全ての始まり
どうも。初投稿になります。蒼榛です。
この小説は、10年前くらいから構想していた小説で、頭では内容は固まってはいましたが、なかなか人前に魅せられる文章ではなく、今回も今できる範囲で自分なりに頑張って書いてみた感じです。まだ、人前に見せていい文章なのかといわれると正直わかりませんが、読んでくださるとうれしいです。
多くの家々の明かりは落ち、周りは街頭の光を除くと暗闇に染まっている深夜一時ごろ。俺、日野本淳は鞘からすっと銀色の剣を抜刀し、振りかぶる。
…ザン……
一閃。乾いた音が辺りの空気に伝わっていく。そして、一つの黒い邪悪な魂が消えていく…。これでようやく一体目だ。
「よし、今日はもう遅いし、このくらいにしとくか。」
剣を鞘にしまい、空を見上げる。
「俺は、なぜこんなことをしているんだろう…」
空に向かって問いかけても誰も答えてくれない。俺は数秒待ったのち諦めて足を動かし始める。
なぜ?そんなの決まっている。こうつぶやいたのはただの現実逃避だ。そう、すべてはあの大宮の一言から始まったのだ…
「お~い、今日も一緒に帰ろうぜ。」
それは二か月ほど前、中二の夏休みに入る少し前の話だ。俺は、大宮にいつものようにそう後ろから肩を叩いて声をかけた。
「ああ、別にかまわんが今日はこいつとも一緒に帰ることになってるんだが、問題ないか?」
大宮は、いつも通りの少し硬い口調でそう答えた。こいつは大宮黎。身長自体は中学二年の平均くらいの身長で、いかにも真面目って感じのストレートヘアの男である。昔からの幼なじみで、小学校のころからほぼ毎日一緒に帰っている。
「ん?ああ、全然オッケーだぜ。」
そういわれて、横を見ると確かにツンツン頭が特徴のいかにも兄貴分!って感じの少し長身の同じクラスの清水一真が大宮の隣に立っていた。確かに二人はちょっと前から仲良くなっている感じではあったし、俺も最近ちょくちょく話をする機会があった。しかし、いままでに一緒に帰ることはなく、家は反対方向だと思っていたんだが。まあ、大宮の家に直接行ったりするか、俺の勘違いだったんだろうと思い僕はそれについてはあえて口に出さなかった。だが、その予測は大きく外れていることを後に察することとなる。
最初は、一人増えただけの少しにぎやかな帰り道だった。清水とは結構話が合うし、清水自体がとても話し上手だったので、話はとても盛り上がったりし楽しかった。
「あの時のあいつ、ほんとうけたよな~」
「ああ、確かに」
そんなたわいもない話を数分間清水としているといきなり大宮が意を決したかのように立ち止まった。
それは、ほんとに唐突で俺は何か忘れ物をしたことを思い出したのかと一瞬思ったが、どうにも違いそうである。
「おい、何かあったのか?」
「日野本。」
「…なんだ?」
俺も、笑顔だった症状を少し直して真剣な顔を取り繕う。
「お前は、自分の中に宿る大きな力を開放したいと思うか?」
「…はっ!?」
いきなりなにを言い出すんかと思いきや。…なんだよそれ。中二病かよ。こいつ、まさか中二病に目覚めてしまったのか…??
「…大きな力を…手に入れたいと思わないか?」
「はぁ?いきなりなーにわけのわからないこと言い出してんだよ?大きな力?なんだよそれ??頭でも打ったんか??」
「…欲しいか欲しくないか聞いているんだ。いいからさっさと答えてくれ」
大宮が俺が言ったことにさすがに腹を立てたのか、少し吐き捨てるようにそういった。
こいつの言っている大きな力とはなんなのか?全くもってわからない。それに、なぜそんなことを突然言い出したのかも皆目見当がつかない。これは、もしかしたら大宮なりに考えた新しい遊びかもしれない。少し痛い気もするがとりあえずこの話に乗っかってみることにした。
「まあ、欲しいっちゃ欲しいかな。ないよりはあったほうがいいんかもしれないな。」
「そうか、君ならそう言ってくれると思っていたよ。では、少し試させてもらおう。」
いや、ほんと完全にこれは病んでしまっておられる…と思った次の瞬間、大宮は僕の腹の部分に手を押し当てた。
「おい、いきなりなにしやが…」
そしていきなりその腹を軽く押さえられた。
すると、一瞬意識が天に昇っていくようか感じがして、次に体ふわっと軽くなる感覚。その感覚と同時に体からは、赤い光があふれ出てきた。
なんだ…こりゃ…!?
俺は思わず言葉を見失う。確かに一瞬だったが、何か大きな変化が体に起こった。それは、何なのかわからないがとても大きな変化であるということはなんとなくわかった。
「…やはり日野本にも力を手にする素質があったようだな。」
「素質?おいおい、一体なにが起こったんだ!?」
「君には力を宿す素質がある。ただそれだけのことだ。」
「はあ…、力…ね…」
わけがわからない。なんだよ力って。てか、さっきの光ほんとなんなんだよ…
俺は、なんか何を聞いても無駄な気がした。これ以上今日のこいつと話してもいいことなさそうだ。
「俺、帰るわ。」
俺はぶっきらぼうにそういってこの場を立ち去ろうとした。すると突然清水が叫んだ。
「おい、ちょっとまて!お前力についてなんも説明聞いてないだろ!」
おいおい、マジかよ。こいつも関係者かよ。
「いや、だって大宮答えてくれそうにないじゃん?」
「確かにそうかもしれねぇ。でも、あいつはあいつなりに…あれだ、不器用なだけだ。」
「なんだそれ…」
大宮は確かに無口なほうで、学校とかでもあまり俺以外の人と話しているところを見たことがない。てか、俺と話す時も基本的に俺が一方的に話している。だから、今回はある意味頑張ったほうかもしれない。
「…そうだな。」
清水がそう小さくつぶやいたあと、
「よし!代わりに俺が説明してやろう!」
といった。
ああ、それの方が助かる…っていやもう帰りたい。
「お前も、あれか。素質ってやつがあった口か」
「ああそうだ。そして、俺は大宮から力授かった身だ。」
「少し勘違いしているぞ。俺は力をあげたんじゃなくて、引き出したんだ。」
…何言ってんだ、こいつら…
「はいはい、そうだったな。じゃあ、軽く説明していくぞ。」
といってまた話し始めたので、しょうがなく聞いてやることとする。
「まず、力の詳細を説明する前にこの力の発動方法を教えてやる。」
「あ、うん…て、え?俺もう力使えんの!?」
いきなりとんでもない事実が発覚した。
「おう、さっき力わけあ…じゃなかった。引き出されただろ。」
あー、あの手を腹にあてたのは、そういうことだったのか。…もう、なんかいいやどうでも。
俺は、考えることをやめた。
「で、発動条件は?」
「ああ、簡単なことさ。精神を集中させるんだ。」
「………それだけ?」
「ああ、それだけだ。」
「なるほど、よくわからん。」
「…まあ一回やってみろ。」
とりあえず言われたように一回やってみることにした。
精神を集中させる?つまり精神統一をすればいいのか?
そこで、とりあえずあの坊さんがよくする姿勢をとってみることにした。
俺は足で胡坐を組み、手を組んで、目をつぶってみた。
……しかし、なにも起こらない。
「…何もおきないじゃないか。」
「もうちょっと続けてみろ。もっと集中するんだ。」
「そういわれてもな…。なんかコツ?みたいなものはないのか?」
「う~ん、そうだな…周りのことを考えないようにして、自分の世界に入り込むような気持ちになればいいかな?」
「うむ、ますますわからん。まあいいや。とりあえずもう一度やってみる。」
そう言って、もう一度精神統一を始める。
(自分の世界に入り込むか・・・)
周りのこと、一切を遮断し、呼吸音だけを心に刻む。…十秒ほどすると、気のせいだろうか?だんだん体が軽くなってきたような気がした。そして、なにか体のなかから大きなエネルギーが湧き出てくる感覚を覚えた。その瞬間、何かが自分の中で目覚めた…そんな感じがした。
目を開けて立ち上がってみる。…??
体が軽い。
「なんだ…これ…体がめっちゃ軽いぞ…。」
「お!どうやら力の発動に成功したようだな。そう、この力が発動したとき自分の体は、とても軽く感じるようになるんだ。」
「なるほど、これがお前らの言う力ってやつか。」
「あと、この力は体が軽く感じるだけじゃないんだぜ。腕力、脚力とか体全体の身体能力もとても向上してるし、うまくやればものすごいスピードで移動することだって可能だぜ。」
ふむ、つまり身体強化ってやつか。確かに力を開放したという表現は、間違えではない。
「ほう、そいつは面白そうだな。」
「まあ、試してみりゃわかる。」
俺は、クラウチングスタートの構えを取り、思いっきり地面を蹴った。
ドンッ!
地面を蹴った瞬間ものすごいスピードで…飛び上がった。
「うわああああぁぁぁぁぁ」
思いのよらない速さに思わず声が出る。たった一歩、たった一回地面を蹴っただけだ。それだけで一戸建ての家を二つくらい飛び越えた。身体強化とか、そういうレベルを超えている。俺は清水のほうに反転して、今度はすこしゆっくりと三歩ほど擁して元の場所に戻った。
「ほ…本当に早く走れるな!びっくりしたぞ。」
「だろ、あともっとそれはさいっこうに驚愕することがあるぜ!」
「お?なんだなんだ?」
なんかだんだん楽しくなってきたぞ。
「それは、なんと…この力を使うと周りから、見えなくなるんだぜ!」
…え??
俺は開いた口がふさがらなかった。
「ちょ…ちょっと待て!…てことは、よ、いま俺ってお前たち以外からは見えてないってことか!?」
「ああ、そうだ。力なき者には一切俺たちのことを見ることはできまい。」
仁王立ちで、腕を組みながら清水はうなずく。見事なドヤ顔である。
「マジかよ!…てことは!ほかの人の家に入ってこっそりいたずらしてやることも可能ってことじゃねーか!!」
よし、これでクラスのあのちょっと気に入らないあいつとかを…っとにやっと笑って、小さな声でつぶやいたところで
「いや、それはだめだ」
と、大宮の冷静なつっこみが入る。
「…あ、いや、冗談だって。うん。で、一つ聞いておきたいんだが。」
俺は、さっきまでの軽い調子からすこしだけ真剣な口調に変えて尋ねる。
「で、この力にはデメリットとかあるのか?」
そうだ、こういうのはメリットだけなわけがない。デメリットも存在するはずだ。どっかの魔法少女ものでそうであったように。そもそも、こんな、人間の限界を超越したようなすごい力だ。デメリットがないほうがおかしい。
「…ああそうだ。そうだな…端的にいえばひとつだけだけどな。」
ここで久しぶりに落ち着いた声で大宮が話し始める。
…一個だけ?案外少ないな。
「この力を手に入れた人はこの力を使っている使っていないにかかわらず、幽霊が見えるようになる。」
「え…」
今までに幽霊を見たことない俺は、耳を疑った。
「お、俺、幽霊なんか見たこともなければ、見えてほしくもねえけど。」
少し困惑したかのような反応をした俺を見て、
「大丈夫だよ。そうたいしたもんじゃねーよ。数も少ないし。俺も最初聞いたときは、ちょっとこえーなーって思っていたけど、すぐ慣れたよ。」
と清水はねぎらいの言葉を俺にかけた。
「そうだ、すぐに慣れる。あと、今から幽霊の中でも危ない部類にある対悪霊用の剣を与えるから安心したまえ。」
「なんだよ。そのなんかゲームみたいな設定…自分の身の安全は自分で守れってか。…まあ、いい。とりあえずそれもらっとくわ」
「では、ちょっと待っててくれ」
そういうと、少し目をつぶる。すると大宮の体が少しずつ透け始める。
「え…おいおい大丈夫かよ…」
「いや、お前も今同じ状態だから。」
なるほど、力を持っているもの同士でも体は透けて見えるらしい。
力の開放が終わったのか、大宮の腰には大きなバッグが登場していた。そして、そこから一つの剣を取り出した。
「これが、お前に授ける剣だ。」
大宮は、俺の前に剣の鞘の方を下に向けて差し出す。
「はい、どうも。」
興味なさげな声でその大宮が持っている柄の下の方を掴んで受け取る。そして、自分の方に引き付けて、斜めに持ち剣を眺める。確かに見た目はよくゲームとかで見るただの剣だ。ひし形の間を開けながら皮がまかれている柄に黒い鞘。鍔は金属で、少しおしゃれな装飾が施されている。全長は50㎝ってとこか。だが、見た目よりも重く感じない。
「あれ、軽いな。」
「いや、本当は重いらしいんだが、この力が発動していることによって軽く感じるらしい。でも、力の発動を解除したらこの剣も消えるから本当の重さを感じたことはないんだけどね。」
「なるほど。」
少し振ってみる。実際に振ってみると少し重さを感じたが、特に気にするほどでもなく結構思い通りに操れそうだ。
「で、さっそくなんだが…」
その言い方に、少し嫌な予感がした。
「これを使って、ここら周辺にいる悪霊を退治してもらう。」
「ああ、襲われた時の話だろ?それならなんとか…。」
「いや、悪霊を探しだしそしてこの剣を使って退治してもらう。」
…ん?ちょっと待て。こいつ、今何って言った?
「ははは…御冗談を。自分から襲われにいくってか。」
苦笑気味にそう答える。
「大丈夫だ。ここら辺の悪霊はそこまで凶暴ではないから。」
平然と大宮はそう答える。ちがう。俺が聞きたいのはそういうことではない。
「いやいや、ちょっとまて!話が違うぞ!俺は、力がほしいかと聞かれただけで、悪霊を倒したいかとは聞かれてないぞ!」
そうだ、悪霊を倒すということになるということを最初に聞いていれば、こんな力欲しいなんて言わなかった。というよりも、力自体そんな欲しかったわけではない。
「それに関しては、伝えてなくて申し訳ない。」
「それ重要!とっても重要!!」
大きな声で、主張するが、それ以上の返答はなかった。どうやら、本気で悪霊退治をこの俺にやらせようとしているらしい。
「…で、それはやらなくてはいけないことなのか?」
「ああ。この力を持ったからには少しでも手伝ってほしい。そのために力を分け与えたのだから。」
ここにきて、更なる驚愕に事実が明らかとなった
「それ先に言ってくれません!?」
これだから、こいつは…。大宮は、こういうところ賢いというか、うまく人を誘い込むところがある。こんな感じでいつも俺は、面倒ごとに巻き込まれている気がする…。
「はぁ…まるで詐欺にあった気分だ…」
意気消沈しているところに、清水が背中をポンッと叩く。
「…まあ、人助けだと思って一緒に頑張ろうぜ!」
「お…おう…」
こころが折れかけているのに清水の慰めがさらに俺の心にダメージを与える。
「…ていわれてもよぉ、悪霊退治なんていきなりしろといわれても、やり方とか全然わかんねぇよ。」
独り言のように俺はそうつぶやいた。
「ああ、だから最初は俺たち三人で行く。」
まあ、そうなるよな。…て最初は…??
「最初は?じゃあつまり次からは…」
「慣れ次第、一人で行動してもらう。」
「そんな無茶な…」
俺の心はもう折れているといっても過言ではなかった。
「…おっと、少々立ち話が長くなってしまったな。…とりあえず力の発動を解除しようか。」
「おう…ってそうだった!俺まだ力開放したままじゃねーか!てか、解除できるんだな!そこには安心したぜ!」
「いや、力解除できねえと俺ら一緒に今日帰れてないだろ」
清水の冷静なツッコミが入る。確かにその通りだ。もうろくな思考すらできなくなっているようだ。
「で、どうやんだ?その解除ってやらは」
そう質問すると、大宮は、力を開放したときと同じように目を閉じる。すると、透けていた体が、だんだんはっきりと見えるようになった。
「…こうやる。」
全く透けていない状態になると、大宮は呟くようにそういった。
「お、おう。え~と…つまり…開放したときと同じようにしろと」
大宮はうなずく。…おい!それくらいは説明しろよ!まあ、わかるけど!
力の解除をした後はというと、僕は歩きながら愚痴や独り言をいいながら清水の説明を聞いた。どうやら、幽霊には二種類いるらしい。動物の霊とヒト型、または空気に漂うもの。前者は守護霊などで人間に害はないが、後者二つは人間を不幸にしたり、操ったりするらしい。…時には、霊感の強い人たちを襲ったりもするらしい。だが、そのようなものはここらでは見当たらないので、安心しろとのこと。説明を受けてる間、時間がとても長く感じられた。
「わかった。じゃあ今日の深夜12時にあの公園に行けばいいんだな?」
説明が一通り終わった後、確認をとる。
「ああ、…じゃあ、俺はここで。またな。」
「おう、じゃあな。」
「大宮も、また。」
「ああ。」
その会話を最後に俺たちは別れた。
「…あぁー!…俺の残りの中学生活、もうだめかもしれない…」
一人になった俺はそう嘆くようにつぶやいた。
読んでいただきありがとうございます。今後も、定期的に投稿できるよう頑張っていきたいです。(なお、作者本人は三日坊主のもよう)