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37.警告、そして賽は投げられた――SIDEアイヴァン

 怒鳴り散らす国王の声が廊下まで漏れている。はぁ……大きな溜め息を吐いた。怒鳴られている対象は、宰相のテルフォード侯爵か?


「構わん、開けよ」


 傲慢に命じたわしに従い、近衛騎士は謁見の間の扉を開いた。騎士団長ブレスコット伯爵も我らが分家のひとつ。わしに逆らうなと言い聞かされたのだろう。騎士に躊躇う様子はなかった。


「案内ご苦労。下がって良し」


「はっ、失礼致します」


 一礼して踵を鳴らして敬礼する。近衛騎士の礼儀正しい対応に頷き、これ以上国王の八つ当たりが飛び火しないよう下がらせた。


 後ろでエインズワースの騎士が引きずっているのは、家畜達だ。匹で数えるべきか、頭で計算すべきか。五月蝿いので、猿轡を噛ませて縛っていた。それでも何か叫んでいるが、この程度の無礼はもう気にならない。わしが家畜の無礼を咎めるなど、笑い話だからな。


「アイヴァン!? すまなかった。愚息に関しては王位継承権を剥奪して放逐した。王家にそなたらと争う気はないのだ!」


「……エインズワース()()公主ジャスミン陛下の使者として、夫アイヴァンがご挨拶申し上げる」


 向こうが礼儀を知らぬ家畜や獣だったとして、低い目線に合わせて話す必要はない。最低限の礼儀は弁え、きちっと対応してこそ獣の愚鈍さが際立つ。臣下の礼を取らず、軽い会釈に留めた。後ろの騎士もわしに習い、軽く一礼するだけ。


「っ! なぜだ! その者らをなぜ連れてきた!!」


 混乱しているのだろう。呆れ顔の宰相は肩を竦めた。いや、もう辞任届は出したであろうな。ブレスコットも含め、動くと決めたら行動が早いのは、エインズワースの特徴だった。


 騎士に放り投げられた二人は、芋虫のように這って国王ヘイデンに近づこうとする。ずるりと進むたび、後退するヘイデンを見るのは早々に飽きた。玉座の脇に控える騎士団長は、笑いを堪えている。強靭な腹筋がなければ、吹き出していたであろうな。


「オリファント王国、国王ヘイデン陛下に申し上げる。わしが賜った侯爵位は剥奪となったそうだが、改めて返上する。その上で我が娘グレイスの婚約破棄を、こちらから申し入れよう。断る気はあるまい?」


「ぐっ……侯爵では不服か」


 話が通じていないな。先に非礼を働いたのは、オリファント王家だ。本来なら紙切れ一枚送りつけて絶縁しても構わないが、最後だから分家の連中を回収しに来たまで。我らエインズワースは分家も使用人やその家族も、誰一人見捨てる気はなかった。


「この二人を放逐したことで、我が領内はもちろん、ウォレスにも被害が出た。被害額の請求は改めて書面で行うとしよう。()()と無駄に争う気はないが、権利は主張させていただく。これで口上は終わりだ。失礼する」


 くるりと踵を返したところで、言い忘れたことに気づいた。


「エインズワースの一族は()()()引き上げさせる故、手出しするでないぞ」


 警告は与えた。だが理解できないだろうな。にやりと笑ったわしに、宰相と騎士団長も口元を歪めた。


 ――賽は投げられたのだ。

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