タバコ
夜のとあるマンションのベランダにて、男と女は何やら言い争いをしていた。
「ねぇ!やめるって言ったじゃん!」
女は涙ながらに訴えた。
「はいはい。すぐにやめるって」
その隣で気怠げに男はタバコを燻らせている。
あまり美味そうな様子ではない。
「そう言ったっていつもあなたは…」
女はそう言って肩を震わせ俯いた。
男だってやめれるものならやめたい。
だが、やめれないから困ってるのだった。
いくら愛する人がそう言ってもタバコの誘惑には敵わないのだ。
「もういい。なら私も吸う。あなたの気持ちを少しでも共有したいわ。そして2人でやめましょう」
女は吹っ切れた様にそう言うと男のポケットに手を入れ、タバコの箱を掴み取った。
だが、すぐに男は女の手に握られたタバコの箱を奪い返した。
「ねぇ…どうして…」
そして男はそれをベランダから外へと放り投げ、続けて咥えていたタバコも投げた。
「タバコやめるよ」
男はそう言い残して肌寒い風の吹くベランダを後にした。