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120.結婚式の主役は早々に退場

 毎年の収穫祭で慣れている国民は勝手に盛り上がり、告白大会はだいぶ落ち着いてきた。アマンダがメイナード兄様の申し出を拒否しなかったのは、想い人が兄様だったってこと?


 一時期はカーティス兄様の婚約者にと望まれたけど、当人同士が好き合ってるならその方がいいわね。カーティス兄様はミカと談笑していた。アビーも交えて、とても楽しそう。そこへ数人の女性が加わるものの、すぐに離脱する繰り返しだった。牽制してるわけないわよね。


 ぐいっと杯を開ける。


『グレイス、飲みすぎてないかい?』


 心配そうなラエルの腕を掴んで寄りかかり、熱った頬を押しつける。こうして人前でいちゃついても許されるのが夫婦よね。お父様とお母様がそうだったから、結婚に憧れがあったの。好きでもない婚約者から解放されてほっとしたわ。


「大好きよぉ、ラエル」


 にっこり笑うと、顔を胸に押しつけられた。やだ、化粧が取れちゃう。でも抱き締められて、苦しいくらいの今が幸せだと思う。だから離して欲しいなんて言わない。


『僕も愛している。君はこの大陸と引き換えにしても守りたい人だから』


「ありがとう。私も世界で一番ラエルが好き」


 抱き合っていると、あちこちから冷やかす声が飛んでくる。こういうところ、エインズワースよね。他の国なら、王族を揶揄うなんてないもの。それ以前に王族が外で抱き合うこともないと思うけど。


 お父様が何やら興奮して叫ぶけど、すぐにお母様とノエルに眠らされちゃったわ。パールが木の枝に止まり、美しい歌を披露する。聖獣の祝福が降り注ぐ歌声に、ダンスが始まった。宮廷の堅苦しいワルツではなくて、好き勝手に振り付けて自由に踊る。遊牧民の踊りみたい。


 着飾った服やスカーフをひらひらと揺らし、女性がターンを決める。支える男性が受け止め、パートナーの腰に手を回してステップを踏む。難しい作法もルールもなかった。ただ楽しむだけの踊りが、あっという間に会場に広がる。


「……先帝陛下になんて報告すれば……」


 推測通り、前皇帝のお祖父様の差金だったわ。予定していた花嫁が、すでに人妻でした作戦は成功ね。地面に崩れ落ちた神父の呟きに、私は口元を緩める。ユリシーズ叔父様はあちこちで女性に人気で、踊りまくっていた。明日は筋肉痛で動けないでしょうね。酔った勢いってすごいわ。


 盛り上がる会場で、シリルは大人しく眠っているように見える。巨大な狐は、8本もある尻尾を時折揺らしながら、目を閉じていた。ラエルと近づけば、酒の匂いがする。かなり飲んだみたい。


 フィリスは私を見ると駆け寄って、押し倒して顔を舐め回した。もう化粧がどうこう、諦めたわ。好きにさせていると、ラエルがフィリスを叱って引き離す。ふふっ、もう嫉妬してるの? フィリスは女の子なのに。


 自覚はなかったけど、私も酔っていたのかしら。しなだれかかってラエルを揶揄うと、転移でベッドに飛ばされてしまった。びっくりして瞬きする間に、髪飾りなどを外されていく。


「ラエル?」


『もう夫婦の時間だよ、可愛いグレイス』


 甘い声で囁かれ、脳が溶けてしまいそう。くたりとベッドに沈んだ私の服は、まるで解けるように脱げてしまった。手慣れてない? 後で問い詰めちゃうんだから! キスを受けながら、私は両腕をラエルの背に回した。

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