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60.聖樹様へのお礼と贈り物

 聖樹様のお引っ越し。そう銘打った途端にお祭り騒ぎになりました。お父様やお母様にしたら、公爵家の敷地に聖樹が生えるのですから光栄なことです。お兄様達が触れ回ったのか、手伝いに民が訪れました。


「お嬢様、この辺りだべ?」


「掘り返しますぞ」


 聖樹様予定地という看板を立てたのは、柔らかな芝が広がる丘です。ここは庭と離れた場所にあり、馬や牛を放牧する地域との中間地点でした。特に使用する予定がない場所ですし、開けていて視界も悪くありません。


「お願いします」


 聖樹の巫女である私の号令で、芝が捲られていきます。広さを確保したところで、農民が鍬や鋤を手に等間隔に広がりました。互いにぶつからない距離を確認すると、一斉に土を起します。畑さながら、ふかふかの土壌が広がりました。


「お待たせでした」


 堆肥を積んだ荷馬車が10台も到着し、次々に投入されます。畑のように丁寧にすき込んで、腐葉土も上に重ねて撒きました。完璧だわ。


『朝から何をしているの? 僕のグレイス』


「っ……ラエルが聖樹を生やす場所を作ったのよ」


 まだ「僕のグレイス」という呼びかけに照れてしまう私がいます。婚約は無事成立となりました。というのも、他に嫁ぐ先を見つけるわけに行かなくなったのです。土地を選んでいる時のラエルの爆弾発言が引き金でした。


『もし僕がグレイスと婚約できなければ、悲しくて枯れてしまうかも知れない』


 あれは遠回しの脅迫でした。聖樹の森がなければ、豊かな大地が失われます。当然森の実りは激減し、井戸は枯れてしまうでしょう。ラエルにとっては悲しみに暮れる僅かな期間ですが、地上に住む人々が土地を諦めて移住するほど長い年月である可能性は否定できません。


 お父様は「屋敷から見える場所で、公爵家の敷地内なら自由にどうぞ」と譲歩するしかありませんでした。お母様は地図を見ながら3箇所ほど提案し、カーティス兄様やメイナード兄様の意見も取り入れて、最終的に今の場所が決まったのです。


 決断すれば、即行動がエインズワースの性分です。民に聖樹様のお引っ越しが告知され、あっという間に今回のお礼耕しが実現しました。


 今までの実りや加護に対するお礼に、ふかふかの豊かな土壌をプレゼントしようという気持ちです。ラエルに説明すると、整った顔に嬉しそうな笑みが浮かびました。


『ありがとう、人というのは義理堅いね。この場所に育てるとしようか。数日で引っ越し終わるよ』


「早いのですね」


『安心して。グレイスの大切な毛布やお気に入りの縫いぐるみも運ぶから』


 くすくす笑いながら暴露しないでください!! それは皆には秘密だったんですから。真っ赤な顔になった私を、ラエルが優しく抱きしめながら『そんな顔、他の人に見せないで』と囁きました。誰のせいですか? もう!!

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