初めての悪霊退治
(…まだか??)
午後11時40分、俺は集合予定時間より少し早めに集合場所についた。
周りは、少しの街灯があるだけで真っ暗な公園だ。
今来てからちょうど五分くらいたったくらいだろうか。まだ、二人の姿は見当たらない。
そろそろ、来ないかなと思い左右を見渡してみる。すると、自分から見て右の道の奥から人影が近づいているのを感じた。
「おーい、清水―」
手を振って自分の存在をアピールする。
「お、もう来てたのか。早いな。」
清水は、すぐに気づいて手を軽く上げた後、力の開放をしてきたのだろう、すぐに俺の目の前まで来て、昼間と同じような軽いノリで話しかけてきた。
「まあ…暇だったんでな」
少し視線を横に逸らしてそう答える。本当のことをいうと、これ以上家にいると寝落ちしてしまいそうだったからなんだが。
「大宮は?」
「あぁ、あいつは、多分まだだ。いつも時間ぴったしに来るからな。」
「なるほど。あいつらしい。」
大宮は何事もきちんとするタイプなんだが、それが少し普通の人と比べると度が過ぎているところがある。
「そういえば清水ってどうやって、家から出てきてんの?」
このまま何もせず待っているのは退屈なので、軽く話題を振ってみる。
「そりゃー窓からこっそりとさ。」
窓を開けるようなアクションを起こして、清水はそういった。
「やっぱり、そうするよな。で、いつもその格好?」
清水は、青い市販でよく売られているジャージを着ていた。俺は寝るときに着ていた赤いTシャツと柔らかい素材で作られた黒いパンツで来ていた。
「こういう服装のほうが、動きづらいやろ?」
そういうと、清水は軽くシャドウボクシングをして、動きやすさをアピールした。
「まあ、確かに。この服装もジャージほどじゃないけど、動きやすいけどな。」
自分の服装を新ためて眺めてみる。個人的にはこの服装は気に入っているのいるのだが、確かに外で行動するには少しだらしないかもしれない。これなら、ジャージのほうがまだマシかもしれない。
「そうだな…今度からは、俺もジャージで来ようかな。」
「うん、それがいい。動きやすいことに越したことはないからな。それに、あまり目立つ格好してると、悪霊が隠れてしまうからな。」
大きくうなずきながら清水はそう答えた。
(悪霊が隠れてしまうね…俺的にはそのほうが好都合なんだが。)
「お、そういえば、大宮服装は見たらびっくりするぜ。あいつはな…」
といったところで、清水は会話を中断し自分が来た道の反対方向を向いて、ニヤッと笑った。
「おっと、噂をすればなんとやらだ。」
清水が見ている方向を見ていると、大宮がこちらに向かっていた。全身黒の服で、とても見づらかった。
「ん??あれ本当に大宮か?なんか全身真っ黒でよく見えねぇぞ。」
目を細めて凝視する。その大宮らしき人は、黒いフード付きとパーカーに黒いズボンをして、さらにその黒いフード頭にかぶっていた。
「ああ。こんな夜中にあんな服装してるやつは、不審者かあいつしかいねぇ。」
「…だろうな。」
多分本人は、悪霊から姿を見えにくくするためにそうしてるんだろう。だがそれは、逆に言うと俺らからも認識しづらいということだ。
(ほんとに闇に溶け込んでやがる…。)
俺は、大宮がだいぶ近くに来てからやっと大宮だと確証を得た。そのまま俺が、その服装をなにか得体も知れないものを見るような目で見ていると、大宮はフードを脱ぎ少し怪訝そうな顔をして口を開いた。
「どうした?」
「い…いや、なんでもないよ。」
大宮は、俺の目をじっと覗いたあと、「そうか」とつぶやいた。
「…で、僕はこれから何をすればいいんだ?」
大宮が、これ以上このことに関して追及してこないことがわかったので、一区切り置いて俺はさっそく本題を切り出す。
「悪霊退治だ。」
即答である。
「いや、そうじゃなくて…それを、どうやってするのか聞いてるんだよ。」
頭を掻いて言葉を探しながら、少し呆れた口調でそう聞き直す。
「ああ、それなら、清水が説明してくれるだろう。」
「え?そこ人任せ!?」
「そこは俺がすんのかよ!」
俺と清水が同時にツッコミを入れるが、大宮はそれが当たり前だろというかの如く無言でうなずいた。
「そうだな…え~と…まあ簡単に言えば自分が持ってる剣で悪霊をスパーんって斬ればいいんだよ。」
清水は、剣を出して実際に振って見せながらとても軽い口調でそう言った。
「なるほど、この昼に大宮からもらったこの剣で悪霊をきればいいのか…って切れるか!」
剣を取り出して軽く眺めた後、その剣を地面に叩きつけた。
「お、ナイスノリツッコミ。」
清水が親指でグーサインを俺に送る。俺は少し腹が立ったので、笑顔で清水に軽い腹パンを食らわせる。
「ぐおっ!?」
清水は苦悶の表情で一歩後退する
「い…いきなりいてーじゃねーか!」
「俺には、とても重要なことなんだ。真面目に答えろ。」
俺がおなかを抑えて中腰になっている清水を愚民を見るかの如く見下しながらそういうと、
「いや、そこはすまん!いや、すまんけど!」
清水は、片手を前に出して俺に落ち着くように仕向ける。
「…ほんとに簡単なことだぜ?」
「ふ~ん…?」
俺に疑いの目を向ける。
「いや、ほんとだって!」
「ほう…じゃあ、実際に見してくれよ。」
「いいけど、その前に悪霊を探さねーと。」
清水があたりを見渡す。俺もそれに習ってあたりを見回してみるが、特に悪霊と思われるものは見当たらない。
「で、その悪霊ってのはどこにいるんだ?」
「どこにでも。特に発生地域が限定されてるってことはねぇし。ただ、意外とわかりづらいところに隠れてっから、あまり多くは見つかんねぇ。」
周辺を散策しながら、真剣なまなざしで清水はそう言う。
「いっつも一日にどれくらい狩るんだ?」
「多い時は、10体くらいか?もちろん見つかんねぇ日もある。」
「りょーかい。…今日見つからなければいいな。」
ボソッとつぶやく。正直、悪霊など見たくもない。
「見つからなければ、見つからないでこしたことはないが…って、今から切るところ見るんじゃなかったのかよ!」
驚きに満ちた表情がこっちに振り向く。
「いや、だっていないに越したことないじゃん?」
いたら、怖いし。
「今日いなくても一日説明が伸びるだけだぞ。」
「あ、今日だけじゃないんですね…」
どうやら、逃げ道はなさそうだ。誰にでもわかるように肩を落とす。
「当たり前だ。今後は、ずっとやってもらうんだからな。」
「え…まじかよ…」
俺は、大きなため息をつく。いや、なんとなくそんな気はしてたけど。
ここで清水は一息ついた。
「…よし、じゃあ悪霊さがしといきますか!」
清水がそう言うと、少し遠目で話を聞いていた大宮はうなずき、
「日野本は、そちらに任せる。」
というと、真っ先にどこかへ行ってしまった。
「…行っちまったな。」
「ああ、じゃあこっちも行くぞ。」
「…どこに?」
「そうだな…とりあえずあの建物の上に行って探そう。」
そういうと、清水は、近くにある家の屋根を見て、今にも飛び出そうとする。
「いや、ちょっと待て。足音とかで中の人を起こしたりとかは、しないのか?」
「ああ、それなら大丈夫だ。今俺らの体はとても軽い。それに屋根の上に上がったぐらいの音に気づく人なんてそういねぇよ。」
「まあそうか。」
いや、ほんとにそうなのか?まあ、別にどうでもいいけど。
「じゃあ、行くぞ」
「おう。」
清水は、思いっきり地面の蹴り、まっすぐ上にあがって行く。僕もそれについでに地面を蹴る。そして、俺たちはほぼ同時に、屋根の上にたどり着いた。
「…なぁ?日野本、お前、瞬発力高い方?」
清水は、屋根の上に着いた姿勢のまま、突然そう質問した。
「ん?いや、そうでもないと思うけど。いきなりどうした?」
「いや、日野本のほうが少し後に地面を蹴ったはずなのに、つくのがほぼ同時だったのが少し気になってな。」
「ああ、なるほどね。つまりその言い方から察するに、この能力のステは多少本来の身体能力と関係があったり?」
「ああ…多少というかかなりな。っつっても慣れとかもあるから一概には言えんが。」
「へぇ~、じゃあ俺って、まさか将来有望のスプリンター!?」
パッと開けたむかつくくらいの笑顔でそういうと、清水は一瞬こっちを見て苦笑する。
「いや、大宮のほうがすごいから安心しろ。それに、もしそうだったらとっくに結果出てんだろ。」
「あ、確かに。」
少しいい気になりかけていたのに、釘を刺された感じだ。
「でも、あいつはけっこう前から力に目覚めてっから、力の扱いに慣れてるところもあるからなー」
「それは、つまり?」
「だから、日野本は将来大宮を抜く可能性があるってことだよ。」
「またまた~そうやっていい気にさせやがって。」
両手の人差し指を清水の方に向けて、にやにやと笑う。この際、清水は周りを見渡していて、俺のことは見ていなかった。
「まあ、将来が楽しみだ。」
今度は、こっちを振り向いてニヤッとしてそういった。
「いや、この力に対してそんな将来有望って言われてもうれしくないです。」
そう真顔で答えると、清水は鼻で笑う。俺もそれを見て軽く笑う。
すると、前を向いたいきなり清水の顔が真剣な表情に戻る。
「ん?どうした?」
「…いた。」
不意にそう言ったかと思うと、人さし指である方向を指した。そこは、家が少し入り組んだところだった。
「…何も見えないぞ。」
目を凝らしてみるが、特に変わった様子はない。
「まあ、行ってみればわかる。」
「なるほど。」
一体、悪霊というものがどういう姿をしているのか。すこし、興味もあったが、それと同じくらい恐怖もあった。
建物の上から思いっきり地面を蹴るわけにはさすがにいけないので、まず降りて、そこから走る。前回の経験からあまりとばさずに走ったが、それでも普通の人ならありえないスピードだ。また、かなりのスピードが出ているはずなのに周りの風景はよく見えるし、小回りもよく利くため、家にぶつかりそうにもならない。この未体験のことに俺は少し興奮した。
(すげぇ…こんなこと初めてだ。めっちゃくちゃ気分がいい。)
しかしこの気分がいい時間はもちろん数秒なわけで、すぐに清水は立ち止まった。
「…ほら、見ろ。あれが悪霊だ。」
言われるがままその清水が言った方向を向くと、確かに何かがいた。紫色の丸い体にぎろりと光る赤い眼と小さな手が二つずつ。とても邪悪な気配を漂わせているが、思っていたより恐ろしさはない。
「あれが悪霊か…思ってたのよりは小さいな。」
「そうだろ。だから大丈夫だって言ったろ。」
「確かにこれぐらいなら大丈夫…なのかな??」
体は直径数10センチ程度でとても小さく。もし攻撃してきたとしてもちいさな手があるだけで、そこまで大きなダメージを負うことはなさそうだ。突然突進してくるのではないかと少し考えてはみたが、今のところそういう気配はなく、ただ空中をゆっくりと浮遊している。
「では、さっそくその腰にある剣を使ってこの悪霊を退治してみろ。」
その発言に俺は、思わず清水の方に振り向く。
「…いやいや、まずは見してもらうって約束じゃ…」
「大丈夫そうなんだろ?だったらもったいぶらずにやってみろって。一発切ればいいだけだから。」
いかにも簡単そうに言ってくれる。
「どうやって!どんな感じに!?」
「そんなの適当に決まってるだろ。」
「逃げたりは?抵抗されたりは?というかとりつけれたりはしない!?」
「…まあ、とりあえずやってみろ。」
「…はあ」
まったく無茶いいやがる。
とりあえず、腰にある剣を鞘から取り出し構える。
…もう、こうなったらどうにでもなれってんだ!
「…じゃあ、いくぜ…お…おりゃーーー!!!」
意を決し、剣を両手で前に持ちながら雄たけびをあげながら地面を思いっきり蹴り、間合いを詰める。そして、めいっぱいの力で剣を上から振り落とすが、うまくコントロールできず空ぶってしまう。
「…ぷっ!かっこ悪!!」
清水が笑いがこらえきれなくなり、噴き出した。
「うるせぇ!俺はろくに剣なんか持ったことないんだぞ!」
「ふつう誰だってそうだろ。でも、なんだよそのハンマーみたいな振り方は。初めてでもそこまでひどいのはなかなかいないぞ?」
涙を流しながら清水は、少しバカにするようにそういった。
「う…うるせぇ!もういい!こんやろう、さっさと斬ってやる!」
恥ずかしさで顔が真っ赤のなる。もうこうなったらやけである。
今度は、まだ近くを浮遊している悪霊に駆け足で近づきながらぶっきらぼうに剣を体の前の方でぶんぶん振って悪霊を斬った。すると、悪霊は灰のようなりそのまま消えていった。
「…これでいいのか?」
意外とあっけなく終わったので、なんか拍子抜けって感じである。
「ああ、で剣なんだけどさ。こうやって…こういう風に振れば、うまく振れるぜ。」
清水が、抜刀し剣を三度振る。両手を使って放たれたその斬撃はとてもきれいで、まるで数年間剣を振ってきた人のように見えた。
「なんだよお前。剣道でも習ってんのか?」
「ああそうだ。よくわかったな?」
「え、あ…うん…なんとなくそんな気がしたから…」
本当に習っているとは思っていなかったので、少し返答に困ってしまう。
「じゃあ、俺に今から剣の振り方をレクチャーしてくれないか!?」
すぐに切り替えて、そう切り出す。
「ああ、別にかまわんが、少々長くなるぞ?。」
その後、俺は悪霊退治そっちのけで、ずっと剣の扱い方についてみっちりと教えてもらった。
…それから、2ヶ月たった。とりあえず次の日は軽くついてきてもらったが、その後からというも前もって言われていたとおり、一人で悪霊退治をすることになった。正直に言うととても疲れるし寝不足になるし、気分のいいものとは決して言えない。寝不足に関しては学校が終わった後、昼寝をしてなんとか睡眠時間を確保しているのだが、正直は授業中寝ることが多くなった。
(明日から、また学校か…)
家に帰りながらそう思う。あの騒動の後二週間で夏休みに入ったが、この二週間は慣れてないことも相まってかなりハードだった。それに比べて夏休みは、朝早く起きなくて済むし、気分的にとても楽だった。さらに言うと、二人と会うことがなかったので軽い気持ちでたまにさぼることもできた。しかしその夏休みも今日で終わりだ。
クラスメイトとまた会えるのは少しうれしいが、また眠気と戦う授業が続くことを考えると、うれしさの反面、面倒臭い気持ちも感じる。そんなことを考えてながら、俺は夏休み最後の悪霊退治から家に帰宅するのであった。
読んでいただきありがとうございます。
次話は、一週間後に投稿する予定です。
(あくまで予定ですので、多少遅れる可能性があります。)