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108.これじゃ人というより獣ね

 大量に作った鍋の汁を、持ち込まれた容器に注ぐ仕事は簡単そうに見えて難しかった。それぞれに持ち寄った入れ物の大きさが違うのよね。さらに人数を考えて配給しないといけない。


 家族の人数を確認して、パンや鍋の中身を分けていく。昨日は2人分だったのに、今日は3人分もらっていく人もいた。わかっていても、気づかないフリをする。足りなかったのよね。きちんと申請してる人には悪いけど、事情があるんだわ。


 そう思っていた時もありました……。


「てめぇ! 一人暮らしのくせに!!」


「うるせぇ! いつ貰えなくなるかわからねえんだ。食える時に食いたいだろうが」


「そんなの他の奴だって同じだ! それでもちゃんと人数分で我慢してるだろ」


 殴り合いのケンカに発展した、配給量騒動を見ながら、私は足元に転がる棒を拾い上げる。お鍋の蓋が熱い時に火傷しないよう使う棒なんだけど、ちょうどいい長さなのよ。ぶんと振り下ろして具合を確かめ、まだ取っ組み合いを行う二人を叩きのめした。


 手加減はしたわよ。私が本気で攻撃したら、しばらく動けなくなっちゃうし。後ろで「これ持ってて」と渡されたお玉を手に、ラエルがくすくすと笑っていた。


「ケンカは終わり、両成敗よ。どんな理由があっても、食べ物がある場所でケンカはダメ。ここには子どもや年寄り、女性も並んでるの。ケンカするなら他所でやりなさい」


 言い切ったところへ、アマンダが大剣を背負って駆け付けた。


「グレイス、ケンカはどこだ?」


「足元の二人よ、もう終わったわ」


 残念そうな表情のアマンダが剣を振るう事態にならなかったことに、安堵の息をつく。最悪、骨折を覚悟してもらうようだったわね。間に合ってよかったわ。


 食材になる獣を狩りに出ていた聖獣達が帰還して、これから忙しくなる時間だった。料理ができる者を募ってあるから、獣を捌いて鍋で煮込まなくてはならない。明日の朝の分にしましょう。


 今夜は時間が間に合わないから、パンと野菜のスープだけ。牛乳でとろみをつけたら、お腹に溜まるかしらね。


「理由はなんだ?」


「配給人数を誤魔化して受け取ったらしいわ」


「処分しないのか?」


 アマンダは不正を許さないタイプよね。私だって文句は言いたいけど……。


「正直、手が回らないの。だから臨時行政府を作るわ」


 災害で領主が被災し、指揮を執れる者が不在の時に設置される。エインズワースでは当たり前のシステムだけど、この大陸は王家が腐ってたし……期待するだけ無駄ね。


「お兄様やお父様に頼んでくるから、お願い」


 これは思ってたより大変だわ。足りない食料を要請されたけど、人材も連れてくればよかった。ぼやきながら、叩きのめした二人を縛ってもらう。駆け付けた衛兵が手際よく片付けてくれたので、夕食に関する手配をすべてアマンダに任せた。


「任しておけ、野戦料理は慣れている」


 彼女が背負った剣の錆になる人が出ないといいけど。新しい領地が増えると、それ以上に面倒が増える。わかっていても、この大陸の人達を見捨てる選択は出来なかった。


 慈愛の精神なんてないわ。ただ……ミカの力になる大地だから、枯れて寂れた姿にしたくないのよね。エインズワース程じゃなくても、人々が幸せに暮らせる地であって欲しい。そうしないと、聖樹信仰も広まらないもの。


 野生の獣を慣らすより苦労しそう。言葉が通じるけど、話が通じない人っているわ。臨時行政府を任せられるような人材がいたかしら。人手不足が痛い。そうだ! 現地調達しましょう。こんなに人がいるんだもの、優秀な人もいるはずよ。


 人材募集の面接を提案すると決め、私は準備を整える。数日かけてお父様とお兄様達が面接や試験を行った結果……8人を選び出した。その中に、ケンカした若者が含まれていたことに、ちょっと驚いたけど。有能で不正をしないならいいわ。

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