服がない!5
トワイス視点です。
トワイスは驚いていた。
それは朝から驚きの連続ではあったのだが。
今度は本当に腰を抜かす程驚いていた。
トワイスの友人、レオンは心優しい騎士だ。
騎士としても申し分ないくらいの見本のような男だし、伯爵家の次男という身分を笠に着たりしない。勿論友人としても頼れる男だ。
見目も麗しく、城や兵舎で働くメイドも密かに憧れている者は少なくないという。
そんなレオンだが、今まで浮いた話は無かった。
かといって城下町の娼館に通っているわけでもない。実はレオンは男色家なのではないかと囁かれる程高潔な色事とは無縁な生活を送っている事は友人のトワイスが一番良く知っていた。
そんなレオンが———。
朝から浮かれた表情で兵舎で働くメイド(かなり可愛い。)と出かけて行った事も驚きだったのだ。
が、二人が出かけてから、城下町でちょっとした騒ぎが起こった。
何故か普通に歩いていた男達の服が光になって消えたという。
ちょっと想像したくない光景だが、服を失った男達は何れも屈強な男達。鍛えられた肉体の冒険者達だった。
若くて顔も良い男達の裸体に、女達は歓喜して城下町はちょっとしたお祭り騒ぎになった。
勿論トワイスも駆り出され、辺りの鎮圧化をして兵舎に戻るとレオンが居た。
朝のちょっと可愛いメイドを抱き上げて……。
それは壊れ物を扱うように優しく、男のトワイスが見てもうっとりするような光景だった。
レオンは蕩けるような甘い笑みを浮かべている。
抱き上げられたメイドは結構普通の感じであったから、レオンが執心しているように余計に見えた。
あんな顔もするんだな———。トワイスは素直に感心した。
いつものレオンは騎士然とした無表情を貼り付けているか、仲間内で少し不器用に笑うくらいであったからだ。
しかし今のレオンときたらまるで『砂糖菓子』のようではないか。
これは揶揄うしかないと、トワイスは仕事が終わり次第レオンの寄宿している部屋へと向かった。
★
「トワイス、何の用だ?」
レオンはニヤニヤするトワイスを部屋に招き入れてから聞いてきた。
トワイスは片手に持った酒瓶を見せびらかしながら言う。
「見たぞーー。お前が見せびらかすようにメイドを連れて歩いているのを!」
トワイスは勝手知ったる感じでレオンの部屋にある木棚から木製のカップを二つ取り出し、なみなみと酒を注いだ。
「リサの事か。この前お前と呑んだ日に友になった」
何でもない風にレオンは言った。しかし、トワイスは見てしまった。レオンが娘の名を言う時の瞳を。矢張り『砂糖菓子』ではないか。
「友?恋人ではないのか?」
「違う違う。リサの好みは俺のような男ではないらしい。野生的な力強い男がいいそうだ」
「という事はお前が振られたのか?!それにしては嬉しそうだな」
「振られるも何も、リサとはそういう関係ではないのだ。言ったろう?友になったと」
この男、こんなにポンコツだったろうか?とトワイスは首をひねる。
「リサの夢はな、幸せなお嫁さんなんだそうだ。今日も城下町でリサの婿探しを二人でしに行ったが、大変な騒ぎになったからお開きになった」
「ん?ちょっと待て。なんかおかしくないか?」
「うん?おかしい?何がだ?」
「異性の友の婿探しを二人でしに行くなんて聞いた事ないぞ?」
レオンは顎に手を当て考えている。
「おかしくはないだろう。だって危ないだろう?あんなに可愛いリサが一人で婿探しなんてして変な輩に捕まってしまったら」
危ないだろう、とレオンが念押しした。
「レオンはリサが好きなんじゃないのか?」
「好きさ。リサは真剣に婿探しをしているのだ。友として協力してやらなければならないだろう」
あ、こいつ駄目だ。トワイスはそう思った。
「残念な奴だったんだな、レオン」
「失礼な」
レオンがそう言った時、レオンの部屋の扉が遠慮がちにノックされた。
レオンが扉を開けると、件のメイドが立っていた。
「こんばんは。今ちょっといいですかあ?」
「いいにはいいが、トワイス、構わないか?」
トワイスは笑顔で頷く。
通されたメイドはトワイスに恐縮していたが、新たに注いだ酒を渡すと喜色を浮かべた。
「ご歓談中にすいません」
リサがトワイスとレオンに頭を下げる。
「構わない。こちらはトワイス。俺の友人で騎士団仲間だ。トワイス、こちらはリサ。先日友人になったメイドだ」
「どうぞ、よろしくお嬢さん」
トワイスが顔に似合わずキザっぽく礼をするとリサは笑顔で返してきた。中々いい娘さんだとトワイスは思った。
「リサ、用事があったんじゃないか?」
レオンが聞くと、リサは言いにくそうにしている。レオンがもう一度促すとリサは話し出した。