09.平和な町フリーデン
扉から出ると綺麗な森が広がっていた。
小鳥のさえずりと川のせせらぎが聞こえてくる。先程までいた終焉の大地とは同じ世界に思えないほどの違いだ。
「ここはフリーデンの近くの森だ。そしてあの木の向こうにに一際大きい建物が見えるだろう? あれがフリーデンの役所兼冒険者ギルドだ」
「そこにわたしの知り合いのガルバスという男がいる。もう引退しているがわたしと同じSランク冒険者だった男で、現在冒険者ギルドの最高責任者だ。頼りにするといい」
「紹介状を渡しておこう。わたしの知り合いだと分かれば話も通りやすいだろう」
「その言い方だとレイラはフリーデンに一緒に行かないのか? そのガルバスって人と知り合いなんだろ? 会わなくていいのか?」
「自分で言うのは恥ずかしいんだが、わたしがフリーデンに行くと人だかりができてしまうんだよ」
「それにガルバスが……いや、なんでもない。それよりわたしは終焉の大地で、やるべきことがあるので戻らなければならないんだ」
カルナが分かりやすいように落ち込む。
「レイラともうお別れなの?」
「カルナ、そう落ち込まないでくれ。永遠のお別れって訳じゃないんだ。それに、君達2人にはこれから色々な場所で巡り会うとわたしの直感が言っている」
「わたしの直感はよく当たる。これからも会えるさ! それじゃあケーゴ、カルナ。達者でな!」
レイラがそう言って扉の中へと消えていった。
俺とカルナの2人はレイラを見送るとフリーデンへと歩みを進めた。
行く途中カルナがフリーデンがどんな場所なのかを教えてくれた。
「今から行くフリーデンは、【多種族多国千年年協定】によってできた町なの」
「多種族多国千年協定?」
「そ! 名前の通り色んな種族の国々が千年間は争わず協力していくって協定で、この世界のほとんどの国がこの協定に参加しているわ」
「ほとんどってことは参加してない国もあるのか?」
「世界の最北端にあるノースナルド帝国、それから鎖国状態である秘密国家アンビサーダの2国は参加してないわ」
「アンビサーダは鎖国しているからわかるけど、ノースナルドは参加しない理由がよくわからないわね。世界がこんな状態なのに戦争でもする気かしら」
「とにかく、この協定に参加している多数の国が協力して作られた町だから、どこの国にも属さないの。色んな種族と国籍の人がこの町で暮らしているのよ」
「人種差別もないし、大きな争い事もない平和な町なのよ!」
なるほど、俺たちの世界も見習って紛争などを無くして欲しいものだ。と、感心していながらフリーデンの情報を聞いていると町の入り口に着いた。
入り口の門には沢山の国旗が飾られている。協定に参加している国々の国旗であろう。その門を抜けると綺麗な街並みが広がっていた。
街道には普通の人間の他に、耳がとんがっている人、獣の耳や尻尾がある人や頭から角が生えている人など、多種多様な人種が行き交っている。
なんともファンタジーな光景だ。
レイラが言っていた建物に着いた。中に入ると、鎧やローブを着た人達がいる。多分冒険者の人達だろう。
受付と書いてある場所にウサギの耳が生えた女性がいる。彼女に問い合わせしよう。
「あの〜すみません。お尋ねしたいことがあるんですけど」
「はい! わたくし、受付を担当しているコリーと言います! ここに来たのは初めて……ですよね? ご用件はなんでしょうか?」
「ガルバスって人に用事があってきたんですが……」
「ガルバス管理長は現在立て込んでおり、お会いすることができません。急ぎの用でしたら自分から伝えておきますよ?」
「急ぎの用って訳ではないんですが……よかったらこれを渡してもらえますか?」
俺はレイラから貰った紹介状が入った封筒を渡した。すると封筒に記してある名前を見て、驚いた声が建物に響いた。
「レ、レ、レイラさんのご友人ですかぁぁ!?」
その声に反応する様に、建物にいた冒険者達の視線が俺とカルナの2人に集まる。
「しょ、少々お待ちください!」
コリーは急ぐように受付の裏に急いで消えていった。冒険者達の視線を痛いほど感じながらコリーが戻ってくるのを待つのであった。