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52.一夏の蝶にならずに済みそうです

 いいの? 目で問うシリルに頷く。どうぞと勧めたのは、美しい専用皿に積まれたお菓子やパンだった。肉や魚も用意されている。いつも通りのメニューだ。


「うちが豊かなのは、聖樹のラエルや聖獣のあなた達のお陰だもの。食べてちょうだい」


 残したらダメよ。逆に釘を刺して、隣で嬉しそうに尻尾を振るフィリスの前にも並べた。基本は人間と同じ食材で、動物だからと気遣った料理長が薄味に仕上げている。お菓子の甘さも調整しているらしいけど、その辺は詳しくないのよ。


「グレイス、隣に座らないか?」


「あなた、おやめなさい」


 お父様の誘いを、お母様が断った。くすくすと笑いながら、兄達が並ぶ後ろを回り込んで、ラエルの隣に腰掛ける。流石に長椅子ではないので、腰を抱き寄せられることはなかった。豪華なダイニングは、なぜか静まり返っていた。


「ラエルは普通に食べていいのよね」


『僕も栄養は大地から摂るけど、問題なく食べられるよ。グレイスと同じ食事なら、ぜひ味わいたいね』


 今日はコースではなく、大皿料理だった。というのも、ラエルが何を好きかわからなくて、大量に種類を用意したからだ。あとはお父様や嫡男であるカーティス兄様が戻ったことね。家族が仕事から戻ると、いつも大量の料理で労うのが我が家流だもの。


 侍女に指示して取り分けてもらうと、まったく同じ物をラエルが要求する。懸念したカトラリーの使い方も、驚くほど美しい所作でこなした。聖樹様ってなんでも出来るのね。


 聖樹の森の恵みである果物を使ったソースがかかった肉、地元の野菜は酸味のある果物のドレッシングを掛けて。昨年の干し葡萄を入れたパンに、甘く熟した果実のデザートまで堪能する。聖樹の森で採れた食材は、体が満たされる気がした。


「美味しかったわ、ご馳走様」


 挨拶をして紅茶のカップに手を伸ばしたところで、お父様が口を開いた。


「聖樹様、グレイスと添い遂げる覚悟がおありですか? 娘は人間です、あなた様と違い、老いていく生き物ですぞ」


『覚悟はないよ。だってグレイスは僕の妻になって、人間の枠から外れるからね』


「「「え?」」」


 お兄様やお母様とハモってしまいました。今のお話は初耳ですし、驚くのも当然です。人間を止めるという意味でしょうか。


『不安そうな顔をしないで、グレイス。君にはすでに兆候が出ているはずだよ。聖樹の内側に入れる巫女は、過去にいなかった。グレイスは聖霊になれる素質があるんだ』


「聖霊に」


 聖樹様を守るように存在する聖霊は、この世界を構築する元素を司ると言われています。数はさほど多くないですが、炎や水、風などの自然現象はすべて聖霊の恩恵と伝えられていました。その聖霊に、私が? 話が大きくてよく分かりませんわ。


「死なずに長生きできて、最後まで一緒にいてくれるお話でしょう? 素敵じゃない、よかったわねグレイス」


 簡単にまとめたお母様に頷きながら、私は長く一緒にいられる部分に惹かれていました。だって人間の一生は、聖樹であるラエルにとって短過ぎると思うから。一夏の蝶みたいな恋だと悲しいわ。

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