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※リサ→レオン回です。
レオンがカイゼルの元へ発って七日目の事だった。
リサはぼんやりと昼食で使用した食器類を磨いていた。
あれからかなりの時を置いても、思い出すのはレオンの事ばかりであった。
あの日、何故レオンはリサを抱きしめて眠りに就いたのだろうか。
あんなにも異性と近くで眠った事は初めてだった。
彼の暖かな眼差し。
低く、耳を擽る声。
今まで嗅いだどんな香りよりも落ち着く、あの匂い。
レオンは、リサの理想とする男性像よりも綺麗過ぎた。
リサとしては、もっと男性らしい筋肉質の、少し無骨なくらいの方が好みだ。
しかし、レオンはどうだろう。
顔立ちは女性も負けてしまう程の美しさに、無駄な肉の無い、しなやかな体躯だ。
だが、レオンに抱き締められた時に気付いてしまった。
その引き締まった身体は、騎士としてはやや細身ではあるものの、リサからすれば逞しいし、大きい。
その腕に絡めとられてしまえば、総てのものから守ってもらえるような安心感が確かに存在していたのだ。
リサは最初からそれを求めていたのではないかとすら感じてしまった。
リサに向ける屈託の無い笑み。
思い出す度に胸が焦がれた。
この感情はなんなのか、と溜め息が溢れた。
「貴女、恋してるわね?」
背後に立ったガーネットの思わぬ言葉にうっかり皿を落としそうになる。
「あっ、危ないじゃないですかあー!」
リサが怒るとガーネットは呆れ顔をする。
「そんな思い詰めた顔をして、恋じゃなかったらなんなのよ?まさか、横領でもしたのかしら?といってもここじゃ横領する物もないわね。じゃあ、やっぱり恋じゃない。とうとうレオン様に絆された?」
「なっ、なんでそこでレオン様が出てくるんですかあ」
リサが怒ると、ガーネットは白々しく溜め息を吐く。
「分かり易すぎるのよ。まあ、いいんじゃない?見たところ、相思相愛でしょ?おめでとうと言っておくわよ」
「相思相愛?!まさかっ!レオン様が私を好きなんて無いですよお」
途端にしおしおと萎んでいくリサに、ガーネットは少し哀れに思ったのか、リサの肩にそっと手を置く。
「どうしたのよ、リサ。大丈夫よ、自信を持ちなさいよ。貴女、レオン様から大事にされてるわよ?」
「それは違いますよう。私なんかレオン様にとっては手のかかる子どもみたいなものなんですう。出会ってからも迷惑しか掛けてないですし」
リサが両目に涙を一杯溜める。
「それもそうね」
ガーネットは呆れ顔でキッパリと言う。
「ひ、ひどい」
「酷いって貴女ねえ。……でも、リサ?ただ迷惑な人を毎回フォローするかしら?嫌な人を構う?私ならごめんだわ!ましてやレオン様は騎士。私たちはメイドよ?関わりたいと思わなければ、関わらなくて済む立場なのよ?それに、レオン様が一度でも貴女を邪険にしたかしら?」
良く考えたら?と肩を二度叩かれた。
本当にそうなのだろうか?
レオンはリサを迷惑がったりはしていないと思う。
しかし、どこまで寄り掛かってもいいのだろうか。
その鍛えられた身体に、どこまで寄り添っても怒られないのだろうか。
リサには分からなかった。
自分の気持ちもあやふやだ。
そんな状態でレオンを求めても良いのだろうか。
リサには分からなかった。
その時———。
ドンっという爆発音がリサ達を襲った。
★
かなりの強行軍だ。
カイゼルと共に出立してから三日。
行きも体力のあるレオン、トワイス、シリウスの三人での行軍でも四日掛けた道を全く休まずに馬だけ変えて三日で王都付近の丘までレオンとカイゼル一行は来ていた。
一行は訓練された腕利きの騎士で構成されているとはいえ、どの者も、疲労困憊であるのは明らかだ。
「もうすぐだ、皆の者、苦労を掛ける。しかし、我が国の危機。今暫く耐えてくれ」
カイゼルの鼓舞により、なんとか気力が持っていると言える状態だった。
「レオン、許せ」
カイゼルがレオンに声を掛けた。
何か言わなければ、レオンがそう思って時だ。
その時であった。
王都が。
丁度、兵舎のある辺りと王城のある辺りから火の手が上がっているのがレオンの目に映った。
リサッ———!!
レオンは考えるより先に、馬を駆っていた。
疲労など頭の片隅にもない。
ただあるのはあの日別れたリサの事だけだ。
カイゼル一行も慌ててレオンに続く。
一行は、気力を振り絞り、駆け出した。
祖国を、愛する人々を守る為に。
三日目、とうとう到着した王都は、ある日の平和な姿は無い。
火が其処此処に上がっている。
人々が怯えている。
逃げ惑っている。
蹂躙する兵士達、自国の者では無いのは明らかだ。
例え、反旗を翻した貴族の私兵といえども、力無き者を嬲る者達を祖国の者だといえようか。
レオンやカイゼル、共に走って来た騎士達は燃えるような怒りを露わにした。
一方的な虐殺を止めるべく、剣を振るった。




