服がない!4
———その日、レオンは朝からウキウキしていた。
リサのお相手探しに同行するからだ。
ちゃんとした相手なのか見極めなくては、と何故かリサ本人よりも気合いが入っていた。
レオンはリサのような女性の友は初めてだった。
幼少の頃は親の貴族間の付き合いしかないし、貴族の娘は何れも鼻持ちならない娘が多かった。少年期も、ルロワ家の知り合いの騎士に付いて従卒として学び、兵舎で騎士として働き出してからも同年の男子ばかりだ。
声を掛けてくる娘もいたが、友のような関係にはならなかった。
リサはレオンの初めての女性の友であり、妹のように感じていた。
自分もまともな恋愛なんてしてこなかったが、リサのお相手には自分以上には素敵な相手を選びたい。
レオンはそう考えていた。
レオンは部屋の壁掛け時計を見て、リサの待つ兵舎前に向かうことにした。
兵舎前に着くと、既にリサは待っていた。
お仕着せ姿の時は三つ編みにしていた髪を頸が出るように可愛く纏めている。薄い青色のワンピースがリサの雰囲気に溶け込むように似合っていた。
「あっ、レオン様!こっちですよう」
リサの甘えるような舌足らずないつもの口調に思わず笑みが浮かんだ。
「待たせたな」
全然です!と元気に返すリサ。
二人が連れ立って兵舎の門前を過ぎようとすると、トワイスに会った。兵舎前の警備仕事中だからか、声は掛けて来なかった。しかし、その目にはありありと驚愕が浮かんでいた。それもそうだ。レオンがこの兵舎に来てから、女性と連れ立って出かけるなんて事は初めてのことだったし、浮いた話もなかった。もしかしてそっち?と手のひらを口元に立てて聞かれる事も間々あった。
勿論レオンはそっちでは無いのだが。
「レオン様、城下町の広場に行きたいんですけど、いいですか?」
「広場?どうして?」
「メイドのお姉様に聞いたんですけど、広場の噴水前は最高のハンティング場所なんですって!」
リサは両手で頬を隠して可愛らしく物騒な事を言う。
「では、そこへ行こう」
レオンは少し嫌な予感がした。
城下町には冒険者崩れのリサの好みそうな男は確かにいる。
ただ、明日の保証がない刹那的な生き方をしている所為か、欲望に忠実だ。とてもじゃないが、リサが幸せなお嫁さんになれるとは思わない。そこはレオンが目を光らせるしかないと思った。
★
嫌な予感は最悪の形で実現した。
広場に着いて一時程リサに付き合った。
そして、その広場は阿鼻叫喚に包まれた。
暫くリサが鷹のような目でギラギラと行き交う人々を見ていたと思うと、あっちこっちで眩い光に包まれた男たち。
奇しくも最初のレオンのように屈強な冒険者風の男たちが乙女のような悲鳴を上げながら素っ裸になっていった。
悲鳴を上げるのは男の方が多く、女たちは逞しく口笛を吹いてやんややんやと囃し立てていた。
リサは隣で口元に手を当て、あわわ、と顔面を蒼白にしていた。
衛兵が広場に集まってきて騒然となった頃にレオンは事態を飲み込み、リサを連れて広場を後にする。
そして、表通りを進む。
通り過ぎると暫くして悲鳴が聞こえて来たので焦ったレオンはリサを抱き上げて鍛えられた胸板にリサの顔を押し付けた。
以前にトワイスと行った酒場の近くの裏路地は時間の関係か人は殆ど居なかった。
漸く一息ついてリサを下ろした。
「大変な事になってしまった」
リサは青白くなってへたり込んだ。
「そうだな。俺の不注意でもあった。びっくりさせたな。すまなかった」
レオンがリサの前にしゃがみ込んで目線を合わせるとリサはブンブン首を振る。
「いいえ!違いますよう!私の裸の魔法がいけないんです!」
「だが、十分予想出来た事だった。俺が気をつけなくてはいけなかった。兄として」
レオンがニヤリと笑うとリサはやっと吹き出した。
「気になる人をどんどん裸にしてたんじゃ、お嫁さんになるのは難しいですね。こんな魔法使える子をお嫁さんにしてもいいなんて奇特な人探すのは難しそうです」
リサが大きな溜息をつく。
「難しいかもな。でも心配する事も無いんじゃないか?一度きりの魔法なんだし」
レオンは励ますようにリサの頭を撫でる。
「そうは言ってもお、妻の周りで光って裸になる男の人が度々目撃されるって普通じゃないですよう。隠すなんて出来ませんし、こんな魔法ごと貰ってくれる人なんて居ない気がします」
メソメソし出したリサを見てレオンは可哀想に思ってしまう。
「リサ、世の中そんな小さな事を気にしない器の大きい男も沢山いる」
「そんな人どこにいるんですかあ」
「ここにいるだろう?」
レオンがおどけて見せると今度こそリサはゲラゲラと笑い出し、すっかり機嫌が良くなった。
今回はリサの伴侶探しは失敗となり、時間も結構経っていたので帰る事になった。
レオンは兵舎までリサを抱き上げて帰る事にした。また全裸集団事件(今回はそう呼ぶ。)があったら堪らないし、何よりレオンがリサを甘やかしたい気分だったのだ。妹の機嫌を取る兄のような。そんな気分でレオンはリサを抱え、兵舎への道を歩き始めたのだった。