服がない!6
トワイス視点
「実は帰ってから顛末をメイド仲間のお姉様に話したんですけど……」
「けど?」
「レオン様の引率は止めて貰うように言って来いって言われましたあ」
それはそうだろう、とトワイスはレオンの顔を見る。
レオンは諭すような顔をしてリサの両肩に手を置く。
「いいか?リサ」
「はい……」
「メイドの連中は皆んな女だから知らないかも知れないが……男は皆んな獣だ」
「獣……」
「そうだ、獣だ。いくら優しそうな奴でも、軟弱そうな奴でもいざとなったらすごい力で襲ってくる」
「でも、今日襲われてたのは男の人でしたけど」
「襲わせているのだ、敢えて。そうして物陰に誘い込みガブリとやるんだ」
えっ?と小さくトワイスが言うとレオンに睨まれた。凄く恐い。獣はそこらの男じゃなくてレオンだ、とリサに伝えたかった。しかし、出来なかった。
「じゃあ、レオン様も獣?」
リサはトワイスとレオンを震えながら見比べている。
「いいや、それは違うぞ、リサ。俺はリサの何だ?」
「……友達?」
「そうだ。いいぞ、リサ!よく分かったな」
レオンはリサの頭を撫でる。トワイスは砂を吐きそうな気分で見守った。
「友が困っていた時は助けてやらなければならない。だから、いくら友が異性であってもそれは変わらないんだ。だから、リサが婿探しをして危険な目に合わないように俺が友として助ける。そういう事だ」
とんでもない暴論を展開するレオンにトワイスは頭痛がした。
リサは曖昧に頷くが、遠慮がちに反論した。
「でもお、お姉様は、レオン様が一緒だと見つからないんじゃないかって言うんです」
「何故だ?」
「自分より良い男が隣にいる女性に声はかけないって。私もそんな気がするので今度は試しに一人で行きたいんですよう」
リサがレオンの顔色を伺いながら言う。二人の上下関係はトワイスの目からでも一目瞭然だ。
「リサ、それも違う。俺が篩をかけてやっていると考えろ」
「篩……ですか?」
「そうだ。俺は自分で言うのも何だが、そこそこの男だ。見た目も、地位も、なんなら金もある。そんな俺よりも良い男がリサにはふさわしいだろう。逆に、俺が居ても挑んでリサを射止める気概がある男の方がいい。違うか?」
「そこまでは望んでないっていうかあ。普通に幸せになれればいいんですけど」
「そうだろう。リサ、欲が無いのはリサの美徳だ。だからこそ、友としてはお前に相応しい伴侶を与えたい。そう思うのだ」
レオンは堂々と言い切った。
トワイスは痛む眉間を揉みほぐす。
俺の友人は一体どこに行こうとしているのだろうか、と溜息を吐いた。
リサは納得いかないという表情で首をひねりながら帰って行った。
「なあ、レオン」
「なんだ?」
「獣ってなんだよ」
トワイスはレオンに恐る恐る聞いた。
「お前もか、トワイス。決まっているだろう、リサを狙うおとこどもだ」
えー、それは狙われていいんじゃないの?とトワイスは思う。でも言えない。レオンの眼光が言わせないからだ。
「篩ってのはなんだよ」
「リサは良い娘だから、それなりの婿じゃないと駄目だろう?」
やれやれとでも言いたげなレオンの態度にトワイスは目眩がする。
「お前はリサ嬢が好きじゃないんだな?」
「ん?好きだが?友人として」
トワイスは溜息をつく。
「恋愛としてという意味では?」
「恋愛?いや、それは違うだろう。先日知り合ったばかりだし、リサは俺がタイプでは無いらしいし」
「そりゃ、リサ嬢はお前がタイプじゃないだろうが、それとお前の気持ちは違うだろう」
トワイスの言葉にレオンは首を傾げて考えていた。
「お前、まともな恋愛したことないだろ?」
「恋愛?何だかやけに拘るな。リサの話と何か関係あるのか?」
ちょっとこれはびっくりな発言だ、とトワイスは思う。
「だって婿探しだろ?お見合いでも無い、リサ嬢が気に入る男を見つけるんだろ?」
「ああ、そうだ。しかし、碌でもない男だったらリサが気に入っていようがいまいが、却下だな」
「お前はリサ嬢のなんなんだよ」
「友だと言っているが?」
遅咲きの初恋なのかもしれないな、とトワイスは友人を生暖かい目で見つめた。
「一つ聞いていいか?」
「なんだ、改まって」
「そのリサ嬢の相手っていうのはお前じゃ駄目なのか?レオン」
トワイスがそう問うとレオンは矢張りやれやれと言いたそうに首を振った。非常にムカツク態度である。
「だから、俺はリサの好みではないんだ」
「寄せればいいだろうが」
「寄せる?」
「だから、好みのタイプにお前が合わせたらどうなんだよ」
「タイプに、寄せる?」
「そう。リサ嬢に好かれたら問題無いんじゃないの?」
「それは……。考えなかったな」
「レオンをそこそこの男として、そのそこそこを越えてくる男っていうのがまず難しいじゃないか。お前実はリサ嬢を行き遅れにする気じゃないか?」
「そんな事は!」
「無いとは言わせないぞ!いっぺんよく考えてみろよ」
トワイスの言葉にレオンは熟考しているようだった。
トワイスは残念な子を見るような慈悲深い目でレオンを見ていた。
そういえば忘れていたが、シャルロット姫はもういいのだろうか?と思いはした。が、トワイスは良く知っている。憧れと恋心は別という事を。