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裸の騎士様  作者: 叶 葉
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黄昏時の日没直後を知らせる六つの鐘が遠くで鳴っている。

窓から差し込む夕焼けの名残りがレオンの閉じた目蓋に薄っすらと赤さを伝える。

身動ぎしてレオンは細く目を開けて、驚いた。

自分の胸な当たる柔らかなブラウンの髪。

吸い付くような肌の感触。

閉じられている睫毛が胸を擽ぐる。

意識をすれば、そのあどけなさが残る頰の細かな産毛まで有り有りと分かってしまう距離に閉じ込めた女。


レオンは相手を起こさないように痛む頭を抱えながら考える。

———どうして、こうなった?

幸か不幸か、相手はきちんと服は着込んでいるし、神聖な兵舎での事件には発展していない事が分かり、そっと息を吐く。

レオンの吐息がくすぐったいとでも言うように抱き込めた女は身を震わせた。

少し身体を離して伺うと、そこには矢張りリサがいた。

道理で抱き心地がしっくりくる筈だとレオンは独り言ちた。

んっ、とリサに似合わぬ艶めかしい呟きの後に、薄っすらと目蓋を持ち上げた。

そっと開かれたグリーンの瞳が夕焼けの名残りを受け、何とも言えない鮮やかな色合いを醸し出す。

「綺麗だな」

レオンが呟くと、リサは笑った。

「褒めたって何にも出ませんよう?」

照れるでも無く、当たり前に返された。

まるでレオンの胸の中が当たり前に自分が羽を休める居場所だとでも語るような仕草だった。

勿論、リサにそんな意図は無いのはわかっていた。

その瞬間だった。

あり得ない程に胸が高鳴って堪えられない気持ちが湧き上がって喉の奥から焼けてしまいそうだった。

なんだ、これは?不正脈か?

レオンは戸惑った。

「レオン様?」

リサが訝しげにレオンの顔を覗き込んでくる。

レオンは再び襲ってきた不正脈に耐え、呼吸を落ち着ける。

「最近忙しかったからな。あちこち疲れが溜まっているらしい」

レオンが言うと、リサはあからさまにホッとした表情を浮かべる。

「確かに、凄く忙しそうでしたもんね。今もかなり熟睡してたみたいですし、抜け出そうにも体格差で無理だったので、諦めて寝ちゃいましたよー」

「そうか、悪い事をしたな。久しぶりに熟睡出来たんだ。リサが隣に居ると良く寝れる」

レオンが柔らかく微笑むと、リサも頷いた。

「私も寝るつもりなかったんですけど、ついつい寝ちゃいました。なんかレオン様から眠りを誘う匂いが出てるみたいで」

「匂い?!臭いのか?」

「臭くは無いです。安心する匂いです。干したお布団みたいな」

「最近、干した布団の匂いは、布団に湧いた小さな虫の死骸の匂いだと聞いたが……。やっぱり臭いんじゃないか?」

「えー?ショックです!好きな匂いなのに。あれってお日様の匂いじゃなかったんですかあ?」

「日の匂いでは無いらしい。ショックを受けている所悪いが、俺の方がショックだ」

レオンがわざと仏頂面を作ると、リサは吹き出した。

「私は好きな匂いなんですから、いいじゃないですか」

リサにそう言われてしまうとレオンもどうでも良くなってしまった。

「そうだった。用事を忘れちゃう所でした!」

リサが慌てて身を起こそうとする。それを、レオンが逞しい腕で制する。

「……待て。もう少しリサを感じていたい」

レオンが真っ直ぐにリサを見つめると、困ったように頰を染めてから、レオンの胸に頭を預けて来た。

相変わらずレオンの胸は可笑しな動悸がするが、不思議と心は満たされていたのだった。

二人はピタリと身体を抱きしめ合いながら、合わなかった間の話しをお互いにした。

レオンは守秘義務に当たらない話しをしたが、最近はシリウスと組む事が多かったので、話しの内容がシリウスの事ばかりになってしまった。

リサはリサで、メイド仲間の話しや、魅惑の裸祭りの件などを話した。

結果レオンは裸祭りに至るまでの流れに憤慨し、騎士団は弛んでいると暫くむくれた。

———こんなに安らかな時間はいつぶりだろう。

暖かな高揚感をレオンは味わっていた。

二人が知らぬ間に、レオンとリサは一線を越えていた。

男女の間に流れる、幾つもの感情の河の内の一つを。

どちらかが勝手に渡ってしまったのでは無い。

正に気付いたら、渡ってしまっていたのだ。

互いが互いに惹かれているという意識も無いままに。

知らぬ内に心を寄せ合い、渡ってしまっていたのだ。










八つ目の鐘が鳴った———。

そろそろ準備をしなければ、とレオンはリサから離れた。

脱ぎ散らかした軍服をクローゼットに掛け、洗い立ての軍服を取り出す。

もう下穿き姿を見慣れたリサをわざわざ追い出したりはしない。なんなら全裸だって見られているのだ。

今更隠す方がなんだか締まらない気がした。

「リサ、さっき用事があるとか言っていなかったか?」

レオンが詰襟の上着に腕を通しながら聞く。

「あっ!忘れる所だった!忘れてしまったら嫌味アゴの人にネチネチ言われそうな気がしますからね。はい!レオン様、これですよ、これ!」

メイドのエプロン。そのポケットから取り出した皺の寄った一通の手紙。

レオンはボタンを締めながら差出人の名も、宛名も無い真っ白な封筒を受け取った。

封筒は、上質な厚手の紙が使われており、中身を見なくとも差出人が分かるような体裁をしていた。

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