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Diamond Lilly

作者: H∀RUゞ

「この石は…」




透き通る紅い瞳をした彼女がそっと僕の首に首飾りをかけながら言った。

「この石は私の住む国でとても大切なもので、身につけることで悪いものを近づけないようにするの。昔お父様がその石を使って龍を封じこめたこともあるの。その首飾りの名は...」


大切な所がわからないまま目が覚めた。

あの時の君は今どこで何をしているのだろうか?

はるか昔の幼少の記憶を最近よく夢に見る。

いつになってもこの首飾りの意味がわからないままだ。


2本の剣を背負いゆっくりと腰を上げて歩みを進めた。

陽の光に当たる首飾りの石はどこまでも澄んだ青で小さく光を放っていた。




ここは緑豊かな自然に囲まれた人と、妖精が住む国

今日は国を上げての祭りの日。


この街ではたらく酒場の娘は皆に親しまれ、その日の始まりを飾る歌を歌うことになった。

羽を広げ、空に舞う。人は誰もが彼女の歌う姿が美しく、可憐で、目と耳が奪われてしまうほどだった。

花吹雪が舞い、彼女が羽ばたけば輝く鱗粉が舞う。

妖精には"言霊"を操る力があり、この国の妖精達は皆歌う事で癒し、時に傷つけ、その力を使って人との共存を行っていた。

旅人は長い旅の疲れをこの街で癒すことにした。

国王は街のものから双剣を背負った旅人が訪れていることを聞きつけ、すぐさま城に呼び、ある悩みを旅人に口にした。


それは近年隣国で紛争が起こり武器の生産間に合わず、この国の"ある資源"を狙い奪い取ろうと盗人が耐えないという、さらにどうやら紛争を巻き起こした黒幕がこの国に潜んでいると知らせもあり、大事に至る前に対処したい。


との事だった。



羽休めもさながら疲れを癒して貰えた義理もある旅人は、

その頼みを聞き入れ、請け負うことにした。


国王はほっと一息ついたあとこう続けた。

「実は私の娘が長い間帰ってこず国中に捜索依頼を出しているのだが見つからないんだよ。噂では西の国境にある街で姿を見たという話もあった。事のついでなのだが頼まれてはくれぬか。」


旅人はその頼みも受け入れ西の国境を目指すことにした。




街を出る際、鍛冶屋に寄ることにした。長い旅だったのもあり、打ち直す必要もあったため国王の紹介ともあり無償で打ってもらえることが出来た。

鍛冶屋の店主は剣を見て唸った。

それもそうだ、2本ともに形が違うのだから

店主は少し心踊らせたのか目を輝かせ旅人に言った。


「長年多くの器を打ってきたが双剣使いで形も属も違う剣を持つ者は初めてだ…。旅の方よ、もしや元々剣は1本しか持ってなかったのじゃないか?」



鍛冶屋の店主が言い当てたように旅人の2本の剣は元々それぞれ1本の刀だった。


右手に持つのは、幼少時代をすごした村の宝でもある"白水晶(シロスイショウ)"を使った白く汚れを知らない輝きを持った無属の剣。

名は「白雪」


左手に持つのは、風を操り、一振で遠く離れたものをも斬ることが出来る"飛翔石(ヒショウセキ)"を使った澄んだ緑に包まれた風属の剣。

名は「鎌鼬」


剣の名を聞いた鍛冶屋は震えた。

「白雪…、確かその剣は持ち主の愛するものを捧げることで剣としての本来の力を発するという妖刀、そしてこの剣はもう既にその力を持ってい る。もう一本の剣はもしや…。」

店主はそこで口をつぐんだ。



5年前の事だった。

旅人が住んでいた村の人達は山の洞窟に住む岩のように硬い皮膚を持った野獣に日々恐れながら暮らしていた。

倒すには「白雪」が必要だった。

だが本来の力を発揮するには誰かを手にかけねばならなかったその剣は誰も手に取ろうとはしなかった。

その村にはもう1人「鎌鼬」を使う剣士がいた。

だが風属の剣では固い岩属の皮膚には傷一つつかなかった。

その剣士は旅人の兄であり、師でもあった。

父を早くになくした旅人にとっては兄が父のような存在でもあり、いつも護り、尊敬し家族として何ものにも変えられない存在だった。

ある日を境に野獣は村を襲い始めるようになり、兄1人の手では抑えきれなくなっていた。


「アレを倒すにはあの剣を使うしかない…。」


白雪を手にした兄は旅人に向かって優しい声でこういった。


「この剣は持ち主の愛が強ければ強いほど大きな力を持つ。お前は優しい、いつも私を気にかけてくれた。私だけではない。村の人間全てを愛していた。この剣を扱えるのはお前しかいない」


震える手は自身の弟にとてつもない十字架を背負わせることと、自ら口にしたことの意味を知っていることを表していた。



「白雪」は"愛するものを手にかけることで力を発揮する"



右手に持つのは白き剣「白雪」

左手に持つのは深緑の剣「鎌鼬」


野獣を倒した旅人は村を救うことが出来た。


旅人の住む村の名は"コドク村"





鍛冶屋で剣を打ち直した旅人は街をあとにし、西の国境を目指すことにした。

旅を続けるうちに黒幕の情報は増えていった。小さな村から大きな街まで、どうも最近増えている争い事には全て同じ人間が関わっているようだ。

しかし、知れば知るほど何かと不可思議な点が多かった。

それは行方不明である国王の娘と共通点が多いこと。

旅人は不安を抱えながらも先を進むことにした。



西の国境の街は妖精達が陽気に歌い、酒を酌み交わす"ウィスキー"の聖地でもあった。

その街の酒場ではどこかで見た顔があった。

綺麗な羽、フェアリーの娘。

祭りの際に空を舞い、人を魅了した彼女だった。偶然の再会に相手も気づいたようで話は弾んだが、

ふとこの街には最近悩み事があるそうだった。

それは人を食らう竜が山に住み着き、国の守り神とも呼ばれるウィスキーの元となる"ある資源"が取れなく、困っているという悩みだった。

その龍は山を焼き、人を寄せ付けようとしなく、その存在は街の人間にとっては天災そのものだった。

国王は昔龍をこの街の山のある地の、地下深くに封印したという今となっては伝説のように語り継がれた話があったが、どうも噂ではなかったらしい。

旅人は黒幕との関係性もあるのではないかとその龍を調べることにした。街の悩みをなくす為にももう一度龍を封じたと言われる国王の伝説についても街の妖精達に聞いて回ることにした。


龍は炎を吐き、1度羽を羽ばたかせれば大木をもなぎ倒す力を持つ炎属の頂点に経つ存在であった。昔国王はその龍を青く光輝く国の宝剣とも呼ばれる海属の剣で龍を山の洞窟の奥深くに封じ込めたという。確かに国王の玉座の横には青く輝く、大きな剣が掛けてあった。


その剣の素材がこの妖精の街で大切な資源として、尚且つこの国で国宝とも、呼ばれている"海王石"だった。

妖精は旅人の首飾りを指さし、その首飾りもどうやら"海王石"でできているようだといった。


「この石は私の住む国でとても大切なもので、身につけることで悪いものを近づけないようにするの。」


旅人はある少女の言葉が頭をよぎった。


青く光る首飾りは小さく揺れた。

旅人は情報を集め終わり、その山に向かうことにした。


その時は思いもしなかった。

想像もしない終わりに向かうことだとも知らずに。





山は焼け、草木は死に。

山の上で恐ろしく、空気をふるわせる怒号を叫ぶ竜。

旅人は二本の剣を構え、鋭く睨みつける大きな紅き龍に対峙した。

炎は空気をも焼き、息を吸うことすら許されない熱さだった。

大きな体をものとも言わぬ素早さ、しなやかさは炎属の頂点とも呼ばれるには納得のいくことだった。




激戦は続き倒れることを知らない竜はまるで子供のように彼を弄んだ。


龍は唐突にこう言う。

「一人の人間さえも止められぬ者がどうやって私を止めれようものか。私が全てもやし尽くしてみせよう。」


このままでは勝てない…。赤い血を拭い立ち上がろうとした。

その血が首飾りに落ちたその瞬間眩い光を放った。


青く、どこまでも吸い込むようなのその光は龍を包み込みその姿を瞬く間に変えて行った。

炎の立ち上がる地に立っていたのは1人の女性だった。

その姿はまさに行方不明になっていた国王の娘だった。

しかし様子がおかしい。体からは蒸気を出し、頭部には小さいが角が生えていた。

息を荒くした国王の娘は旅人を指さしてこういった。


「この国の自然を壊そうものなら誰であれ許さない。隣の国はこの山の資源を奪おうと企んでいた。"海王石"は別の呼び名がある。それは"全能石"全てを収める。使い方を誤れば人を殺めることだってできる。だから扱い方を間違えるような人間に奪われないようこの山には妖精しか立ち入っては行けないよう習わしがあった。隣の国の人間なんかに奪われる前に、私が燃やし尽くした。そして二度とこの地に来れないように、自滅の道を進むように争いを起こしてやった。」



彼女は国を思うがあまり愛しているがあまり怒り、憎しみ護るために、昔父が封じ込めた龍を呼び覚まし、肉体を捧げる代わりに力を得ることにより、炎を操り護る事しか見えていなかった彼女は破壊を選んだのだった。


誰かを守ろうとする力は時に誰かを傷つけ、奪わなければいけない。

自身が過去にしたように、彼女も愛するもののために自ら十字架を背負うとしているのだった。しかし、彼女自身は気づいていないようで、怒りに心を支配されていた。


鋭い目をした彼女は邪魔をするものは誰であれ許さないと飛びかかってきた。

しかし、彼女は一瞬旅人の首飾りを目にし、攻撃を緩めた。

「その首飾りは…。誰から…。」

旅人は幼少の頃にある少女から大切なものだと受け取ったと答えた。


「その首飾りは"結びの輪"と呼ばれるものだ!本来王家の者しか身に着けることを許されない首飾り…。伝統ある習わしとして、生涯を約束したものの首にかけ、2度目に再会した時に結ばれるという。何故それをあなたのが...?嘘だ…。嘘だ…。そんなことが…っ!」


胸ぐらをつかまれ投げ飛ばされた

旅人は無残に地に叩き付けられた。

その時、脳裏にあの日の少女の声が響いた。




『この石は私の住む国でとても大切なもので、身につけることで悪いものを近づけないようにするの。昔お父様がその意思を使って龍を封じこめたこともあるの。その首飾りの名は"結びの輪"私の国では別の名でこう呼ぶの...』


"ダイヤモンドリリー"




全身が痛みに襲われながらも立ち上がり、

自分がさっきまで立っていた場所には彼女が蹲っていた。

立ち上がる旅人を睨みつけるその顔はどこか悲しげで

眼から流した涙はどこまでも澄んだ蒼だった。





彼女の体は動かず、声が震えながらも憎しみと怒りは抑えようと抗っていた。


「この龍を封じるに"海王石"の剣が必要なの。あなたのその剣、白雪の力を使えば封印できる。お願いその力を使って私ごと封じて欲しい」


旅人はその言葉を聞き入れることが出来なかった。

愛するもの全てを失った彼にはもう二度と同じ苦しみは味わいたくなかった。

しかし苦しむ彼女を放ってはおけなかった。


"白雪"の本来の力、それは石の力を一時的に取り込むことが出来る唯一無二の無属の剣だった。


旅人は軋む体を動かし、一切の心を抑え、首飾りを白雪で切った。

その瞬間白い剣は青く光り、周りの火をかき消し、蒼く輝く剣に色を変えた。

彼女は小さく「ありがとう」

そう言い、赤い石へと姿を変え龍と共に封じられてしまった。


龍の姿が消えた途端に山には雨が降った。


その雨は炎を消し、山に新たな命を落とした。

旅人の右手に持つ青い剣は剣先に向かい白へと色を戻していった。雫が落ちるかのように、静かに、旅人の頬にも雫が流れた。





〜エピローグ〜



黒幕を倒した勇者であり、かたや一国の姫を手にかけた犯罪人でもある彼は二度と道を踏み外すことのないよう、その後も姿を隠し、ある人には大罪人、そしてある人には英雄として語り継がれることになった。


あの日切った首飾りは元に戻り、今もまだ再会の時を待つかのように輝いている。

国王の娘は自らの体を使うことで封印を解いてしまった。

しかし彼女は未だ赤い石の中で生きている。

彼女の身体を、この石の中から出す術は、大きな大陸のどこかにきっとあるはず。



大陸を旅する男。

白い剣、緑の剣、青い首飾り、そして赤いブレスレットを身に着け、彼は今もまだどこかを旅しているのだろう。


愛する人とまた出会うために。


はじめまして。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

まったくもってこのようなところに投稿するのは初めてになるので

厳しい意見、たくさんお待ちしております。

(決してMではないんですよ?)


長文読み疲れるという言葉がありますが、

ただの誤字で『長文読み憑かれる』と打ったことがあり、

一概に否定はできない言葉だなと含み笑いしてしまいました。

すいません。ただの独り言です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王女様と主人公は幼少期出会っているというような書かれ方をしてますが、どんな関係だったんですか?(変なこときいてすみません、、) [一言] 感想失礼します 切なく、報われない話でしたが、…
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