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01.プロローグ

 「売れないモノマネ芸人が異世界を救う!?〜俺がこの世界で英雄と呼ばれるまでの物語〜」英雄伝説の開幕です!

 都心の路地裏にある小さなお笑い劇場、ここが俺の唯一のホームグラウンドだ。客席はガラガラだが、常連客がチラホラといる。

 芸人が7人しかおらず、ベテランは辞めるか売れるかのどっちかなので、若手が多い。売れ残った俺は最年長という理由だけでトリを任されている。最年長といっても、28歳だが……

 舞台が暗くなり始めたら、首を2回鳴らし大きく息を吸う。こんな俺でもルーティンくらいあるのだ。

 そして、音楽とともに手を鳴らしながら小走りで登場する。



 「はい、ど〜も〜! 宮野ケーゴで〜す」

 

 「え〜、いつも通りモノマネをはじめて行くんですけども、リクエストはありますか〜? じゃあそちらの男性からどうぞ〜!」

 

 「­­ ────どうも、ありがとうございました〜!」



 そうやってネタが終わると小さな拍手の音の中、舞台袖に戻っていく。

 悲しいがこれが俺の日常である。

 

 楽屋で帰る準備をしていると、後輩芸人の1人が話しかけてきた。

 


 「宮野せんぱ〜い! これからみんなで飯食い行くっすけど、先輩も来るっすか?」



 ……正直行きたくない。若い子たちの話についていける気がしないし、なにより飯代を奢らなければならなくなる。それだけは勘弁なので、ここは断ろう。

 

 

 「お前達だけで行ってこいよ。俺みたいなおっさんがいたら邪魔だろ? 家で嫁が待ってるし、早く帰らなきゃ行けねぇんだよ。ほんじゃまた明日な!」


  

 そう言い残して颯爽と帰る。

 これが大人の対応だな。と、1人で満足しながら歩いていると後ろから後輩芸人たちがグチグチと俺の悪口を言っているのがかすかに聞こえる。

 せっかく気を遣ってやってんのにだの、金ないだけだの、しまいには、ああいう芸人にはなりたくねーよなぁ、と。

 引き返して殴ってやりたい気持ちは山々だが、図星のところがチラホラあったので怒りより哀れな気持ちの方が膨らんだ。



 そういえば、さっき後輩芸人に嫁が待っているなんてことを言っていたが、本当は嫁なんていない。なんならバキバキの童貞である。

 芸歴10年28歳宮野ケーゴ、未だアルバイト生活からも抜け出せない売れないモノマネ芸人、ここに独身で童貞なんてことプロフィールつけたら舐められるしかなくなる。

 そう、俺はプライドを持って嘘をついている。これは、悪いことでも悲しいことでもない。誇りを持つべきだ! 

 

 そうやって自分に言い聞かせながら歩いていたら、俺が住んでいるアパートに着いた。

 築60年、花月荘。花月とは金のなる木と言われる植物だが、そんな名前を持っているとは思えないボロアパートである。

 このアパートには上京した18歳の頃からずっと住んでいる。風呂無し4畳半だが、近くにスーパー銭湯があるし、1人で生活するのは4畳半くらいがちょうどいい。外見はちょっとあれだが、住めば都なのだ。

 そしてもう1つ、長く住んでいる理由がある。

 

 ピーンポーン……とインターホンがなった。俺が扉を開けると、そこには銀髪ロングの美人が立っていた。


 

 「ケーゴさんお疲れさま! これわたしが作った肉じゃが。お口に合うかわからないけど、よかったら食べて?」



 彼女の名前は碓氷カルナ。花月荘の元管理人である碓氷トメの孫で、花月荘の現管理人だ。

 25歳の頃、俺は芸人を諦め田舎に帰ろうと思っていた。そんなとき、トメさんの孫であるというカルナが管理人見習いとしてやってきた。当時大学4年生の彼女に俺は不覚にも一目惚れしてしまったのだ。その時から絶賛片想い中である。

 

 

 「ありがとうカルナ。今日も夕飯カップ麺にしようと思っていたから助かるよ」


 「もう、ずっとカップ麺とコンビニ弁当ばかりだと体壊すわよ? 体壊したら元も子もないでしょ? じゃあまた明日ね!」


 

 ニコッと微笑んでカルナは帰っていった。彼女と話すだけで日々の疲れが癒される。

 

 肉じゃがが入った容器を開けると、醤油の優しい風味がほのかに香る。我慢できずに器に移す前に箸でつまみ、ひと口食べた。



 「う〜ん、おいし…………ぐッ!!??」


 

 一瞬だった。強烈な吐き気と悪寒、さらに頭痛、腹痛、目眩。やばい、これはほんとにやばいやつだ。俺は床にうずくまる。カルナの料理が腐っていた? いや、腐った牛乳を飲んだことがあるが、こんなにすぐに体調は悪くならなかった。それ以前にこの料理は最初、美味しく感じたんだ。思考が駆け巡る。



 (俺……死ぬのか?)(こんなとこで死ぬならカルナに告白しとくべきだったなぁ)(親に一言謝りたかった)(童貞も卒業してねぇのにあんまりだ……)



 そう考えるうちにどんどん意識が遠のいていく。そして目の前が真っ暗になった。

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