この偶然を逃すな!
「2030年から来たあなたの読者です」
僕の目の前でにっこりとほほえんでいる少女、鳩羽みづきさんは、およそ100年後から来た、僕の作品の読者?らしい。
ということは、僕は将来ちゃんと作家になれている。そういうことなのだろうか。それって本当なのだろうか。実は堀川家の財産を狙うスパイかも、、、。
「なにさっきから、考え込んでるんですか?でも、少しわかりますよー、いきなり、こんなこと言われても驚きますよね〜。」
みづきさんの言っていることは本当かわからない。思い切って聞いてみよう。
「僕って将来ほんとうに作家になれてるの?」
すると彼女はなにを当たり前な、というような表情で堂々と答えた。
「はい、なってますよ。だってそうじゃなきゃ今、私はここにいないでしょ!」
安心した。今のこの行き詰まった状況はいつか解決するのだろう。だが、次の瞬間彼女の表情は一気に冷たくなった。
「でもね、このままじゃ、あなたはあまりつまらない小説ばっか書いて死んでしまいますよ。」
熱心な読者とは思えない言葉に思わず僕は、耳を疑った。
「はぁ?つまらない?じゃあ君は読者じゃなかったのか!」
「読者ですよ、れっきとしたね。あっ、でも100人の安達春太郎、あれは参加したことありませんね。人が多いところは苦手ですしね、若い人いませんし、それに、あれは私の中ではあまり面白くなかったので。」
彼女は「面白くない」とあっさり言い切った。さっきは感動した〜とか励まされ ました〜とか言ってたくせに。
「じゃあ、なんで、、、僕は売れないで死んでしまうのか?」
みづきの態度はすでに先程とは打って変わって落ち着いていた。二度ほど首を横に振った。
「まぁ、そういうことではないんですよ、あなたが生きているうちに、大正時代で、作家堀川秋晴は、一度、大衆小説なんかで一大ブームメントを起こすんです。確かに秋晴先生には文才があったんですから。でも、秋晴先生の短い畢生では誰も秋晴先生の本質を見つけられなかったのです。」
「僕の、、、本質って、、、?」
「それは、あなたが普段書きたいと思っている事ですよ。孤独、弱い自分との葛藤。あなたが体験した悲劇は、いかす事なく、あなたは死んでしまうのですよ。」
胸がキュッとなった。自分の心の奥底を見透かされたからだ。
僕は今、彼女の言った通り、孤独や弱い自分と向き合うような小説を、自分の不幸な体験と、照らし合わせ書こうとしている。
だけど、何度書いても、何度辛い過去を掘り起こして自分を見つめ直しても、自分の思うようには書けなかった。
「いつか、といういつかもなく、一生僕には書けない。」少し気づいていたが、改めて事実を突きつけられるとものすごく辛い。
僕はあの体験を悲劇で終わらせたくない。このままじゃあの辛い日々は無駄になってしまう。それだけは絶対に嫌だ。
苦しくて、身体が震えた。それに気づいた、みづきさんがそっと肩に手を添えてくれた。
「こんな事いってきましたが、それでも私は堀川秋晴先生が書いた本に救われたんです。」
「はぁ、、、。」
「だから、少し作家堀川先生のお手伝いをしようと思いまして。」
「手伝い…?」
「はいっ!お手伝いです。アシスタントです!だって堀川秋晴の書く文章が大好きですから。」
みづきさんが満面の笑みを浮かべた、可愛い。だが、「あしすたんと」ってなんだろう?僕は裕福な家のおかげで様々な洋書も読めて、英語をある程度知っている。だから「アシスト」という意味ならわかるが「アシスタント」って言う言葉は少し不自然に感じた。まぁ、英語はそこまで詳しくないんだけどさ。
「じゃあ、みづきさんが手伝えば未来から来た力によって、僕が売れるようになるの?」
「まぁ、保証はできませんよ。」
みづきさんは言った。ここであっさり頼ってしまおうとする僕はもしかしたらとても、ダメな人間なのかもしれないけど、そんな事よりも、今は少しでも今の状況を打開するために藁にでも縋りたい気分だった。
一方、みづきも馬鹿なりに、ちゃんと考えはあった。
最初の目的は、自分の尊敬する文豪に会い、少し話たい。あわよくばサインくだせぇ!くらいだったが、ここに来て気分がガラリと変わった。
運命だと思った。実際には大失敗した、タイムスリップ。だが、そのおかげでデビュー前の堀川秋晴に会えたのだ。こんな偶然、あるだろうか、どうせなら、帰る見込みも今のところ見つかっていないし、少しでも堀川秋晴に関わりたい。思い切って欲を出してしまった。でも堀川秋晴は自分を頼ろうとしてくれた、ならやる事はただ一つ、精神誠意手伝おう、それに。
『これ以上、悪く言われるのは嫌ですもんね。私も、堀川秋晴も。』
みづきは心の中だけでそう呟いた。
今回は前回に比べて随分短い内容となっている気がします。
これからも少しづつ、更新していくので思い出した時に、暇つぶし感覚で読みにきてくださいね。
ここまで読んで頂だきありがとうございます。まだ文章も未熟ですが、次回も読んで頂ければ光栄です。