広東民国 戦場
天野叢雲中佐率いる第三魔術大隊が、ちょうど皇国陸軍作戦本部通信をを受け取っていた。
「はあ? 蓬莱への出港船を監視じゃと?」
「はい。なんでもブリタニアとシャーロットが同時に宣戦布告したそうで……」
「そんで、広東国内の基地に駐屯しちゅうブリタニア軍を俺たちが叩く、と」
「はい。そのように」
通信内容を聞き、遠方の敵を眺めながら、しばらく顎に手を当てていた天野は、自身の無線を使い、各中隊に呼びかける。
「各中隊に通達せい。作戦を変更。至急、広東湾港に向かい、本国に向かう全ての出港船を見張りゃあ。ただし、迎撃は許可しちゅうが、こちらからは仕掛けんな。こりゃ本国総司令部からの命令ぜよ。繰り返す。本国行きの軍艦、船舶を全て監視せよ。以上じゃ!」
命令を出し終えると、今度は近くにいた通信兵を呼んだ。
「今から陸軍の作戦本部に通信を繋げ」
「はい。了解しました」
通信兵は、天野に言われた通り、陸軍駐屯基地の通信部に通信を繋いだ。
「接続、完了しました」
「ご苦労。あー、こちら第三魔術大隊大隊長天野叢雲。現在、広東民国との激突を控えた蓬莱皇国陸軍諸君に告ぐぅ。これより、俺、超人の天野叢雲が動く。陸軍は邪魔なので即時撤退せい。本国からの命令に従い、広東湾港へ急行するぜよ。以上じゃ」
司令部との通信を終えた天野は、通信兵に行っていいというハンドサインを出し、自分は飛行する物体の上に乗り、陸軍が激突するはずだった広東軍の殲滅に向かった。
「さて……」
広東民国陸軍の百メートルほど頭上。行軍する軍隊の全景を天野は捉えていた。
「ざっと見て一万はおるなぁ。戦車も大分あるし、砲兵も備えちょるじゃろ。あっちでは奴さんも追い詰められて、勝つためにえれぇ数ぶち込んだってことかいのぉ……。確かに、ここで負けたら、もう首都は目の前じゃ。数入れんにも頷ける。にしても多いのぉ……流石は世界一の人口を誇る国じゃ。しっかし、俺の敵じゃなか」
飛行物体に乗りながら、天野は通信を公開にして広東軍との交信を図った。
「行軍中の広東民国陸軍諸君に告ぐ。俺ん名は天野叢雲。おまんらもよく知っているじゃろうて、蓬莱皇国が誇る『超人』の一人じゃ。今すぐ降伏せい。俺は気が長うない。待つ気は毛頭ないぜよ。三十秒後、降伏の意思が見られなければ、即座に攻撃を開始するっちゃ」
三十秒待たずして、敵軍本部より通信が入った。
『ワレラニ、コウフクノ、イシナシ。バンゾクヲ、ウツ』
それを聞いた天野は、大きな溜息を一つ吐くと、広東軍先頭より三百メートルほど前方に着陸した。
「ほんなら遠慮はいらん。こっちも攻撃を開始させてもらうきに」
天野が空に手を掲げると、彼のチョーカーが閃光し、空中に無数の刀剣が出現した。
「『其は世界の終焉を記す戦争。狡猾神の悪戯により全てが燃え落ちる。残った世界は何も残らず、ただ悲痛な叫びがこだまする』」
天野の詠唱と共に、それぞれの刀剣に魔術効力が付与されていく。広東軍前衛が天野に弾丸の雨を浴びせるが、全く当たる気配がない。そうこうしているうちに、天野の詠唱が完成する。
「さあ、滅びの時じゃ。終焉を告げる剣戟!」
天野の掲げた手が前を指すと同時に、空中で停滞していた刀剣が、広東軍に向けて、一斉に射出された。
刀剣は、敵歩兵や戦車、ないしは地面などに当たって爆発し、歩兵たちの悲鳴と共に、次々と死体の山を量産していった。
「嗚呼、いい景色じゃ。人が死に、怨嗟の声が響くっちゃ。血肉は花火のように咲き、零れた臓物の赤がまた美しかぁ。本当に……素晴らしいぜよ!!!」
死が彩る世界に酔い痴れながら、さっきまで人だったものの山の中を闊歩する天野を、無数の濁った眼が見つめていた。
方言は適当です。ご了承ください。