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20.聖樹様のご用事はなぁに?

 聖樹から戻ったばかりのフィリスは、翼を消して子犬姿で甘える。押し退けられたノエルは不満そうだったが、のそのそと歩いて母の膝に乗った。


「ノエルちゃん、私でいいの?」


「ママ様も大好きだよ」


 こういう狡さはさすが猫ですね。甘えさせてくれる人は確保する姿勢が、シリル達とは一線を画しています。


「あ、ママ様、そこ」


 喉を撫でられてご機嫌のノエルに、パールが「裏切り者め」と呟いた。ぼそっと呟くのはおやめなさい。怖いわ。お父様、いくらパールがお気に入りだからって、後ろから忍び寄ると嫌われるわよ。飛び上がるパールに、尾羽で叩かれるのがご褒美だそうです。


 のんびりお茶を楽しんでいると、ユリシーズ叔父様が合流した。部屋に駆け込むように兄二人も現れる。自宅用のラフな恰好に着替え終えたようね。


「お坊ちゃま方、やり直しです」


「エイドリアン、その呼び方はやめてくれ」


 肩を落としながら、お兄様二人は廊下に出てやり直しとなりました。ノックして許可を得て入室ですね。先ほどはいきなり駆け込んできましたから。確かに公爵家の御令息としては問題ありでした。その前に来て、しれっとした顔でお茶を楽しむ第三皇子殿下も同じでしたが。


「ユリシーズ皇子殿下」


 名を呼ぶ声に「あなた様もですよ」と滲ませるじいや。固まる叔父様……お母様の鋭い睨みに押し出され、ユリシーズ叔父様もやり直しです。殿方はいつまでも子どもで困りますわ。


「ところで、フィリス。聖樹様は何の御用だったの?」


 聞いてはマズいことなら、ちゃんとそう答えるので、遠慮なく尋ねる。聖樹様は、お名前の通り大きな一本の木です。数万年は生きたとか。森の守り神であり、聖霊達の頂点に立つお方です。私は聖獣と契約したことで、聖樹様のお姿も拝見したことがありますが、一般的には聖霊に隠されています。


 お腹を撫でられて目を細めていたフィリスは、ぱちくりと瞬きした後あっさり話し始めました。どうやら口止めされる内容ではなかったようです。


「森を広げるから、近々グレイスと顔を見せにおいで、と。伝言を頼まれたの」


「森を、広げるのですか?」


 やっぱり。そんな雰囲気が我が家の家族に漂いました。というのも、お父様の血筋は聖樹の森を管理する一族です。聖獣と契約したのは、初代様以降私だけですが、常に森と共にありました。


 森のある場所が、我が家の敷地となる。領地は三方を海に囲まれ、唯一陸続きなのが貿易都市ウォレスとその向こうにあるオリファント王国でした。聖樹様が森を広げるなら、ウォレスを飲み込むのでしょうか。それは困りますね。


「聖樹様はいつがよろしいかしら」


 根を張る前に、早めにお話をしなくては。焦る私に、伸びをした白い子犬はのんびり答えた。


「数年中ならいつでも」


 ……そうでした。聖樹様の時間の観念はかなり大雑把で、人とは違うのでしたね。これから数十年かけて根を伸ばすおつもりなのでしょう。まず地下に根を張り、その上に新芽を芽吹かせる。森が広がるにつれ、聖樹様と聖獣の行動範囲は広がります。その意味では、森の拡大は望ましいのですが。


「では数日中に伺いましょう。今夜は宴なので、起きられたら明後日以降ですね」


「そうしなさい。せっかく戻ったのだもの。ゆっくりして疲れを取ってから、ご挨拶の方がいいわね」


 お母様と頷き合い、時間を確認して立ち上がりました。そろそろ入浴しないと間に合いません。宮廷用ドレスは着用しませんが、聖獣の主人は巫女のようなもの。それなりに着飾る必要がありました。やはり神輿として担ぐ以上、美しい方が見栄えますし。


「失礼しますわ。お母様、お父様。エイドリアンも叔父様やお兄様達をあまりいじめないでね」


「もちろんですとも、お嬢様。きっちり言い聞かせているだけにございます」


 ならいいわ。縋る目で妹や姪を見ても、助けてあげない。ふふっ、自分のために着飾るのは久しぶりで、わくわくするわね。

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