服がない!11
「あ、ああ、シリウス。よく戻ったな」
レオンは冷や汗を掻いた。リサを抱き締める腕に俄かに力を込める。
「漸く戻れたぜ。またよろしく頼む。……それにしても騎士団一お堅いお前がメイドと堂々抱擁しているとは驚いた」
シリウスは面白い物を見たような目で繁々とレオンとリサを観察する。
レオンは更に腕に力を込める。リサが潰れたカエルの鳴き声を出した。
「あ、ああ。気にするな!」
「分かった。気にしない。……が、そのメイド、大丈夫か?」
その言葉にレオンが慌てて拘束を弛めると、そこには完全に伸び切ったリサがいた。
「あっ!リサ、すまない」
「リサというのか、その娘は。中々可愛い顔をしてるな」
シリウスがリサの顔を覗き、ニヤリと笑った。
「シリウス!リサは駄目だ。遊びで手を出していい娘では無い」
レオンがジロリと睨むとシリウスは両手を上げて降参の構えをした。
「分かってる。レオン、冗談だ。早く医務室に連れて行こう」
レオンはシリウスから庇うようにリサを抱き上げ、医務室へと急いだ。
医務室のベッドにリサを横たえる。
———なんで着いてきたのだ、シリウスよ。
レオンは溜息を吐きたくなった。
「悪い事は言わない。リサが目を覚ます前に立ち去ってくれ、シリウス」
レオンは懇願した。
「何故だ、まずい事でもあるのか?まさかレオン程の者が俺に取られるとでも思っているのか?」
シリウスは益々笑みを深めている。
「そうじゃない。そうじゃなくてお前の身を案じているんだ。リサは特殊な魔法が使える。その、本当に特殊なんだ」
「なんだ?要領を得ないな。端的に言え」
「全裸魔法と俺たちは読んでいてな」
レオンが言い淀む。
「ゼンラマホウ?なんだ?わからん。もう少し詳しく話せ」
「だから、見目のいい、つまりリサ好みの男をリサが見るとその男を全裸にしてしまう魔法なのだ」
「ん?ゼンラとは全裸の事か?素っ裸になるのか?珍妙だな。俺がこの娘の好みだから裸になりたくなけりゃたちされと?なんて珍妙で難儀な魔法の持ち主なんだ。所でレオン。お前はどうして無事なんだ?まさか好みでは無かったのか?こんなに懸命に助ける娘の?好みじゃなかったのか」
シリウスが嘲り笑うとレオンはカッと頭に血が上った。
「そうではない!一度かかれば二度目はないのだ!だから俺は大丈夫なんだ。しかし、お前は女癖も悪い。リサに良い影響が無いから出来れば近寄らないで欲しい」
レオンが言うとシリウスは鼻で笑った。
「お怒りの所悪いが、もう遅かったようだぞ」
え?とレオンがリサを見るとキラキラ、いや、ギラギラした目でシリウスを見るリサがいた。
レオンは頭を抱えたくなった。
そして、矢張り服を光にされたシリウスは一糸纏わぬ姿だというのに、いかにも堂々としている。
黒髪を乱暴に搔きあげる様は男のレオンでも見惚れてしまう程妖艶だった。
「シリウス!これを羽織れ」
レオンは慌ててシリウスにシーツを手渡すと、サッと羽織った。因みに大事な所は隠れるか隠れないかの絶妙な羽織り方にレオンはムカムカした。
「素敵なメイドのお嬢さん。お気に召して戴けましたか?俺の身体は」
シリウスは気障ったらしくリサの手を取り指先に口付けた。リサは酸欠の魚のように口をパクパクするだけだ。
「リサ!シリウスだけは駄目だぞ!」
レオンがそう言うと、リサはうっとりした顔で夢見心地という体でレオンを見上げた。
———そんな顔初めて見たな。
レオンは何故か気分が暗く沈む気持ちを抱いた。
「レ、レオン様。この方のお名前は……」
「申し遅れました、お嬢さん。俺はシリウス・ガルシア。レオンの同輩です。今後はレオンと同じく親しくしてくれますか?」
騎士然と片膝をついて右手を胸に当てる仕草。
シリウスは完全にリサの理想そのままに体現して見せた。
「リサ!騙されるなよ。コイツはこう見えて、いや、見たまんまだが、生粋の遊び人で、良い婿にはならないぞ」
リサは溜息を吐き、レオンに白けた視線を向ける。
「騙されるも何も本気になんかしてないですよう。レオン様、私は本気で婿様探しをしてるんですよう?身の程くらい分かってますよう」
「その割にポーッとしていたが?」
「鑑賞するくらい許してくれたって良いじゃないですかあ。あーあ、呆れたレオン様」
リサにやれやれと首を振られる。
「お前達面白いな。しかし、一体どういう力関係なんだ?全く分からん。レオン、良いお嬢さんを探してきたな」
シリウスが興味深いというように顎に拳を当て、レオンとリサを見比べる。
「シリウス、残念だが、そういう事だからリサは諦めてくれ。城下町は久々だろう?そういえば、飲み屋街の何とかという店の看板娘が可愛いとトワイスが言っていたな。確かにちらっと見たが、中々だったような気がしなくもない
」
「分かった分かった。お嬢さんには手を出さない。そんなに心配するな」
レオンはイマイチ信用ならないシリウスの薄ら笑いを眺めた。
今日もリサの周りは危険が一杯だ。




