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新たな仲間

どうも蒼榛です。

少し前回の投稿から間が空いてしまいました。すみません。

今回は、自分で見てて少し恥ずかしい回となりました。

あと、もう少し会話の部分うまく書けるようになりたいです。


「えー本日も晴天なり―」

昼休み、ぼーっとしながら特に意味もなくそうつぶやく。ただただ眠い。

「どうした?今日はずいぶんと眠そうだな。」

大宮がその様子を気にして、心配そうに声をかけてきた。

実をいうと昨日のこともあり夜中、いつも以上に悪霊退治を頑張ってしまい、ほとんど徹夜状態なのだ。おかげで、午前中の授業の内容などほとんど頭に入って来ないし、どんなに授業中で寝ても眠気が取れる気配がない。

「いやー、昨日ちょっと張り切っちゃってさー悪霊退治。おかげで眠いんっすよ。」

言い終わると同時にあくびをする。

「ほう…珍しい。なにかあったのか。」

「ん~…まああったといえばあったけど、なかったというばなかったかな。」

とてもあいまいな答え方をする。あまり木林のことに関しては話したくない。

「…そうか。まあ、いい傾向だ。」

「…よくねーよ。おかげで、授業が睡眠時間と化してるぜ…」

俺は、屋上であおむけに倒れる。太陽が目に入って手を前に出して、日差しを遮る。

「おっす!遅くなった!」

屋上の入り口の方から大きな声がする。清水だ。今日は、クラス委員とかの仕事かなんかで遅れて合流するということだった。

「おーい、日野本。今日はずいぶんとお疲れだな!」

目の前で手を振られる。

あーやべ、ちょっと今はこういう絡みに付き合う元気がない。

「あーうん。そう、俺、今お疲れ。眠い。しんどい。話しかけないで。」

顔だけを清水に向けてとてもだるそうに、そして至極興味なさそうに、棒読みでそう答えた。

「なんだその冷たい態度!」

「そういえば大宮、もう体調は大丈夫なのか?」

「無視かよ!」

「…ああ、大丈夫だ。問題ない。」

「なら、よかった。」

「…おーい、俺の声聞こえてるよなー。おーい。」

清水が、だんだんうなだれていく。やっぱこいつ面白いな。いじりがいってもんがある。

うなだれていく清水を横目に俺は重い腰を上げて、大宮と一緒に黙って飯を食べ始める。うん、今回は本当に喋る気力がほとんどない。清水もさすがに察したのか、間駄々をこねるようになにかつぶやいたあと素直に弁当を開けて食べ始める。っとその時だった。

「ねぇ、ちょっといい?」

ん?この声は、まさか…

俺は即座に振り向く。そこには…木林が立っていた。余りの驚きに眠気はどこかへ飛んでいき、一気に頭がさえる。ついでに箸が手から零れ落ちた。

「えーと…君は確か転校生の…」

木林に対して正面にいた清水が、ちょっと相手に気を使ったしゃべり方で口を開く。

「うん、木林よ。で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」

まずい、これは非常にまずい。

「あー!うん、君の言いたいことはよくわかった!!では、今から俺が代表して話を聞くからちょっと場所移動しようか!!」

俺は、すっと立ち上がったのちどこからどう見ても不自然な態度で無理やり話を終わらせ、木林の手をとり「え?ちょっ!?」っといわれながらも屋上の入り口の少し入ったところまでかなり強引に連れていった。

あーやってしまった。これは完全に後で噂が立つやつ…

周りに誰もいないことを確認し、木林の方を向く。

「おい、なんのつもりだ…」

「いや、そっちこそなんのつもりよ。」

とても不満そうな顔で手を振り払った後、腕組みしながら横目で俺を睨み付けている。だが、顔がどこか赤みがかってるのは気のせいだろうか?

「いやだってお前、今、完全に力に関しての話をしようとしてたよな!?」

「うん、そうだけど。それに何か問題でも?」

「あるにきまってるだろ!…力の素質があるって大宮に聞かれたら、ちょっとめんどくさいことになる可能性があるし、それに…!」

「ちょっと待って!今、私に力の素質があるって言ったよね?」

あ、やべ、これは失言だったか。

「ねえ?なんなの?力って?それにその力の素質が私にあるってそれってどういう意味?」

案の定、質問攻めである。

「あー、うん。わかった。わかったから、ちょっと落ち着け!」

手を広げて落ち着くよう促す。もうこうなってしまったらしょうがない。

「…放課後、体育館裏に来い。そこでいろいろと話してやるから、今は引いてくれ。」

木林は、一瞬ぽかーんとしたが、すぐに元の表情にもどり

「わかった。放課後体育館裏ね!忘れないでよね。」

「ああ、忘れねーよ。多分。」

少しだるそうに答えると、それが癪に障ったらしく少し腹立たしさの混じった声で

「多分って…絶対来なさいよ!」

というと、足早に階段を下りて行った。俺は大きくため息をつき、もとの場所に戻った。

「なんだ?お前ら付き合ってんのか?」

元の場所に戻るとすぐ清水が、にやにやしながらそう言ってきた。

「ちげーよ!まあ、いろいろあんだよ。いろいろ。」

「ほーう。」

清水が、すごく疑いを含んだ目でこちらを見ている。あー、うっとうしい。

その後、せっせと昼飯を食べ教室に戻って授業を受けている間に、だんだん自分が言ったことと、行動を思いだす。

(放課後、体育館裏って…告白でもする気かよ俺。てか、一瞬だけど手繋いでしまったじゃねーか!)

思い出せば思い出すほど自分の突拍子のない行動に恥ずかしさがこみあげてくる。俺は、それを隠すようにまるで現実逃避をするかの如く教室の机にうつぶせた。




「…すべては寝不足のせいだ。」

午後の授業も終わり、俺はとても疲れた表情で、完全な猫背状態で廊下を歩きながら、自分に言い聞かせるようにそう独り言をつぶやく。

改めて、自分はなんて大胆な行動をとったものだと思う。女の子の手を取り、人気のないところに連れていき、今度は体育館裏に来いって…なんだよ、それ。告白でもする気かよ。または脅迫。結局午後の授業ほとんど寝てしまったし。ほんと今日は、いいことないぜ…

まあ、全て自業自得なんだけど。

そうやって、思考をめぐらせている間に廊下を抜け、下駄箱にたどり着く。あとは、靴を履いて外に出たらすぐある体育館の裏に行くだけだ。いや、行くだけなんだけど。

(やっぱ帰ろうかな…)

「いま、帰ろうとしたでしょ。」

「うおっ!?」

まるで、思考が読まれたかのような言葉が真後ろの頭の近くから聞こえて、思わず飛び上がる。少し距離を取って後ろを向くと、そこには木林は腰に手を当てて立っていた。

「後ろにいたなら、さっさと声かけろよ…」

「だって、なんか話掛けんなってオーラ出しまくってたもん。」

「う…否定できない。」

なんか、こいつと話してると調子狂うなぁ…

「他の二人は?」

「ああ、用事あるから、先帰っといてって伝えといた。」

その時にまた清水のやろうが、いろいろと言ってきたが…今はそんなことどうだっていい。

「で、まず何に関して教えてくれるの?」

「あ、うん。とりあえずここで話すのもあれだから、歩きながら話そう。」

俺は、体育館裏に向かって歩き出す。さっきまであんなに行きたくなかったとこだが、そこ以外最適な場所は思いつかなかった。

 俺は、歩きながら力について自分が知っていることをなるべく簡潔に説明した。

「なるほど…つまり、力を使うことで、悪霊を倒すことができるということ?」

「ああ、そして力を使うことで、身体能力が飛躍的に向上する。まあ、実際に体験してみるとわかるさ。」

「で、その力を宿す人たちだけにしか、悪霊を見ることはできないって感じ?」

ふむ、物分かりがよくて助かる。

「そうそう、だから君に力の素質があるってあの時、言ったんだよ。まあ、ちょっとした失言だったが。」

そういっている間に体育館裏につく。俺は、周りに人がいないことを軽く見渡して確認する。

「じゃあ、実際にどうやって力の開放をするか、実践するぜ。…まあ、簡単なことなんだけど、呪文とかそういうのもないし。複雑な魔方陣を描くとかそういう作業もないし。」

「…もったいぶってないでさっさと教えなさいよ。」

少し無駄なことを話してしまったらしく、少々不機嫌になってしまった。

「おっと、すまんすまん。別にもったいぶるつもりはなかったんだ。で、方法なんだけど…精神統一ってやつ?をするだけだ。簡単だろ?」

人差し指を立ててそういって、顔色をうかがう。…まだ、少し不満そうな顔をしている。

「…実際にやってみなさいよ。」

冷たい目で木林はそういった。

「あ、ああ。わかった。やってみせよう。」

俺は、目をつぶり心を無にする。すると体から一瞬力が抜ける感覚がした後、大きなうちに秘めた何かが体の中ではじける。そして、体がとても軽くなる。成功だ。

「こんな感じだ。っつっても木林からしたら、ちょっと透明に見えるようになっただけであんま変化ないかもな。ちょっとここら辺に鞘が増えたくらいで。」

右手で鞘に手を触れる。

「その剣は何に使うの?」

「そうだな、悪霊から身を守る為…つまり護身用…かな?」

少し言葉を濁す。倒すという表現はあまり使いたくなかった。

「で、それはどうやったら手に入るの?」

「あーそれは…」

やばい、これ以上話すとさらに話がややこしくなる…!!

「それは…また、後で話す。」

冷や汗をかきながらそう答えるのが精いっぱいだった。

「はいはい。で、力の開放の際のコツとかないの?」

「え、あ、そうだな。えーと…」

思ったより素直に受け入れてくれたので逆に戸惑ってしまった。

「まあ、そうだな…コツとしては心を無にすること。つまり…目をつぶって寝ればいいってことだな!」

「ふ~ん…よくわからないけど、ちょっとやってみる。」

俺のボケはスルーして木林は、目をつぶる。いやー、目の前で女の子に目をつぶられると、ちょっと唇を奪ってしまいたい衝動に…特に駆られなかった。

しばらく、いや数秒だろうか?時間が経つと木林の体の周りが緑色に光り始める。

(へぇ…力を開放するときって外から見るとこんな感じなのか…)

俺は、少し感心する。そして、この光が出たということはつまり木林も力の開放に成功したということになる。それは、同時に自分の心に仲間ができたという少し喜びと、変なことに巻き込んでしまったという少しの罪悪感を生んだ。

「で…できたかな…?」

緑色の光が消えたあと、木林はとても自身なさげにそうつぶやいた。

「あ…ああ、間違いない。力の開放に成功した…と思う。…とりあえずちょっと飛んでみたら?」

走ると危ないからな。経験則的に。

木林は、軽く地面を蹴った。すると、体は自分の身長を超すくらい飛び上がった。

「え?なにこれ?体がかるい!!」

木林は、まるで子供のように何度も飛び上がる。俺は、制止しようと思い近づこうとした、その時。

「…あまり、校内で力をむやみに使うなよ。」

俺は反射的に声が聞こえたほうを振り向く。…そこには大宮と清水が立っていた。

「なんで…!?先に帰れっていったのに…!?」

驚きと愁傷の混じった顔で俺は大宮と清水を見た。

「清水が気になるから、見に行こうぜって言いだしてな。いや、まさかこんなことをしているとは思いもしなかったよ。」

愕然とする。清水め…余計な提案しやがって…!!

「すまん!日野本!俺は、てっきり告白でもするのかと思って!!」

「いや、だから違うっていっただろ!!」

…どうする!?

俺は、なんとか言い訳を考える。

…しかし、何も思いつかない。くそ…こうなったら…!!

「大宮、隠していて申し訳なかった!実は、木林に力の素質があったんだ。そして、えーと…とりあえず隠してて申し訳ない!」

結論、とりあえず素直に謝っておこう。

深々と頭を下げる。すると、大宮は、

「なぜ、頭を下げる。別に謝るほどの話ではない。逆に誇ってもいいぐらいだぞ。力の素質をあるものを見極め、力を開放させたのだからな。」

「そ…そうでございますか。」

そういわれて安心して俺は顔を上げる。

「ああ、力を宿したものは、悪霊を引き寄せるからな。もし、力を開放する前に悪霊に襲われてたりしたら、大変なことになりかねなかったぞ。」

「なるほど。」

(あー、それなら、俺が、襲われているとこ、なんとか助けました。はい。)

これをいうと、話が長くなりそうだったので、とりあえず、うなずく。というか俺のこの行動ってかなりのファインプレーだったんじゃね!?とか自画自賛してみたりする。

「それに、仲間が増えることはいいことだ。悪霊退治は、人数が多いころに越したことはないからな」

「それについてなんだが。」

俺は、突然真面目なトーンでそう切り出す。

そう。俺はこの展開になることを危惧していたから、こいつに話さなかったのだ。

「木林には、悪霊退治はやなせないでほしい。」

「…なぜだ。」

「いや、だってさ、木林は女の子だぜ?それに、まだ転校したばっかでこっちの生活に馴染んでいないのに、そんな夜中に悪霊退治をさせるなんて、酷じゃね?」

「…確かに、一理ある。だが、それは本人次第だな。本人嫌なようなら、無理強いはしないこととしよう。」

おっと、意外と物分かりがよくて助かった。

「だってよ、木林。お前は、どうなんだ?悪霊退治してみたいか?」

俺は、木林の方に振り向いて、質問を浴びせる。いままで後ろで黙って話を聞いていた木林はうなずいて、

「うん、ちょっとやってみたいかな。」

「そうだよな、やりたいわけな…て、ええっ!!?」

俺は驚きのあまり声が裏返ってしまった。

「ちょ…やりたいってどういうことだってばよ!?」

驚きのあまり語尾がおかしくなる。

「いや、ちょっと興味あるっていうか、まあ、一回やってみてから判断してみるほうがいいかなーって。」

「…お前、意外と根性あるな…」

「あまり、女の子だからって、根性ないって決めつけるのはよくないわよ?」

ふむ、女の子ってよくわからん。俺の女の子に対してのイメージが大きく変わろうとしていた。




午後十一時。俺は、木林を助けた照明で照らされた公園のグラウンドで、木林を待っていた。

(くそぉ…今日は、さぼるつもりだったのによ…)

昨日のこともあり、今日はちょっと控えようと思っていたのだが、木林のたっての希望で教育係として今日も悪霊退治をすることになってしまった。

「木林め。許さんぞ…」

「誰を、許さないって?」

後ろから声がする。こいつ、俺の後ろ取るの好きなのか…?じゃなくて。

「あ、いや、違うぞ!決してお前のことを言ってるわけじゃないぞ!?」

「木林ってしっかりと聞こえたんですけど。」

「すみませんでした。」

深々とお辞儀をする。こういう時は、言い訳するよりすぐ謝ったほうがマシだ。俺はそう思っている。

「で、何が許せないのよ。」

「いや、その。あれだ。うん。疲れてて思わず言ってしまっただけだ。決して今日さぼりたかったとか、教育係めんどくせぇとか思ったわけではないぞ!」

俺は、嘘だと大抵の人にはわかるような説明をする。まあ、普通に説明するよりこっちの方が許されるんではないかという、ちょっとした打算なんだが。

「…あきれた。」

呆れられてしまった。

「…まっ、つーわけで。今回は、さっさと終わらせるぞ!では、さっそく移動じゃー!」

そういって、俺は地面を蹴る。木林も「あ、ちょ…待ちなさいよ!」と言いながら、ついてくる。

グラウンドをひと蹴りで飛び越え、もう一度地面を蹴って、一番近くの家の屋根の上に飛び乗る。木林もそれに続く。少し動きがぎこちなかったが、なんとかついてこれたらしい。少し、いやかなりの勢いで飛び出してしまいかなり飛ばしてまった気がするが、ついてこれたということは、こいつも将来有望かもしれない。

「…だから、将来有望ってなんだよ。そもそも、この力に将来とかあるのか??」

「…なーに、独り言言ってんのよ??」

「ん?…あー、声に出てたか?」

「うん、よく聞き取れなかったけど。」

「あ、いや、たいしたことじゃないから。気にせんでもええよ。」

「ふ~ん??…なんかそういわれると気になる…」

ジト目でこっちをじーと見てくる。腰をかがめて、こちらを少し下から、見つめてくる姿は、どこか男心をくすぶるものがある。

「いま、なんかよからぬこと考えたでしょ?」

「…は?そんなことねぇよ!ただ…」

「ただ??」

あ、やべ。これ、言わなきゃいけない流れだ。えーと、どうやって誤魔化そうか…よし!これだ!

「ただ…美しい、眺めだった。」

屋根から公園の方向を向き遠くを見るような目をする。

気まずい沈黙が五秒ほど続いた。

「…なんか反応してくれません!?」

耐えきれなくなって木林の方を向いてそう口にした。

「いや、言い訳があまりにもひどくて言葉も出ませんでした。」

「すみませんね!」

木林は、それ以上追及することはなかった。どうやら、軽いノリだったと思われる。

「そういえば、普通に他人の家の屋根に立ってるけど、これ大丈夫なの?」

木林は屋根を指さしてそういった。

「ああ、それなら、大丈夫だ。今、俺らの体は、とっても軽いからな。大げさに飛び跳ねたりとかしない限り大丈夫だと思うぜ。」

「そう。で、どこに悪霊っているの。」

「それを探すために今、屋根にあがったんだよ。」

「あー、どこにいるかはわからない感じなのね。」

そういうと、木林は、おでこに手を当てながら、あたりを見渡す。どうやら、悪霊退治をどこかお遊び感覚でやってるようだ。

「悪霊…怖くないのか??」

すると、ぴくっと反応した後、斜め上を眺めながらあごに手を当てて、考え込むような態度を示す。

「う~ん…まあ、怖いっていえば怖いけど。でも、もう何回か見てだいぶ慣れたし、それに…」

くるっとこっちを向き、満面の笑みを浮かべる。

「いざってなったら、あなたが助けてくれるでしょ?」

その言い方は、どこか意地汚さを感じるが、なにか確証があるような言い方だった。

「いや、まあ…否定はしないけど…」

頭を掻きながら、俺は、そう答える。

「む~、そこは、男らしく『おう、まかせろ!』くらい言いなさいよ。」

「あ、はい。すみませんでした。って、さっきから俺、謝ってばっかじゃね!?」

「あんたが悪いのよ。変なことばっか言って。」

「はい、そうですね!全部自分がわるぅございました!」

俺、このままこいつに虐げられてしまうのではないかという感情を少し抱き始めていた。

そもそも、こいつが何を考えているのかよくわからないのだ。あの、屋上での最後の態度がどうにもひっかかって、それからというものかなり疑心暗鬼になっているところがある。それに前からなのだが、こいつと話してると、気が付いたらあっちのペースになっている。というか、会話をする前にすでにペースを握られている。…気がする。

そんなことを考えながら、あたりを見渡してみたが、悪霊の姿は、確認できない。

「…ここら辺にはいなさそうだな。よし、移動するぞ。」

「あ、うん。わかった。」

近くの屋根から、違う家の屋根へと移動していく。

二、三回それを繰り返し、また移動するときになった際、俺は話題が思いつかなかったので、ずっと腑に落ちなかったことを質問した。

「なあ、なんであのとき断らなかったんだ?」

「あの時??」

「ああ、悪霊退治のことだよ。大宮に言われた時俺は、てっきり断ると思ってたぜ。てか、俺だったら確実に断っている。」

「だから、そのとき言ったじゃない。ちょっと興味あったし、今後に活かせるかなーって。あと…」

「あと?」

少し口を紡いだのち、とても言いずらそうに木林は口を開いた。

「女の子だからって、理由で、このことからひくのはちょっと嫌だったから…かな??」

「…なんだそれ。」

俺が、そっけない返事をすると、木林の表情に影が落ち、動きが止まる。俺もそれに合わせて立ち止まる。

「おい…どうし…」

「だーかーらー、あなたが、女の子だからやめさせたほうがいいって言ったことが少し気に食わなかったの!」

「え?あ、俺、そんなこと言ったか??」

突然の態度の変わりように思わずたじろぐ。

「い、い、ま、し、た!!ったく、これだから男の子は…!!」

ぷいっとそっぽを向く。その態度はどこかかわいらしい…じゃなくて!

「いやいや、その…俺はただ、お前の安全とか生活に支障が出ないのかとか、家庭崩壊につながらないかとかを考慮していっただけで…」

「最後のなによ…じゃなくて、心配してくれてるのはうれしいけど、今度から私を女の子だからって、弱いって扱いしないでよね!」

「だから、そういうつもりで言ったんじゃ…まあ、いいわ。わかった。今度から気を付ける。」

やはり、腑に落ちない。どうやら、こいつは男女差別を嫌う質の人間か?

その時、ふと目が何かをとらえた。

「あ、いた…」

黒い丸い塊。小さいが間違えなく悪霊だ。

「え??どこ??」

木林は、あたりをキョロキョロし始める。

こいつ、ほんと余裕だな…

「あそこだ。あの家の玄関の入り口付近の…」

木林に悪霊がいるところを指さしながら、説明する。

「あーあれね。うん、見た感じ私を襲ったのより小さいね。」

「まあな。あれくらいなら、まあ、楽勝だろ。」

「そうね。」

「そうねって…、ほんとお前、余裕だな…。とりあえず行くぞ。」

屋根から降りて、悪霊のところへ向かう。

見ている限り、悪霊は逃げるような様子もない。ある程度の大きさになるとそういう理性のようなものを持ち合わした奴があることはあるが、こいつは多分まだ生まれたばかりの人で言う赤ん坊みたいなもんだ。ただ、何も考えずに宙を浮遊している。

悪霊が目の先にいるところまでつくと、俺は口を開いた。

「こいつだ。これが、悪霊だ。」

「うん。てか、前見たことあるからなんとなく知ってるけど。」

「そ…そういえばそうだったな。で、倒し方なんだけど。」

俺は、剣を出して軽く振る。剣は、なにもない空虚な空間を切り裂く。

「こんな感じで、剣を振って斬る。ただそれだけだ。」

「ふーん?案外簡単ね。」

木林は、放課後あの後に大宮から『君には、これがいいだろう』と言われて渡された短刀をさやから取り出す。そして、

おもむろに、

何の躊躇もなく、

悪霊を切り裂いた。

「これでいいの?」

「お、おう。」

こいつの精神は、恐れというものを知らないのか!?それとも俺が臆病なだけか!?

すると、木林は唐突に息を大きく吐いた。

「あー、気構える必要もなかったわね。まあ、日野本君が出来ることだから、私にもできないことはないって最初から思ってはいたけど。」

「なんだよそれ!おれ、どんだけなめられてんの!?」

「だって、日野本君だし。」

「ひどい!」

俺は顔を隠して膝を丸める。すると、木林は表情をやわらげ、クスクスと笑いだす。

「冗談冗談。ほんというと、結構ビビってたのよ?私。」

「まったくそうは見えなかったんだが。」

「うん、まあ空元気ってやつ?恐怖に飲み込まれないように敢えて明るくふるまってたって感じかな?あと、私は日野本君がいてくれるだけで…」

そこで、突然顔を真っ赤にして、口ごもってしまう。

「いてくれるだけで…??」

「いや、な…なんでもない!!で、今回はこれで終わり??」

話題を無理やり変えようとしている。こういう木林は、どこか新鮮だ。

「ああ、まあそうだな。初日だし。だいたいもうわかっただろ。それに、俺は、今日はさっさと帰って寝たい。」

「うん、わかった。じゃ、じゃあ、また明日学校で!」

「ああ、じゃあな。」

足早にかえってしまった。俺は、一人道端に取り残される。

「あいつ…もしかして俺のことを…??」

俺は、そこまで鈍感などこぞの主人公とは違うのだ。



読んでいただきありがとうございます。

次の投稿は二週間以内にはしたいと思います。

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