ジェンガ(1)
最も残酷で、最も現実に近いお話。
〜〜復職支援二日目〜〜
「定期落ちましたよ。」
「え? あ、すみません、ありがとうございます。」
「いえ」ニコッ
道免さんは不思議な人だ。
復職支援に通っている人は日内変動で毎朝絶望的な顔をしていたり、中途覚醒や過眠といった睡眠障害で目の下のクマを作っていたりするのに、いつも1番に来て窓際の席で本を読んでいるらしい。
シミや髭の剃り残しのない綺麗な肌に長身。
髪の毛もセットされて、シャツにアイロンは当たり前、行形さんには「道免先生」と呼ばれている。
行形さんの言うようにきっと学校の先生や公務員なんだろう。
見た目から何となく想像しながら、窓側の道免さんを眺めているとスタッフさんが入ってきた。
「本日は体と頭の体操です。隣の部屋から運ばないといけないので、何人か準備の為に来ていただけますか?」
そう言われ何人かの男性が持ってきたものは…
「何これ! こんなのテレビでしか見たことない✨」
大きなジェンガだった。
積み上げた高さ170cm、ひとつのブロックの大きさが大人用の枕くらいある。
というかこれ小柄で女性の桜屋敷さんには不利なのでは……?
「私これすっごい好きなのよね!!」
「桜屋敷さん意外とたくましいですもんねー」
「子供ができるとこれくらい持ち上げられるようになるの!」
前言撤回。
私は後半の組になったので、ユラユラ揺れるジェンガを見ながらぼんやりしていると
「お隣、座ってもいいですか?」
と道免さんがやってきた。
「どうぞ。道免さんも後半ですか?」
「肩を痛めているもので僕はジェンガには不参加なんですよ。」
「あらら…引越しとかですか?」
「少し重い話になりますが…リハビリ付き合ってもらえますか?」
道免さん。
うつ病。過去の暴力事件のトラウマに苦しむ。
朝でもキリッとしているのは駅員時代の勤務よりは遥かに楽だから。
椿を見ると故郷の大島を思い出す。