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21.本気で着飾りましたわ

 宮廷で着飾るのは我が家の面子のためでした。婚約者のために着飾ることはない。公爵家が存在しないオリファント王国で唯一、公爵を名乗るエインズワースの名に恥じぬ装いが必要でした。でも今日は違います。自分が聖獣の主人であり、聖樹様の巫女だと示す服を纏うのです。


 コルセットは不要、鍛えた体にぴたりとした黒の衣を纏い、その上から白い薄絹を何枚も重ねていく。一番下に身につけた黒がほとんど見えなくなるほど枚数を重ねても、重さはほとんど感じなかった。聖樹様の巫女としての衣装は、特殊な糸を重ねた複雑な織りで模様が表現される。月光を浴びると虹色に光り、太陽に当たれば純白に輝く不思議な織物だった。この布は賜り物で、人間が作れるとは思えない。


 聖獣の主人である証拠として、銀の鈴が付いた四本の紐を腰に巻いた。鏡の前でくるりと回り、涼やかな音に笑みが溢れる。長い銀髪はそのまま後ろに流し、上部だけゆったり結って髪飾りを付けた。木の飾りは、聖樹様の枝から削り出した物。じいやが王都脱出の際に持ち出してくれてよかったわ。


 青い瞳は森にとって重要な水の色を表すらしく、聖樹様のお気に入りだった。私の支度が整うと、侍女達は口々に美しいと褒め称える。お礼を言って立ち上がり、待っていた聖獣達にお披露目した。


「どう? ドレスより似合うでしょ」


「とても綺麗です、グレイス」


 うっとりと白狐が呟けば、パールが感激した様子で目を潤ませる。


「素敵、グレイスは聖樹様の愛し子ですもの。白が似合うわ」


「本当に似合うわ。誇らしい」


 フィリスが足に擦り寄る。慌ててシリルも続き、パールが「ずるい!」と騒いだ。爪があるから、肩や腕に止まると薄絹を引っ掛けてしまうのだ。袖部分を捲り上げ、素肌を見せて手招いた。


「パール、ほら」


 嬉しそうに飛び乗り、バランスを取る。聖獣と契約者の間で、重さや大きさは意味を成さない。聖樹様の決め事らしいけれど、おかげで大きなオウムを腕に乗せても疲れないのは便利ね。逆にシリルやフィリスに乗っても、私の体重はバレないの。


「あなた達も着替えていらっしゃいな。私のエスコートはこの子達に頼むわ」


 街の住民も集まるし、折角だから楽しんだらいいわ。収穫祭の時期だったこともあり、一緒に祝おうと大急ぎで準備したらしい。街は色とりどりのランプで輝き、私達を誘っていた。エインズワースの宴は、屋敷の中でちまちまと行うことをしない。祝い事ならなおのこと、民と一緒に祝うのが流儀だった。


 街に降りて、平民も貴族も関係なく盛り上がる。最低限の礼儀は必要だけれど、守るべき領民と触れ合う大切な時間でもあった。このエインズワースの領民で、我が家の家族の顔を知らない者はいない。そのくらい、民と一緒になって街を作り上げてきた。


 元婚約者はこれが理解できず「下民と触れ合うなどあり得ぬ」と言い切ったけど、その民がいなければ生活できないのが貴族よ。勘違いも甚だしいわ。面倒な計算や事務手続きを一手に引き受ける代わり、多少贅沢をさせてもらっているだけ。よその貴族や王家との折衝を担当するから、尊敬されるのよ。


 民と貴族の違いは、役割分担だけ。生まれながらに偉いと思い込んだ馬鹿と縁が切れて、せいせいしたわ。


 軽やかな足取りで階段を降りる私の両脇に、翼ある狼と白狐が寄り添う。肩に掛けた布に舞い降りた白いオウムが美しい声で歌った。


「そういえば、ノエルは?」


「ママ様と一緒」


「ああ、また貴婦人ごっこしてるのね」


 マーランド帝国では、貴婦人の間で猫を飼うのが流行っているらしい。流行に敏感なお母様が見逃すはずはなく、お気に入りのノエルを腕に抱いているのだろう。私と契約したことで、ノエルは重さや大きさの呪縛から解き放たれている。抱いて歩いても疲れないのが利点だった。


「「「好きだよね」」」


 聖獣達は呆れ半分でハモった。

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