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28.独立を宣言するついでに罪人輸送

 聖獣の治癒で、ご老人は思わぬ副産物を得たようで……。


「腰痛が治ったぞ!!」


 蹴飛ばされた際の腰痛を治すついでに、以前から慢性化していた腰痛も改善したようです。楽になったなら問題ありませんね。ただ……噂を広めないよう、口止めは必要です。聖獣は治療道具ではありませんので。そこは理解していただきました。


 出立直前だった追跡班は、そのまま追及班に名称変更されました。一般の定期便ではなく、専用の馬車を使用します。荷馬車の後ろ側が透け透けの鉄格子仕様の罪人輸送馬車に、手錠付きで放り込まれました。


「グレイスぅ! 貴様、王族にこんな真似してタダで済むと思うなよぉ!!」


 叫ぶ元気があってよかった。ここからは過酷な旅になりますので、体力は温存した方がいいですよ。


「さて、わしも向かうとするか」


「お父様が出向かれるのですか?」


 驚いて尋ねた私に、にやりと悪い顔をしたお父様が両手を広げました。大袈裟な身振り手振りで、まるで俳優のように説明します。


「オリファント王国からの独立を宣言するついでに、爵位を叩き返してやる。それから最愛の娘への非礼な行為の詫びと、あの連中の罪に対する慰謝料をふんだくる! これこそ、領主代行の役目だ」


 ああ、そうでした。この領地は今後、エインズワース公国になるのです。帝国の公爵家ではなく、王国の侯爵領でもない。国外追放を言い渡されましたが、この領地そのものが独立した場合も国外ですね。愚かな息子のために、海に面した豊かな森が広がる領地を失う国王陛下には同情申し上げます。


 もっとも……ご自分の判断ミスですので、当家からの譲歩は出来ませんわ。悪しからずご了承いただくとして。


「お父様だけで向かわれますの?」


「メイナードは同行させる」


 なるほど。お母様はこの地の領主ですし、長男で跡取りのカーティス兄様はお留守番ですね。次男であるメイナード兄様やお父様でしたら、取り囲まれても騎士団と共に切り抜けられます。


「わかりました。留守を守りますわ」


「行ってくる」


「お気をつけて、あなた」


 お母様が見送りの手を振り、話している間に用意された荷物が積み込まれます。さすが当家に仕える侍女達です。執事エイドリアンの息子、現在は家令のスティーブンが指揮を執り、あっという間に荷物用の馬車が仕立てられました。


 王都の屋敷がまだ無事なら、寝泊まりの場所は困りませんね。連絡係に、フクロウを数羽連れていくようです。彼らは夜間も飛べますし、外敵も少ない上賢い。伝書鳩より確実な連絡方法ですわ。


「アマンダに約束しているの。果物も届けてくださいませんか」


「それならジャスミンがすでに手配したぞ。もう届く頃だ」


 さすがはお母様。得意そうな笑みに会釈して称えお礼を伝えます。後は土産も必要な方もいませんし、気をつけて行ってらっしゃいませ。弓矢を取り返した猟師も、普段住んでいる地域まで同行が決まりました。ゆっくり馬車に揺られて帰るそうです。お疲れ様でした。


「グレイスはいいの?」


 遠ざかる罪人達と騎士団を見送りながら、お母様がこてりと首を傾げます。いくつになっても愛らしい方ですわね。見習わなくてはいけません。


「私、国外追放されてますもの。それにオリファント王国にもう用はありませんし……次がないことを祈りますわ」


 うふふ、おほほ。笑って誤魔化す私達ですが、濁した部分に入る言葉は物騒です。


 ――用がないはずの王国に足を踏み入れる時は、あの国が滅びる時ですわ。当事者の私より、周囲の方が怒ってるんですもの。

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