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第8話 キャンプナイト

 


 夜は更けて虫の音だけが聞こえる。

 聖水を撒いた範囲内は魔物が入ってこないはずだが、大型の強力な魔物は物ともしない場合もある。この辺の地方にそんな魔物はいないのでまず安心していいとのことだが、交代で見張りを立てながら休むのが旅の常らしい。


「スケロク、起きて、交代だよ」

「んん……、あいよ……」


 最初に見張りを買って出てくれたベテランクロの声にもぞもぞと起き出す初心者俺。一、二時間経ったら次のカルデを起こして交代する。それまでは俺の腹を枕にする幼女は寝かせといてやろう。日が昇るまで続けるわけだが十分な睡眠が取れる配分だ。慣れない俺にはキツそうだが。


「クロは何して時間を潰してたんだ?」

「いつもは装備の点検なんかをするのが普通だけど、今夜は仲間たちのことを考えてたよ」

「前の冒険の仲間か?」


 クロは勇者として魔王城まで辿り着いたところでいきなりこの地方まで転移魔法で飛ばされてきた。その時に仲間たちと離れ離れになってしまっているのだ。


「みんな心配してるだろうなぁ」

「探しに来るんじゃないのか?」

「向こうからは転移したこともわからないかもしれないけど……」


 魔王城では敵の幹部たちが勇者に立ちはだかった。それを仲間たちに任せてクロは単身で決戦に挑んだらしい。その場に居なければ勇者と魔王が忽然と姿を消した様に見えるだろう。


「でも、そうだね。仲間の魔法使いが見れば転移の痕跡を掴んでくれるかもしれない」

「今頃はこっちに向かってるかもしれないじゃないか」

「だとしても待ってもいられない。魔王城の決戦には聖王国軍の総力を結集していたし、僕が魔王の下へ辿り着いた時点で戦力はボロボロだった。魔王軍の方だってそうだろうけど、今は王国を守る戦力はほとんどないはずなんだ」

「……なんかそれすごい話じゃないか?」

「そりゃあそうさ。人類の命運を賭けた戦いだったんだよ」


 ……その人類の命運とやらを左右する存在は今二人して女の子の姿で辺境にいる。


「ボクはまず聖王国に行かないといけない。街にいるうちに手紙を書いて送っておいたんだけど、こんな世の中じゃ手紙なんて届くかどうかわからないものだしね」

「手紙なんて書いてたのか。それなら、こんな寄り道していて大丈夫なのか?」

「最終的には、また魔王城まで辿り着かなくちゃいけない。そのための資金は無いし、何より魔王をこのまま放ってはおけないしね」

「そうだな。こいつこのままだとスライムに殺されかねん」

「なにそれ、あはは!」

「いやこいつマジで危なかったんだって。本当に魔王か今でも疑うレベルで」

「あははは、そうじゃなくて、スケロクが」


 何がおかしかったのかクロは俺を指差して笑う。

 スライムに殺される魔王というのは確かにおもしろ案件だけど、どうやらそのネタじゃないらしい。


「まず小さい子の心配なんだね。スケロク、君ってやっぱりいいヤツだ」

「なんだよそりゃ?」

「ボクはそろそろ寝るよ。時間になったらカルデを起こしてあげて」

「そうするけど、そういやクロはカルデのことどう思ってるんだ? 敵の総大将だろ?」


 俺にはまだちょっとそうは思えないが、この幼女は魔王でありこの世界の人間の最大の敵のはずだ。

 秘法の宝珠とやらで元の姿に戻りたいという理由はあるだろうが何故一緒に旅をしようと思えるんだ。


「ボクもスケロクと同じさ。おやすみ」


 ……それだけ言うと、もうクロは横になって寝息を立て始めていた。寝るの早ぇ。



 クロの寝息とカルデのいびき、そして虫の音にフクロウの鳴き声。

 パチパチと燃えるたき火に薪を足してみても孤独感を無視出来そうにない。正直さびしい……。

 …………、俺も装備の点検でもしてみるか。


 皮の胴当てはマッドドッグの攻撃を見事に防いでくれた。低レベルモンスター相手の話かもしれないが頼りになる。噛み付かれた跡を見てみるとさすが何ともなってないぜ。

 こんぼうもまだまだ新品だ。一度の戦闘で破損されても困るが。

 そういえばカルデは尻に噛み付かれていたな。


 腹で寝ているカルデのマントを捲り見てやるとワンピースの尻の部分に歯型の穴がしっかり開いている。後で起きたら補修してやろう……。



 ○



 さらに夜が更けると風が出てきた。

 ザァァという木々のざわめきと揺れる焚き火が小さく爆ぜる音。

 流石にウトウトしてきて船を漕ぎ出すと、突然近くでガサガサと草むらが揺れて咄嗟に構える。ウサギだった。魔物ではない。一瞬目が合ってそそくさと走り去っていく。

 警戒しすぎか。聖水も使ってるし滅多なことでは魔物の夜襲は無いと言っていたし、もう少し力を抜いてもいいかもしれない。それに……、


「尻は繕えたか? また犬にでも噛まれては敵わんのじゃ。しっかり頼むぞスケロク」


 次の見張りはこの幼女に任せるのだからそれくらいでないと命が危ない。


「ま、こんなもんだろ」


 カルデのワンピースの尻の部分に俺の皮の胴当ての一部をアップリケ代わりに貼り付けてやった。あまり見栄えは良くないが、一応防御力アップだ。


「くくく…、コレでいつ尻を噛まれようとも何の痛痒も受けぬのじゃ」

「痛痒とか難しい言葉をそんな悲しいセリフに使うな」

「次はパンツも頼むぞ」

「パンツは自分でやれ!!」


 カルデはついさっき、一人で起きてきた。

 あまりよく眠れていないのかもしれない。


「今頃魔王城はどうなってるんだ?」

「わからぬ。我が第一に知りたい情報じゃ。可能なら直ぐにでも飛んで行きたいわ。人間どもの街にしろ、もっと情報の集まる大きな街に行かなくては……」


 カリカリと爪を噛む幼女。行儀が悪いからやめなさい、とは空気の読めない言葉だろうか。


「バロットの奴なら必ずや転移魔法の作動を理解するはずじゃ。今頃はこの辺りにも調査隊のひとつも出しておるはずなのじゃが……」

「なんか目玉みたいな魔物が世界中に監視の目を光らせてるもんじゃないのか?」

「なんじゃそれ? 人間どもの領域を調査するのは容易ではないが、飛竜も多数いるのじゃ。しかし調査が来るにしろ、我は今こんな姿じゃしなぁ」

「スルーされる可能性のが高いよな」


 カルデにしろクロにしろ、今は仲間たちがよく知る姿をしていないのだ。あまり期待はできない。

 自分の足を使う他ない。


「クロは聖王国ってとこに行くつもりらしいが、とりあえずそこなら魔王城の話も何かわかるんじゃないか?」

「業腹じゃが、今の我にはそれしかない」

「そんじゃ俺は寝るけど、一人で見張り大丈夫か?」

「バカにしとるのか。見張りくらい出来るわ」

「はいはい。なんかあったらすぐ起こせよ」

「無論そうさせて貰うのじゃ。今の我には貴様しか手駒がおらんからの。頼りにはならんが頼りにしておる」

「ひとこと余計だ」


 明日はいよいよダンジョンに到着するみたいだし、体力を温存させてもらおう。

 万一のためにこんぼうを抱えて眠るとしよう。




「スケロク!! スケロク!!」

「な、なんだ!!?どうした!?」

「ムカデが!! 我の背中にムカデが入りおった!! 取って!取って!」

「………………」




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