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14.こんなのルール違反だわ

 白い巨大狐を先頭に走る集団に、魔物は通常近寄ってこない。聖獣とはそれだけ力溢れる存在なのだ。お陰で無事に領地の境界を越えることが出来た。ここから先は、完全にエインズワース公爵家の領地内だ。安心して息をついた。


「あと少しね」


「気を付けていくけど、変な感じがする」


 嫌な予感と呼ぶべきか。聖獣は勘が働くので無視せず、素直に聞き入れる。私の後ろへ伝言を流した。真後ろに使用人の馬車、じいやが乗ってきた荷馬車、一番後ろを騎士団の精鋭が固める。現在はユリシーズ叔父様が最後尾を守っていた。お兄様達は馬車の両脇に騎士と散らばる。


 馬車がいる場合、どうしても集団は細長くなる。中央に一番弱いものを集め、周囲を囲う形が一般的だった。当然、魔物や動物も狙うなら中央を突破しようとする。


「何か来たっ!」


 大きな尻尾をぶわっと逆立て、シリルが叫ぶ。直後に剣を抜くメイナード兄様の声が重なった。


「左前方、魔狼の群れだ。散開しろ」


 応じる騎士が剣を抜いて距離を開ける。互いを傷つけず存分に剣を振るえる距離を取り、身構えた。魔狼達は魔物であるため、通常の動物より体が大きく力も強い。知恵も働く個体が指揮を執っていたら厄介だった。


「シリル、いける?」


「もちろん! 僕がこの森で負けるはずがない」


 ふわふわの毛に抱き着くと、嬉しそうに鼻を鳴らしてから走り出した。狼の群れを逆に追い立てるつもりのようだ。ぐるりと背後に回り込み、軽い動きでぽんぽんと木の上に飛び乗った。熊に近い巨体ながら、その体重を感じさせない動きと素早さだ。


 軽い足取りで木の上から状況を把握し、指揮を執る個体を見つける。


「首筋が薄い色の、あれがボスだね」


「狼の毛皮って、何かに使えるかしら」


「敷物にいいよ。玄関とか映えるよね」


 緊張感のない会話と裏腹に、木を垂直に下降する狐の背中はスリル満点だった。シリルの魔法で守られているから、安心しているけれど……これがただのペットの背中だったら悲鳴どころじゃないわね。卒倒して転げ落ちてる気がするわ。


「あ、あの群れ……ちょっと待って」


 気づいたのは、群れのボスの足元にいた子狼達。一番安全な場所に預けたのかと思ったけど、違うわ。あのボスも子狼もケガをしている。毛皮に滲んだ血に眉を寄せた。血の臭いに敏感なシリルも手前で攻撃の手を止める。


 立っているのもやっとのボス狼は、威嚇をやめない。必死で毛を逆立てて攻撃の姿勢を取った。実際は立っているのもやっとじゃないかしら。子狼も折れた矢が刺さっていた。


「これはルール違反だわ」


 私の声に、シリルが苦笑する。


「確かに、これはいけないね」


 狩りをするなとは言わない。生きていくために肉を食べるし、家畜を攻撃する狼を狩ることもあるでしょう。だけど子どもを狙ってはいけないの。どの種族でも同じ。親が害獣で倒されたとしても、子に罪はない。生きていく権利は、森に棲むすべての生き物が保有するのだから。


「ノエル! お願い、来て」


 止まった馬車の中から顔を見せた白猫は、軽やかな足取りで私の腕に飛び込む。目の前の狼に気づくと、こてりと首を傾げた。


「助けるの?」

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