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03.王都脱出が先決よ

 王都の大通りに鈴を響かせ、エインズワースの騎士団が一気に駆け抜けた。夜が更けていれば人も少ないけれど、今はまだ酔っ払いが多い。先を走る騎士が鈴を鳴らしながら、先触れの役割を果たした。鈴を鳴らした後に馬に蹴られたら、それは被害者の方が罰せられる。先触れは念入りに行うよう命じた。


 せっかく領地に帰れるのに、余計な騒動を起こしたくないわ。いくらこの国の王子殿下が嫌いでも、民に罪はないもの。騎士を引き連れ駆けるが、緊急時は止まれる速度で街を抜けた。国王夫妻に邪魔される前に抜けるため、荷物はすべて置いてきた。


 お気に入りの髪飾りも王都の屋敷に残ってるけど、執事のエイドリアンに任せましょう。彼は明日の朝までに荷造りをして、別便で脱出する予定よ。もちろん、侍従に扮した騎士も同行するよう手配したけれど。領地の屋敷で合流しましょうね。ちらりと振り返った私の目に、屋敷の青い屋根が微かに見えた。


「お嬢様、使者を立てます!」


「任せるわ」


 領地へ事情を説明する騎士が2人先行する。領地までの道は長いので、各地に伝令用の馬を用意していた。明日の今頃には、お父様達のお耳に届くでしょう。手配忘れはないわよね? 侍女や侍従は後から馬車で脱出するよう伝えたし、王都の屋敷に失って惜しい品物はない。エイドリアンが屋敷から逃げるのが最後の便になるわ。私が何か忘れてても、有能な執事が手配してくれるはず。


「「御前、失礼いたします」」


「気をつけてね」


 騎士が敬礼して追い抜く。私達の替えの馬はないから、あまり飛ばすとへばってしまう。王都の門が見えなくなれば休憩しましょう。草原を抜け、森に入ったところで速度を緩めた。


「休憩よ、馬を休ませて」


 ふわりとドレスで降り立つ。スカートの裾が危険なので、騎士に手を借りた。降りてしまえばドレス姿の貴族令嬢にしか見えない。ゆったりと裾を捌いて、私は大きく伸びをした。ドレスは足下は靴が隠れる長さだけれど、肩が出てるのが難点ね。少し肌寒いわ。


「お嬢様の手綱捌きは、見事ですな」


「あら、嫌味? 婚約者の手綱は捌けなかったわ」


 くすくす笑う私に、専属騎士のアンドリューが大笑いした。苦しそうに笑った後、上着を脱いで肩に掛けてくれる。肩を抱いた両手を見て、冷えたと思ったのね。このくらいの気遣いができる婚約者だったら、今頃まだ夜会の広間にいたかも知れない。


「手綱に触れず、捌くも何もありませんよ」


「うふふ、本当にそうね」


 他の騎士達も水を飲み、休みながら軽口を叩く。夜通し駆ける予定だったけど、追っ手の気配はないわ。明後日にはお父様が騎馬隊を連れて出発するから……合流地点は貿易都市ウォレスにしましょう。


「聞いて。ウォレスに入ったら宿を取るわ。そこでじいやの到着を待つつもりよ」


 追っ手が来なければね。言葉にしなかった部分を察した騎士達は肩を竦める。


「あの王家ですよ? 誰が向かうか考えている間に3日は無駄にするでしょうね」


「3日なら早い方です。俺は5日はかかると思いますが」


「辛辣ね、私は追っ手が来ない方に賭けるわ。だって我がエインズワース領相手に喧嘩を売る貴族がいると思う?」


 一頻り大笑いした後、アンドリューが戯けた仕草で一礼した。


「お嬢様の先読みには敵いません」


 雑談を終えて、私達が目指すは国境に近いエインズワース公爵領――これからは自由に生きていきたいわ。

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