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第10話 妖精さん



「バカじゃねぇか!? バッカじゃねぇか!?? なんだあのモンスターは!!」

「いやまさかいきなり火トカゲが出るとはね……」

「だから言ったんだよ俺は!! 何が一階層なら平気だよ!!」

「う、ウソではないのじゃ! 深層に配置しておるヒュドラやアークデーモンよりはマシじゃろうが!」

「今のボクらじゃ即死級だね」

「黒コゲにされりゃどれでも同じだ!!!!」


 一目散に逃げた俺たちは洞窟のあった渓谷を抜け森に入ってひたすら進み、その辺で足が限界だったのでとりあえず休憩を取ることにした。幼女を抱えてここまで走って流石にもう無理だ。心臓が破裂してしまいそうだ。


 息を整えあらためて被害を確認してみる。三人ともケガこそ無いが、クロはひのきのぼうを失ってしまった。

 俺の方も革の胴当てに焦げ穴が開いている。


 そんな被害を受けて手に入れたものは魔晶石ひとつと、カルデがさっき開けた宝箱の中身。


「それで、さっきは何を手に入れたんだい?」

「…………」

「……おい、どうした幼女。答えろ」

「ぬぅ……わかっておる。…………コレじゃ」


 小さな手に握りしめられた物は、……なんだコレ?

 意匠からアンティークに見えるが、俺の目にはそれ以上は『ただの棒』のようにしか見えない。20cmほどの筒。その半ばにくっついている輪はトリガーガードなのか、引き金らしきものがあった。


「こ、これはじゃな……その……えーと、そう!トーチランプじゃよ! ランプ油を入れれば引き金を引くだけで火が点くのじゃ。焚き火を(おこ)すのにも便利じゃろ?」

「ただのチャッカマンなんぞがダンジョンの宝箱に入っとるか!!!!」


 そんな見えすいた嘘が通るか!! お前はそれ見て大声で叫ぶほど喜んでただろうが!!


「これこそアテにしてたアイテムじゃないのか? 宝具とかいう」

「うむむ……、確かにこれは我の宝具なのじゃ」

「やっぱりそうか!」

「じゃがその……、こう見えてかなりの魔力を必要とするタイプのアイテムでな?」

「なんだ、また使えないのか?」

「使えんことはないのじゃ。さっき手に入れた魔晶石を使えば、一回くらいは……」

「………………」


 頼むからまともな冒険をさせてくれよ。ガッカリすることが多すぎる。

 宝具さえ手に入ればモンスターとの戦闘も楽になるかと思っていたのに、それどころかクロの武器まで失い戦力ダウン。儲けは当面のところゼロ。ここに来るだけで食糧や聖水その他、使った道具もタダじゃない。マイナス計上ばかりが頭を悩ませる。


「クロ、さっきヤモリにお見舞いしてたあれはもう使えないのか?」

「あれはもしや"(いかずち)の呪文"か?」

「うん、今となってはボクの奥の手だね。しばらく使えない」

「あれほど手を焼いた三つの秘法の一つが、見る影もない威力じゃな」

「しょうがないよ。カルデだって魔力は大幅ダウンしてるでしょ」

「ぬぅ、忌々しい身体なのじゃ……」

「とにかく今は街まで戻らないとね。帰るまでが冒険だよ」


 というか金がもう無いんだから宿にも泊まれない。聖水の残りはどれくらいだ。

 いやいやいやそれ以前にクロが戦えないなら俺しか戦力がいないじゃないか。スライムや犬くらいしか対処出来ないぞ。今モンスターと遭遇するのは避けたい。


「ところで今どの辺なんだ?」

「う〜ん思いっきり走ってきたからね」

「おいおい、位置もわからないんじゃマズくないか?」

「そこまで深い森じゃないし、まっすぐ東に進めれば森を抜けられると思うけど」

「む、この場所ならば覚えがあるぞ?」


 まわりをぐるりと見渡す幼女。方向を見定めて歩き木々の間を抜け藪を掻き分けると、はてさて、


「うむ、やはりな。ほれ2人とも見るがよい」

「道がわかるのか? そういやここら辺はダンジョン作る時に来てるのか」


 カルデに促されて見てみると、藪の向こうには開けた場所があり、俺の背丈ほどの枯れ木を寄せ集めた何かの(オブジェ)がそこかしこに点在している。かなり広い場所のようで、木塊の数も10や20ではなさそうだ。何かのオブジェかと思ったが、どうやら小屋みたいな……?


「なんだこの場所は?」

「ここがゴブリンどもの集落じゃ」

「 ア ホ か ! ! 」


 なんてことだここはゴブリンの集落だったのか!!

 児童の頭を思い切り張り倒す事案が発生してしまった。このアホは本当にアホなんじゃないのか!? 思わず手も出るわ!


「落ち着いてスケロク大声はマズい!」

「わかってんだよそんなことは。わからねぇのはこの馬鹿の適切な処分方法だけだ」

「ここの集落を配置したのも我じゃもん! 角は、角はやめるのじゃ!」

「気持ちはわかるけど落ち着いてよく見て。様子が変だ」


 怒りに任せてカルデの角を掴み振り回すのを一旦やめ、クロの言う通りゴブリンの集落の様子を伺うと、確かに様子が変だ。


 ゴブリンの姿がどこにも無い。


「隠れてんのか? いきなり物陰から飛び出てくるとか笑えねえぞ?」

「何から隠れるのさ。ボクらは今来たばかりだよ?」


 動くものの気配は確認出来ない。クロが小屋に石を投げてみても何の反応もない。本当にもぬけのカラのようだ。


「いないのならば好都合じゃろ。迂回して帰ればよい」

「……うん。気になるけど、あんまり長居しても火トカゲがここまで追ってくるかもしれないしね」

「マジか。すぐ行こうそうしよう」


 ともあれゴブリンの集落の地図上の位置はカルデが把握している。現在地さえわかればこっちのものだ。


 ゴブリンが消えた理由は気になるが……。





 ……で、トラブルはあったものの、俺たちは陽が落ちる前に森を抜け昨日キャンプした場所まで戻ってこれた。

 街まではまだ距離はあるがここまで戻ればこっちのものだ。昨日と同じ手順で聖水を撒き、焚き火を囲んでようやく安堵することができた。


「ネズミとバッタが獲れたよ。スケロクはどっちを食べる?」

「誰が食べるか!!!!」

「いや〜、そろそろこういうのも食べ慣れとかないと。このままじゃ明日もキャンプすることになりそうだし」

「なんでそんな嬉しそうなんだよ……」


 そう。街に戻っても宿に泊まる金は無い。

 そして食料もそうだが聖水もあと一度分しか無い。

 未来の保証が何も無い。


「キャンプは一度の旅に三回まで。キャラバンでもなければ馬車の一つも無い冒険者はその基準で旅の計画を立てるんだ。聖水も高価だし沢山は持てない。三回キャンプしたら拠点に戻って体を休めないと」

「旅慣れてるクロでもそんなに長旅出来ないのか?」

「やれば出来るけど、三日目くらいに疲労がピークになるんだよ。その後なら疲れにも慣れてくるんだけど、ピークになったその時がマズい。集中力が切れる。大体そんなタイミングで変な魔物に遭遇して全滅する事が多いんだ」

「お、おう……」


 夜通し交代で見張りをするわけだし、疲労は確実に蓄積していく。勇者といっても根性論で命を賭ける馬鹿ではないってことか。現代人の俺には助かる教えだ。

 明日は街に戻ってクエストでもバイトでも何でもやって金を手に入れなければ。なんか冒険どころじゃなくなってきたな。


「ふぁ……、我は疲れたのじゃ……もう寝る」

「こいつ、何もしてねぇクセに」

「ボクが見張りしとくから、交代までスケロクも寝てて」

「……いや、今日は俺から見張りやるよ」

「え? どうして?」

「クロも疲れてるだろ?一番働いてるし。俺はちょっと寝る前に考えたいことがある」

「そうなの? それじゃ無理しないで眠くなったら起こしてね」


 そういうとすぐに寝息を立て始めるクロ。本当に寝つきいいな。いや本当に疲れてるんだろうけど。

 カルデのイビキ以外は静かになり、夜は更けていく。

 俺は昨日と同様に装備の確認を始める事にした。


 こんぼうさんはいい。数度の戦闘を経て目立つ傷は無い。頼りになる相棒はまだまだ役立ってくれそうだ。

 問題は皮の胴当てだ……。


 あちこちに焦げたような跡ができて指で突くと小さな穴が空いてしまった。火トカゲの攻撃の痕だ。留め具である皮紐まで焼けてしまってちゃんと装着出来ていない。それでも何も無いよりはマシだが、防御力は確実に落ちている。


 クロは武器を失った。カルデの武器もあるが幼女にも自衛してもらわんと。あの電撃魔法もあまり多用出来ないみたいだ。そして新しい武器を買う金は無い。

 やはりしばらく俺が主体で戦うことになるだろう。街でクエストを受けるにしろ、モンスターとの戦闘は避けられない。スライムやマッドドッグ以上のヤツと胴当て無しで戦わなければならないかもしれない。一体どうすればいいのか……。


「ちょっとちょっと、ちょっとそこのオーク……」


 …………?

 頭を悩ませながらこんぼうさんを磨いていると、微かに声が聞こえてきた。


「どこかで魔王様を見なかった? 見なかったったら見なかった? ここらはもう探したのだけど念のために聞いてるの」

「ど、どこだ??」

「こっちよこっち。どこを見てるの目がビイドロなの?」


 辺りを見回すと、不思議な光が俺に声を掛けてくる。


「言葉はわかる? ちゃんと通じてるかしら? オークはバカが多いからイヤなのよね」


 目を細めてよく見ると、淡い光の正体は妖精さんだった。

 虫翅を揺らして光る身長30cmもない女の子が、俺の目の前で宙に浮くように飛んでいる。

 おぉ……、さすがファンタジー世界。妖精までいるのか。今のところモンスター以外は角のある幼女しか見ていなかったから驚いた。


「ちょっと聞いてる? ホントに脳みそパンプキンなの?」

「妖精さん、ちゃんと聞こえてるし俺は人間だよ」

「ええ? ウソうそホント?」


 光る妖精も驚いた様子で軽くイラついた。そんなに俺はオークに見えるのか。

 顔の前で飛んでマジマジと観察してくる。近くで見るとかわいいな。などと思っていたら鼻やら瞼やら引っ張ってくる。その辺にしとけよ?


「イイわイイわ人間でも。それなら勇者を見なかった?」

「…………」


 この妖精さん、魔王と勇者を探しているみたいだが、何者だ?

 いや、魔王にだけ『様』が付いている。確実に魔物サイドだ。可愛いフェアリーに見えて立派なモンスターなのかもしれない。


「どうかしたの? カワイイワタシがこれだけ聞けば耳にマシュマロが詰まった人間は何でも教えてくれるでしょ?」


 ……う〜んどうしたもんか。魔王も勇者もそこで寝ているし、俺も一応は魔王側の戦力として召喚された身だ。オークではないが、立場上はお仲間ということになるのか。


「探してるのは魔王の方か?」

「そう!そうよそうなの魔王様を探しているわ。勇者も近くにいるはずなのよ。でもでも困ったの。どうにも姿が変わってるらしくて……」

「………………」


 やはりそうか。しかしスライムだの火を吐くヤモリだの見てきたがちゃんと言葉のわかる魔物もいるんだな。こんな所をほっつき歩いて雑魚に倒される前にこの幼女には迅速な保護が必要だ。


「それなら…………」

「はやく魔王様を見つけなきゃ。姿の変わった魔王様は誰も魔王様だってわからない。魔王城に戻ったら殺されちゃう。バロットが魔王様を狙ってる。その前に、見つけなきゃったら見つけなきゃ」



 ………………、


 ……………………はい?





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