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100.足りなければ借りればいいのよ

 食堂で先に待つ私は、濃緑を纏ったラエルに戦場の状況を聞いていた。すでに戦いが終わったことは、伝令役のパールが教えてくれた。お父様達がケガをしてないのも聞いている。でもエインズワースの騎士や兵士のこと、隣大陸の国民の状況が気になった。


 だって、食料支援が必要だなんて。こちらの大陸まで攻めてくるほど、国の財政に余裕があるのだと思っていた。逆だったとは考えないわ。それなら食べ物がなくて、エインズワースまで略奪しに来るつもりだったのかしら? かなり遠いのだけど。


「遠くても、略奪はもっとも早く食料が得られる方法ね」


 入室したお母様の発言は、物騒だけど事実だわ。持っている人から奪えば、すぐ手に入る。そのために命を危険に晒し、大陸を移動すると考えたら……リスクの方が大きい気がした。


「お母様なら、同じ状況でどうなさるの?」


 民が飢えていて、隣大陸は豊かな実りがある。執政者として尊敬する手腕を持つお母様の意見が聞きたかった。淡い水色のドレスを纏う母は、こてりと首を傾げる。こういう仕草が似合うのは、お母様が可愛いからよね。メイナード兄様も雰囲気や顔立ちがお母様似だから、羨ましいわ。


「他国へ攻め込む暇と余力があれば、国内の改善に注ぐけど……そうね。どうしても足りなければ借金をするわ」


「……借金」


 思わぬ解決方法に驚く。そこから母の考えを聞いて、納得した。


「帝国からお金を借りるの。返済のための担保は、領地でいいわ。だって私なら巻き返して返す自信があるもの。すぐに必要な分は購入するしかないけど、購入資金が潤沢なら民の飢えを解決できるわ」


「食料支援ではダメなの?」


「無理よ。欲しいものは自分達で選ぶわ。余った備蓄の管理状況では、恩だけ押し付けられる。それにね、購入するとなれば領地に商人が集まるわ」


 商人は空の荷馬車を走らせない。食料を運んでくれば、何かを回収していく。領地内の経済が回るという意味だった。ここが軍人とは違うところね。


 はっきり言葉にしないけど、お祖父様の管理が甘くて帝国の備蓄が半分もダメになった事件を匂わせるお母様。その備蓄を送られたら、無駄が多いのに恩だけ大量に負うことになるわ。


「貸してくれない場合は?」


「ふふっ、そこを貸すように仕向けるのが国主でしょ」


 近隣国の動向に目を凝らし、様々な恩を売り歩くお母様なら……脅してでも借金しそうだわ。悪どいように見えるけど、綺麗事じゃ政は動かない。


「お待たせしてしまった」


「アマンダ……と、え? あ、え……お久しぶりですわ。パトリシア様、フィリップ様」


 フィリップ様はすっかり大きくなられた。体はまだ小柄ですが、少年と呼べる雰囲気はありません。元王妃のパトリシア様の手をとり、エスコートする姿は立派でした。


「お招きありがとうございます、ジャスミン様。グレイス様はご婚約で、もうすぐ結婚式とお伺いしましたわ。お幸せに」


 微笑むパトリシア様のドレスは、お母様が用意したピンクで、レースがふんだんに使われた可愛らしいものでした。今日の装いは、淡い色の似合うパトリシア様に合わせたのですね。

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