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109.本格的に実効支配します

 占領軍と思っていた私達が、施しを始めたので「解放軍」に名称と認識が変わったらしい。そんな話を現地の人から聞きながら、公国のやり方を手本に必要な部署を書き出した。


 医療、配給、輸送、治安維持の警備と見回り、それから行政機関ね。さまざまな手続きがあるから、支配した地域に合わせて設定するのが正しいはずだけど……今回はエインズワース方式で行くわ。


 金融や住民登録の手続き、町の様々なトラブルを受け付けて、あと何が必要かしら。エインズワース公国は、公爵領の頃から仕組みがしっかりしていた。だからこの程度の支援で動く。この地域は王政でも末端は無視されて来たから、何もないと思って取り組まないと足りないわ。


「グレイス様。行政関連でしたら、僕がお手伝い出来ます」


 名乗り出たフィリップ様に、私はぱちくりと目を瞬かせた。そうよ、国のトップだった人がいるじゃない! 動かす頭としての機能は彼に任せましょう。手足は幾らでもいるんだもの。


「お任せしていいかしら」


「はい! 王国を畳んだ経験が役立ちますね。嬉しいな」


 何とも答えが返しづらいわね。国を畳んだ経験がある王族は、滅多にいないから。でも本人が楽しそうに取り組めるなら、新しい国の基礎を作る作業を任せたいわ。そうしたらフィリップ様は世界初の、国を畳んで新しく興した人になる。凄いじゃない。


「じぃは褒めてくれるでしょうか」


 お父様のことが 本当に好きなのね。微笑ましくなって、姉の気分で頷いた。


「ええ、もちろん褒めて誇りに思うわよ。国を畳んで、興した人なんていないもの」


 いっそ、この国を治めてもらってもいいわね。すぐとは言わないわ。エインズワース方式が馴染んで安定してから、十数年後でいいけど。そうしたら聖樹信仰も広まるし、私達との交易も行える。利点ばっかりじゃない。


『君らしいね、グレイス。先走る前に、母君か父君に相談しておいで』


 心を読んだラエルに窘められて、苦笑いが浮かぶ。


「分かったわ。決めるのは後日。ひとまずお任せして、その間に考えればいいわよね」


 新しく雇うことを決めた文官候補と引き合わせた。フィリップ様の若さを侮れば、彼らが痛い目を見るわ。武官として数人を警護につけて、私はお父様の元へ向かった。フィリップ様をたくさん褒めてくれるよう頼まなくちゃ。


 アマンダは一度戻り、追加物資を運ぶらしい。相談をしていたら、ラエルが私の肩に頭を寄せて頬擦りした。


「なに?」


『物資なら、僕が運べるよ。場所を決めてくれたら持ってくるから、母君に手紙だけ出して用意してもらって』


 転移だっけ? あの魔法みたいな力を使うのかしら。


「とても助かるわ、ありがとう。ラエル、大好きよ」


 ちゅっと頬にキスをして、手早く必要な物資を書き出す。手紙はパールが運んでくれた。さて、新しい物資が来る前に準備をしなくちゃね。


 ご機嫌で立ち上がった私の後ろで、ラエルとアマンダの声が聞こえた。


『今のキスに意味はあると思う?』


「好きという愛情表現だが、打算がないとは言い切れないな」


『いいけどね、打算があっても。ただ他の人にしたら、お仕置きだ』


「その点は大丈夫だと思うぞ。先に兄上殿や父上殿が動く」


 やぁね、誰彼構わずキスしたりしないわ。ぷんと頬を膨らませて振り返ると、顔を見合わせた二人が同時に笑った。

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