服がない!9
前半はレオン
後半はリサです
レオンとトワイスは、シャルロット姫と王子が待つ応接間に通された。
二人の前に茶を出すシャルロット姫。
レオンは、シャルロット姫に初めて苛立ちを感じていた。
「焦らないでちょうだい。さ、訳を話してくれる?」
レオンは居住まいを正してシャルロット姫と王子、それからトワイスに顛末を話した。
リサの特殊な魔法の事は話そうかどうしようか迷ったが、結局総て話した。城下町で起こった騒ぎは、もう隠せる規模では無いと感じたからだ。
シャルロット姫と王子、トワイスは黙して話を聞いてくれた。
レオンが総てを話し終わると、三人はそれぞれ額に手を当てたり、うーんと考え込んでしまった。
最初に口火を切ったのは矢張りシャルロット姫だった。
「十中八九、お兄様の仕業でしょうね」
「僕もそう思うな。だとして、何が目的か」
「皇女殿下、レオンが言う通りなら、矢張りリサ嬢の魔法がなんらかの形で分かってしまったのでは?」
「そう考えるのが一番ね。最近お兄様は城下町でお抱えの魔術師を使ってイタズラする事に執心なさってるそうだから、もしかしたら一緒に出かけていた魔術師に、騒動の際に気付かれたのかも……。王子、どう思いますか?」
シャルロット姫が隣に座る王子を見上げて問う。
「そうだね、タイミングが良くなかったのだろう。姫、今から先触れ無しに王子の宮に行ってはどうだろうか?」
シャルロット姫は頷いた。
「ええ、そうしましょう。レオン、いいわね?」
レオンは三人に再び深く礼をした。
「シャルロット姫、王子、トワイス、本当にありがとうございます」
シャルロット姫は少し長い顎に人差し指を当ててくすりと笑う。
「お礼はリサさんを助けてからでいいわ」
四人は直ぐにアゴ王子の居る宮を目指した。
★
薄暗い、半地下の宮殿の一室。
「何故だーーーー?!!」
アゴの王子、カイゼルの慟哭が響く。
リサはひいっと引き攣った悲鳴を上げる。
「何故私が裸にならないのだーーー!!!」
リサが涙目で王子の後ろに立つ魔術師を見ると小さく首を振る。その目は諦めろと同情の眼差しだった。
「お前の魔法は美しい男を裸にすると言ったじゃないか!違うか?!娘ーーー!」
リサは恐怖しながら何とか首を振る。
「何とか申せっ!!」
「はっ、はいいいっ。恐れながら、ちょっと好みではないっていうかあー」
リサが精一杯答えると、カイゼルがギロリと睨む。
「私が美しくないと申すか?!どこがだ!」
「ちょっとマッチ棒みたいだなって」
カイゼルは王子であるから鍛えたりはしておらず、細身の身体つきだ。リサの守備範囲は筋肉質な男だ。許せても細マッチョまでだ。
「それからあ」
「何?!まだあるのか?!ええい!全部申せ!」
あら?意外と心が広いのかな?とリサは錯覚しそうになった。
「目が細いのに睫毛がフサフサもちょっと生理的に嫌だし、団子っ鼻もバランスが合ってないっていうか。後一番はアゴですかねえ」
リサが恐る恐るカイゼルの欠点を挙げるとプルプルとカイゼルは震え出した。
「あのー、こんな面食いの私が言う事じゃないんですけどお、人間顔貌じゃないですよ!巷では人でなしとか、わがまま王子とか散々言われてますけど、王子にも良いところの一つや二つありますよね?ねえ?!」
リサが魔術師に視線を向けると、カイゼルも怒りの形相で何故か魔術師を見る。
魔術師は、え?俺なの?とでも言いたげな顔でリサとカイゼルの顔の間で視線を彷徨わせてスッと視線を下に下げた。しかも凄い冷や汗をダラダラと流している。
リサも冷たい汗を掻いている。
ああ、このおしゃべりめ。全部思った事が口から出てしまった。どうしよう。リサが頭の中で一瞬で色々考えていると、カイゼルが口を開いた。
「……実はお前の趣味が変なんじゃないのか?」
リサは不敬にもカチンと来た。
リサにはリサなりの矜持がある。
こんな変態のような魔法が使えるなりに審美眼的な何かが備わっている筈だと自負していた。
それをこのアゴ王子ときたらっ———!
リサは自分の見る目を馬鹿にされたような気がして頭にきた。
「いいえ、王子様。私、一般的な趣味をしております!冗談も休み休み言ってください!」
リサは何故か強気にカイゼルを叱った。
王子の隣ぬ立つ魔術師が『あちゃー』とでも言いたげに両手で口元を覆った。
「ーーー!!もう我慢出来ん!私が不細工だと言うのか?!娘!!」
リサは終わった、と目を固く瞑った。
その時だった———。
「はい、不細工ですよ。お兄様」
新たな侵入者に、カイゼルも、リサも、序でに魔術師も、部屋の扉を仰天して見つめた。