ヒロインと攻略対象に、この世界が『舞台』だとバレました(笑)
「終わりだ魔王! この世界を、絶望に覆わせはしない!!」
「グワアアアアアアーーーーーー!!! ・・・フフフ、見事だ勇者たちよ。
せいぜい、平和な世を謳歌するがよい! ハハハハハ!!」
勇者たちの全ての力を合わせ、注ぎ込んだ巨大な光の剣が魔王を貫き、邪悪な気配はこの世から消え失せた。
この世界を手中に納めようと目論んだ、魔王、エンダー・ダークネスは、その邪悪な魔力を用いて、次々と僕を生み出し、人間たちを恐怖と絶望で支配するために侵攻を始めた。
だが、その魔王の企みを阻止せんと、神に選ばれし六人の勇者が立ち上がった。
リチャード・ロンバルディア ーーー ロンバルディア王国の王子にして、次期国王。
レックス・グリーツ ーーー 考えるよりも行動が先に出る、力自慢の騎士。
アビィ・ゴルビー --- メンバー最年少ながら、高い癒しの力を持つ治療士。
ゼノビア・ケーファ --- 口数の少ない、凄腕剣士。
ランクス・ネルソン --- 王国一の頭脳にして、数多の魔術を扱う賢者。
そして、もう一人・・・
サクラ・ブロッサム --- メンバー紅一点。 平民の出ながら、聖女としての高い素養を持つ少女。
この六人の内、誰か一人でも --- リチャードの勇気が、レックスの力が、アビィの癒しが、ゼノビアの剣技が、ランクスの知恵が、サクラの聖なる力と仲間を励まし元気づける慈愛の心が
--- 欠けていたならば、魔王を倒すことは叶わなかっただろう。
激闘を終えた彼らは、今、王国の祝賀パレードに、救国の英雄として参列し、民たちからの希望に満ち溢れた笑顔と声援を一身に浴びている。
リチャードは、その傍らにサクラを立て、檀上に上がる。
魔王討伐に多大な貢献をした彼女を称え、この国の王妃として迎え入れる、と、高らかに宣言した。
ここに、人々の待ち望んだ平和が蘇ったのである。
栄華な祝賀パレードから、三日後・・・
ゼノビアとランクスの二人から呼び出された、仲間たちはーーーーーーー
ーーーーーーーゼノビアの口から、衝撃の事態を聞かされた・・・・・・。
「魔王の奴らが、生きている」
仲間たちに、衝撃と困惑が走る。
そんなはずはない、確かにあの時、魔王を討ち払ったはず・・・
そして、よしんぼ生き残っていても、魔王から生み出された彼らが、生きているはずがない・・・
なにも言葉を放さずとも、表情がそう物語っていた。
ランクスが、仲間を落ち着かせて、事情を説明する。
「ゼノビア、そんな言い方ではみんなが混乱するだろう。
先日の祝賀パレードを覚えているな?」
「あ、ああ。 今も民たちはその熱を保っているからな」
「その最中、私は、人々の中に、異質な気配を感じ取ったんだ。 そしてその方向を探知すると・・・
死んだはずの魔王四天王のやつらが、雑踏に紛れて立っていたんだ・・・!」
ランクスは、自分でも今でも信じられないといった顔をする。
自分と同じ表情の仲間たちを見て、ランクスは話を続ける。
「そのことに気付いたのは、私とゼノビアの二人だけだったんだ。
混乱を避けるために、今日まで内密にしていたというわけなんだ」
「その後、彼らはなにかしましたか?」
「いや、こちらが察知していることは分かっているはずなんだが、ただ、じっとこちらを見ているばかりでね。
その後、リチャードのサクラとの婚約を発表したら、その場から立ち去っていったよ」
「彼らは一体何を企んでいるのでしょう・・・?」
「魔王の奴らの考えることなんて、禄でもないことに決まってるさ!」
「とにかく、奴らが生きて、この国に潜り込んでいるなら、警戒を強めなければならない、なにかあったらすぐランクスに連絡して、テレポートで連絡した者のところに集まるように」
ーーーその僅か、30分後・・・
リチャードの連絡を受け集まった仲間たちは、魔法で気配を消し、物陰から様子を見るとそこには・・・
「・・・・・・ヒューズ・・・兄さんだ・・・!」
「おい、リチャード。 お前の兄貴は確か・・・」
「分かっている・・・! 分かっているが・・・」
レックスの言葉にリチャードは答えるが、それでも目の前の光景はーーー死んだはずの兄、ヒューズがそこにいることは変わりなかった。
ヒューズは、リチャードの兄で王族だ。
だが、ヒューズは魔王の側に着き、魔人コンヒューズとして、彼らの前に立ちはだかったのだ。
それでも真実は、魔王の洗脳から弟を守るために自らを身代わりにし、それをリチャードに伝え、弟の腕の中で息絶えた・・・・・・はずだった。
今、彼らの目の前には、ヒューズが何食わぬ顔で場内を歩き、使用人にも普通に声を掛けられているーーー混乱を防ぐため、ヒューズが寝返ったこと、死んだことは勇者たちによって内密にされているーーー姿だった。
勇者たちは、そのままヒューズの後を尾行した。
ヒューズは、宝物庫の中に入ると、奥にある大きな宝箱の下に隠してあった階段を下っていく。
こんなところに隠し通路があることを、王族のリチャードでさえ、知らなかった。
階段を下った先には、薄暗い倉庫があり、その中を探索すると、ヒューズを見つけたので、勇者たちは、物陰に隠れ、様子を伺った。
ヒューズは、二体の鎧に守られた黒い扉の前に立っていた。
鎧は、人の気配がなく、それが魔物であることは、明白であった。
「合言葉をどうぞ」
「はいはい、『魔王様ばんざい』、だろ?」
「どうぞお通りください、コンヒューズ様」
「あいよ、ご苦労さん」
腕を胸に当てた敬礼をする鎧を後目にヒューズは、扉の奥に進んでいく。
扉が、ギィ、バタンと閉まる。
「あの喋り方に態度、生前のヒューズさんにそっくりですね・・・。 もしかしたらあの後生きてらしたのかも」
「とにかく今は、ヒューズ兄さんを追おう」
勇者たちは、気配を表すと、扉に近づく。
鎧が互いの槍を扉の前で交差し、道を塞ぐ。
「合言葉をどうぞ」
「『魔王様ばんざい』」
「合言葉を確認しました。 どうぞお通りください」
ヒューズが先ほど口にした合言葉を言うと、鎧たちは特に警戒もせず、道を開けた。
黒い扉が、独りでに開き、勇者たちは、先へ進んだ。
「おかしい・・・。僕たちを疑いもせずに通すなんて、怪しいですよ」
「私も、罠の可能性を考えている。 だが、今は先に進むしかあるまい」
「ま、俺たちにとっちゃ、連中の小細工なんて、もう通用しねぇけどな」
通路を奥まで進むと、また黒い扉が現れた。
だが、勇者たちは、迷わずその扉を開けた・・・。
扉を通ると、広い空間に出た。
先ほどまでいた部屋を、円周にぐるっと回るように通路が広がっており、足元には、白い光が点々と等間隔に光っていた。
魔王の城を踏破し、恐れを知らない勇者たちは、ずんずん先に進んでいく。
通路を進んでいくと、なにやら光が見えた。
黒い壁、灰色の床、白い光の無機質で不気味な雰囲気を一掃するかのような暖かな光だ。
その光は、大きく開け放たれた扉の中の部屋から出ていた。
勇者たちは、気配を消し、扉の影から慎重に部屋を覗くと・・・。
そこには・・・・・・
・・・・・・・・・目を疑うような、あり得ない光景が広がっていた。
暖かな光が照らす、部屋の中では、パーティが開かれており、賑やかで楽しい雰囲気と、美味しそうな料理がテーブルの上に並べられたいる。
だが、勇者たちが驚愕したのは、そのパーティの参加者たちだった。
「皆さん、本日は『ラブ・ファンタジア』の撮影終了、お疲れ様でした。 そして、おめでとうございます」
檀上に上がって挨拶をしているのは、魔王軍の死神副将として恐れられていた、プリシエラだ。
だが、彼女は、ほんの数日前に勇者たちの手で討伐されたはずだった。
(あれは! 死神副将・プリシエラ!? なぜ生きている!?)
(待て! 他にもいるぞ!)
討ち倒したはずの敵将の生存に動揺する勇者たち。
だが、生き返っていたのは、プリシエラだけではなかった。
「いやー、久々に戦いが出来て楽しかったけど、大変でもあったなー。 なんてったって、一発撮りだからなー」
そう朗らかに話すのは、魔王四天王の最後の一人、デッドエンドだ。
(デッドエンド・・・、祝賀パレードの時にもいたな。 生きていたか・・・)
デッドエンドにトドメの一太刀を浴びせた、ゼノビアが、忌々し気に呟く。
「俺はスパッと楽に終わったけどよー、お前ら撮影で大変だったことある?」
「あー、あたし、演技の方ですっごく苦労した! 登場から、戦ってる最中まで、退場するときも泣き続けなきゃいけなかったのは、すごく難しかったなぁ、あはは!」
笑い交じりで喋るのは、同じく魔王四天王の、エンドレスソローだ。
(エンドレスソローが笑ってる・・・! すごい不気味だ・・・!)
彼女の精神攻撃に苦戦させられた、アビィが、笑いながら泣いているエンドレスソローにゾッとする。
「四天王戦で一番大変だったのは、自分だと自負しております。 切られてやられて退場、と、思った矢先に、『切り込みが足りない!』、でしたからねぇ。 スタントマンの準備が整うまで、時間稼ぎしなければならなかったのが皆さんも大変だったと思われます」
頭を掻きながら話すのは、四天王三人目の、カースドジークだ。
(な、なんで生きてんだよ!? あの時真っ二つにしたはずなのに!?)
彼にトドメを刺したと実感しているレックスは、大きく混乱した。
「あっはっは! あれね? もうすでに死んでたあたしとインフェルノも参加して、準備まだ?準備まだぁ? ってもう、舞台裏で大騒ぎしたのが、今思い出したら可笑しいのなんの!」
「ああ、そうか。 あれがあったから、俺の時に、スタントマン用意しようってなったのか。
で、お前はなにかないのか、インフェルノ?」
「いや、俺も自分の時には何も。 大変だったのはやっぱジークのときだろ! 俺、奴らの目の前で爆発したのに、どの面下げて顔出せばいいか分かんなかったからよぉ! マジで!」
そう話すのは四天王で最初に戦った、フューリーインフェルノだ。
(まさか・・・、魔王四天王が、全員生きていたとは・・・!)
ランクスは、四天王全員の生存を見て、青ざめた。
「インフェルノ殿、スタントは自分でやると言ってましたもんね。 インフェルノ殿とソロー殿が上手くいって、自分の番で気のゆるみがやはりありましたね」
「炎の精霊だから頑丈なんだよな、インフェルノは。
よし、ヒューズ、お前今シーズンで人気爆上がりしたろ? なんか苦労話ないのか?」
「いんや、特には思いつかないなぁ。 あ、強いて言えば、セリフを噛んだり忘れたりしそうな心配はあったな」
リラックスした様子で、ヒューズは、酒を飲みながら答える。
「そんじゃあ、三魔将の方はどうだ?」
「そうですわねぇ、手加減出来ずに人間を殺してしまうかもと、思ったことはありますわね」
三魔将の一人、ジムーニの森で暴れていた、ヘルローズがそう答える。
「あなた方は、そうしたことはありませんの?」
「俺はただの山のフリして待ってるだけだったから、特には。 攻撃も岩投げたり溶岩飛ばしたりだけだからな」
砂場の砂山サイズにまで縮んだ、デスマウンテンが頭から煙を出しながらそう言う。
「攻撃ガ、致命傷二、ナラナイ軌道ヲ、常二計算シテ、オリマシタ」
キリングマシナリーは、機械らしく淡々と答えた。
このように、勇者たちが、これまで戦って討ち倒した魔物たち全員が、パーティに集まってワイワイガヤガヤと賑わっていた。
勇者たちは、今まで倒してきた強敵たちが、何故生きているのか。
何故、こんなに楽しそうに笑顔で溢れているのか、全く解らず困惑していた。
そんな彼らの心情を、さらに悪化させる事態も起きた。
「イエーイ! 皆の者、楽しんでるかーい?」
陽気な声でステージの端から登場したのは、
なんと、あの魔王、エンダー・ダークネスではないか!
(魔王だと!? そんなバカな!? 確かにあの時、体を貫いたはず・・・!)
(まさか・・・まさかとは、思っていたが、やはり魔王も・・・!)
(僕たち全員の力を合わせて、やっと倒したのに、倒し切れてなかったのでしょうか!?)
かつて、魔王城での、死力を尽くした激闘を制し、勝利した最大の敵が、何事もなかったかのように生きていたということに、勇者たちは、まさしく絶望の表情を浮かべた。
魔王が登場し、その配下の魔物たちは、歓声をあげる。
「おお、魔王様! お疲れ様です!」
「うむ! 皆、大儀であったな。 今日の宴のために、特別ゲストを呼んでおいたぞ!」
そう言うと魔王は、その人物に手招きをして呼び寄せる。
ステージの端から出てきたのは、髪を長く伸ばし顔を半分隠した、悪魔の翼と尻尾らしきものを生やした少女だ。
勇者たちは、何者かと首をひねり警戒したが、その少女の放つ気配に、身に覚えのあるサクラとリチャードは、その正体を見破り、驚愕した。
「第1シーズンのラスボス、悪役令嬢の、ローズマリー・ローズヒップちゃんでーす!」
魔王が、出てきた少女を、陽気な口調で紹介し、会場から拍手が沸き起こる。
一方、その正体が明らかになった勇者たちは、それに驚き、リチャードとサクラも確信と驚愕で溢れていた。
(ローズマリー、さん・・・!?)
(彼女は・・・ローズマリーは一年前に、死んだはずだ・・・!?)
ローズマリー・ローズヒップは、かつて王国に存在したローズヒップ家の公爵令嬢で、リチャードの『“元”婚約者』であった。
だが、彼女は、平民出身のサクラに、犯罪まがいの嫌がらせをし続け、その最後は、ローズヒップ家の数々の悪行が明らかになり、実家は滅亡、彼女自身もリチャードから婚約破棄を言い渡され、地下牢に幽閉、その後、獄中死したことが伝えられた。
魔王が現れたのは、ローズマリーが死亡してすぐのことだった。
「あ、あの・・・。 こんな魔王軍のすごい方々と私が、ご一緒してもよろしいのでしょうか?」
しかし、勇者たちが今目にしている彼女は、かつての悪役令嬢ローズマリーとはかけ離れていた。
生前のローズマリーは、傲慢で我が儘、すぐに他人に当たるような人物だったが、
目の前の少女は、物腰柔らかな口調で、おどおどした印象を受けていた。
「いいのいいの、そんなん気にしなくてもー。 マリーちゃんて、ファーストシーズンだけの登場なのに、今でもすごい人気者だもんねー」
「あの番組に出てこんなに人気が出るなんて、俺たちと同じくらい凄いやつだってことだよ」
「最新ノ、人気投票、集計結果デハ、魔王サマ、ヒロイン・サクラ、王子・リチャードヲ抜キ、1位ヲ長期間独占シテオリマス」
「あうう・・・。 なんだか、恥ずかしいです・・・」
「おっ、いい顔すんねぇ。 その演技と素のギャップも人気の秘訣かな?」
極悪非道で知られる魔王軍全員から高い賞賛を受けて、ローズマリーは気恥ずかしそうに俯いた。
(リチャード、いつまでもこうして、蘇った悪魔共を遠目から見続けるわけにはいかないぞ)
(分かっている。 魔王は、この世界の人間全てに害をなす存在、あの時完全に倒せてなかったとしても、今、今度こそ完全に消滅させればいいだけだ!)
(過去に倒したことある奴らも大勢いるが、関係ねぇ! 全部まとめてぶっ倒すだけだ!)
(はい! それに今なら、復活直後で、力も弱まっているはずですし、この機を逃す気はありません!)
(僕たちなら、もう一度、何度だって、やれます!)
(・・・その通りだ)
(よし、みんな行くぞ! 一気に部屋に突入して --------- ・・・! 待て、誰か来る!)
一度倒した相手をもう一度倒さんと闘志を奮い立たせ、再度の決戦に挑もうとする勇者たちに、水を差すように、通路から別の魔物が近づいてきたため、勇者たちは、扉から離れた。
「お待たせしやしたー、最新話分のエピソード記録したディスク持ってきやしたー」
「おっ、来たな。 んじゃ、思い出振り返りとしゃれこみますか」
勇者たちが、今まで見たことがない魔物が、部屋に入ると、手にした白い箱から、なにやら、銀色の円盤を取り出す。
照明の光を受けて、鈍く虹色に光るそれを、黒い箱の中に入れると、暖かな光で照らされた部屋が、深淵の闇のように暗くなっていく。
(奴ら、一体何をする気だ? ・・・だが、部屋を暗くしてくれた今がチャンスだ。 奇襲して一気に・・・)
勇者たちが、そう思った矢先・・・
突然、パッ、と白い光が暗闇を照らした。
そして、白く四角い光の中に、徐々に空色が、映し出され・・・
ーーー 澄み渡るような青空に、桃色の花びらが、吹雪のように舞っている。
暖かな太陽の光を浴びた街道を、真新しい学生服に身を包んだ一人の少女が、うきうきした様子で歩く。
とても楽しみで、はやる気持ちを抑えきれないといった様子で、スキップをして、舞い散る花びらと同じ色の桜色の髪をなびかせ、辿り着いたのは、大きく豪奢な造りの巨大門の前。
王国一と名高い、由緒ある魔法学園 ーーーーーー 「聖オズヴァルド学園」の正門である。
「ここが、聖オズヴァルド学園・・・! 今日からここで、私の学園生活が始まるのね・・・!」
目の前に開かれた、名門校の校門を前に、少女は -----
「サクラ・ブロッサム」 は、独り言ちに呟いた。
そして、楽しさや幸せに溢れているであろう、希望の未来に向かって、学園の門をくぐると・・・
・・・・・・思いっきり転んだ。
何人かの生徒が、何事かと心配して、サクラに駆け寄ろうとした。
だが、何かの気配に気付き、恐ろしいものを見たようにその場から動かなくなる。
何故なら、春の穏やかな空気に似つかわしくない、とげとげしたオーラをまとった、貴族の女が、今だに地面にへたり込んでいる、平民の少女に近づいていたからだ。
「オーッホッホッホッ! なんですの、あなたは? ここは選ばれし人間にのみ開かれた神聖なる学び舎。 あなたのような薄汚い庶民が、いて良い場所ではなくってよ?」
空気を裂くような高笑いと、嫌味を発したのは、この国で一、二を争う程の高い地位を持つ家、ローズヒップ家の公爵令嬢、「ローズマリー・ローズヒップ」である。
その後も、サクラに対し、己との身分の差、的外れな批判や心無い罵りの言葉を吐き捨て、早期の退学を薦めるように言った後、取り巻きを引き連れ、嘲笑しながらその場から離れていった。
ローズマリーの言葉を受け、サクラは、思いつめた表情で、その場から動けずにいる。
そんなサクラを、遠巻きに動けずにいる他の生徒たち、その中から、一人、高貴な気品ある雰囲気をした生徒が、サクラに歩み寄り、地面に膝をついてその手を取った。
「全く、ローズめ。 あんな事を言わなくても良いだろうに・・・。
大丈夫かい、君? この学園は、この国の全ての身分の人に開かれている、自由で平等な場だ。
身分の違いなど、気にしなくてもいい」
サクラを優しく励まし、立ち上がるのを助けた、男子生徒は、その場から立ち去ろうとした。
「あ、あの! あなたのお名前は・・・」
「リチャード。 この学園では、ただのリチャードだ。 では、機会かあれば、また会おう」
突然映し出された映像に、自分たちの仲間の姿が映り、勇者たちは困惑したが、サクラとリチャードは、さらに混乱していた。
なぜなら、今見た映像は、本人たちが実際に体験し記憶している場面と全く同じだからだ。
情景に場所、人物の顔や仕草、発した言葉・・・
自信の体験した記憶とは、視点は異なるが、その光景は、二人の記憶と全て一致した。
当事者たちに、謎を残したまま、映像はさらに進んでいく・・・
入学式や、教室での顔合わせ・・・
さらには、特定の人物同士しか知りえない場面も映し出されていた。
レックスとゼノビアの決闘、
鬱蒼とした森で集団からはぐれ、協力して戦うアビィとサクラ、
兄ヒューズに、自信の思いを打ち明けるリチャード、
さらには、サクラへの贈り物を購入するランクスの姿まで・・・
本人たちにしか分からないような情景が、まるで当事者として見てきたかのように映し出されていた。
勇者たちは、自身の行動、そして、仲間の知り得なかった素顔を見て、混乱した。
特にサクラは、皆気にはしていなかったが、自分の身の回りで起こった出来事を、答え合わせするかのように見せつけられ、背中に寒気を感じていた。
まだ、未完成です