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06.大好き、もうずっと一緒だよね

 ぴくりと耳を動かした白い獣が身を起こす。ふわふわした長い毛が揺れた。体の全長ほどもある長い尻尾がひらりと持ち上がる。


 主人の気配だ。契約した大切な主人が、祝福されし我らが領域に戻った。立ち上がり咆哮を上げる。応えるようにいくつかの返答があった。彼や彼女らが駆けつけるまで待つ気はない。先に走り出した白い獣は、狐によく似た外見だった。眉間に小さな紋章が入っている。赤紫の瞳が爛々と輝き、生気を取り戻す。


 主人がいない契約獣は眠る。新たな主人に出会うまで、長い眠りに落ちることも少なくなかった。彼の場合状況は違えど、主人と1年近く離れて過ごした。ようやく感知できる範囲に主人を感じたのだ。誰より先に迎えに行きたかった。


 途中で人の騎士団を飛び越す。巨大な狐に驚くことなく、騎士団は手を振った。応えるように狐はにやりと笑い、僅かに祝福をばら撒く。馬や人の疲れが癒えて、速度が速くなった。


「ありがとう!」


 感謝を伝える先頭の男に尻尾を振り、そのまま空中を駆ける。一歩ずつ主人の気配が濃くなっていく。興奮を抑え切れず、狐は屋敷に飛び込んだ。途中でガラス扉を突き破ったが、些細な問題だ。身震いしてガラスの破片を振い落とした。


「グレイス!」


「きゃっ、こら……顔はダメよ、シリル。化粧品は体に悪いの、舐めるなら手になさい」


 叱る主人の言葉に滲む気遣いに、素直に舐める先を顔から手に切り替えた。途端に甘く優しい香りの手が頭や耳の脇を撫でてくれる。押し潰さないように力を加減しながら、ソファの上にグレイスを倒した。全身を触れさせて感動していると、後ろから自慢の尻尾を突かれる。


「パールも来てくれたのね」


 喜ぶグレイスの声に尻尾を攻撃していた白い鳥が、慌てて愛らしさを取り繕った。もう遅いと思うが、くそっ、尻尾の毛を数本抜かれた。


「痛かったぞ」


 文句を突きつけて主人に哀れみを乞う。鼻を鳴らしてぽろりと涙を流した。大好きな主人に会えた感動が止まらない。聖獣同士の争いに困ったような顔をするが、グレイスの両手が広げられた。


「順番よ、駆けつけた順にシリルからね」


 僕を優先してくれてる! 敬意を込めて大切な主人に擦り寄る。伏せて転がると、腹も撫でてもらえた。ずっとこうしたかった。あんな不浄の地へ向かうから、僕らを置いていったけど。本当はついて行きたかったのに。存分に甘えた後、鳥のパールも涙をほとほと零しながら擦り寄った。


 パールの名が示す通り、聖獣である彼女の涙は真珠に変わる。僕が落とした金剛石と一緒に、絨毯の上で光を弾いた。あとで侍女かアンドリューが拾うだろう。


「相変わらずだな。聖獣がまるで飼い犬のようじゃないか」


「私の可愛いお友達ですもの。迎えに来てくれたら嬉しいし、早く会いたかったわ」


 大好き、もうあんな汚れた土地に行かないよね? 僕らが守護する土地で暮らしてくれる? 必死で訴える僕らに、グレイスは最高の笑顔を見せてくれた。


「ところで、窓ガラスの代金はエインズワース家に請求でいいのか?」


 アマンダが余計な言葉を吐くまで、僕らは主人に甘え倒していた。邪魔するなよ、そこに落とした涙でも拾って売り払っとけ。

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