょうだい。恩返しがしたいわ」


『うーん、難しいけど……要は生きたまま、壊さずに運べばいいんだよね?』


 ちらっとシリルを見ると、小型化した彼は1本に偽装した尻尾をひらりと振る。どうやら問題ない表現らしい。


「ええ、それでお願い」


 寝転がっていた膝の上から起きる気のないラエルの手がひらひらと動く。指先で何かを絡めとる動きをした後、呪文のような言葉を呟いた。聞いたことのない響きに反応したのは、アマンダだった。


「今の、古代語じゃないか? 前にどこかの神官が使ってた言葉に似ていた」


 興味津々の彼女に、ラエルは意外にも好意的に頷いた。私の友人だし、ライバルにならない女性なので、当たりが柔らかい。実際のところ、根を通して人々の日常を知るラエルにとって、アマンダの言動はすでに確認済みだったのだと思う。私はかなり前から友人だと豪語していたから。


『興味があるなら教えようか。魔法や聖霊の力の原点だ』


 魔法……滅びた古代文明と一緒に消滅した力が、ひょんなことから蘇ろうとしていた。

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