好奇心は猫をも殺す
さあさあと空が泣いている。
大粒の涙を零しあちらこちらに大きな水溜まりを作っていた。
突然の雨に眉間に皺を寄せ、鞄を傘代わりにする人、フードを被って被害を最小限に抑える人、それぞれに何とか凌ごうと走る人々。足が地に着く度に水が小さく破裂している。
そんな中、悠々と歩を進める者が、ひとり。
濡れ鼠になりながらも嫌な顔一つせず、むしろ鼻歌でも聴こえそうな程に上機嫌と見える。
細身の--少年だろうか。フードを被っており顔はよく見えない。顔も見えないのに上機嫌そうというのは、彼があまりにも軽い足取りだからだ。
黒いパーカーを羽織った若人が路地裏に滑り込む。
「--見つけた」
若人の視線のその先には、明らかに柄の悪そうな男が三人…四人。
彼等は忌々しそうに此方に目をやる。何か拙い事でもあるのだろう、四人組のうち一人が背後を隠す様に立ちはだかる。
「おう兄ちゃん、悪ぃことは言わねえ。帰んな。」
「今なら見逃してやるよ」
男達が口々に早く帰れと促す。が、若人は動かない。
「…おい、聞いて」
痺れを切らした男が若人の胸倉を掴んだ。瞬間、男がその場にくずおれる。他の男達が息を呑んだ。この中で現状を正確に把握出来る者はいなかった。ただ一人、黒いパーカーの若人を除いては。
若人がにこりと妖艶な笑みを浮かべ "それ" を拾い上げる。
其れは、つい先刻まで若人の前に立っていた男の首だった。
男は悲鳴を上げる間もなく、死んだ。
残された男達は仲間だったモノとナイフ片手に笑む若人とを交互に確認するように見て…逃げ出そうとした。震える脚に鞭を打って敵前逃亡をしようとしたが其れもすぐに失敗に終わる。
「…あは、は…はは………」
さも可笑しそうに、ざらついた笑い声を上げる。
この状況で笑っていられるのは唯一ひとりだけ。
「ふふ、ふは……あはは…」
壊れたラジオの様に、狭い路地裏で途切れ途切れに響く。
ああ、彼は気が違っているのだ。そうに違いない。
でなければ、これは何だと言うのだろう。
「はーぁ…今度は君の番だ?」
ああ、ああ、あああ何故バレたのだろういつから気付いていたというのだろう私は、まだ、
人気のない、狭い路地裏。後に五人の男が遺体で発見された。
それはそれは無惨な姿だったという。
fin.