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ただし、使うとズボンが濡れる  作者: 溝のライター
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イリスとアリスと始まりの村

朝起きて、顔を洗い朝食を食べる。イリスとアリスには朝食時に出かけることを伝え、イリスにはアインの家を聞く。アリスは少しさびしそうにしていたが、脱ひも生活を目指すため、ここは我慢してもらう。


そしてお昼が過ぎた頃、ハジメは慣れない農作業をしていた。アインに相談しに言った結果、お金と食料を同時に作ることができると言われ、イリスに聞いたところ、家の裏の畑は今何も作っていないと言われ、よし、農家の真似事をしてみるかと意気込んだのが失敗の始まりだった。


「の…農業…なめて…ましたっ…」


ゼーハーゼーハーと息も耐え耐えに土を耕す。だいぶ放置されていた畑なのか、家の裏にあった畑は草は生え、土は固くなっていた。イリスに借りた農具で草をむしり、土を掘り起こしたところでハジメの体力は尽きた。もともと体力があるほうではないハジメからしたらがんばったほうである。イリスの夕飯ですよという声を聞く頃にはなんとか土を掘り起こす作業が終わったところだった。


風呂という習慣が無いため、土まみれの身体をよく拭く。少し痛い身体を引きずりながら食事をする。いつもよりおいしく感じたのは働いたからだろうか。

食べているときに、アリスに何を育てるのと聞かれ、ハジメが決めてないことを伝えると、ポテモ(ジャガイモに似たこちらの世界での主食)はどうですか、とイリスに言われ、育てることを決めた。大体一月ほどで食べごろの大きさに成長し、収穫できるという。アリスが何か言いたそうにしていたので、聞いてみると、アップリという果実を作ってほしいといわれた。アリスの好きな果物らしいが、最近は作っている農家が少なく、なかなか食べれないといっていた。こっちは食べられる果実が実るまで二ヶ月ほどらしいので、作ってみるよと言うと、嬉しそうにしていた。


翌朝、ハジメの身体を激痛が襲っていた。筋肉痛である。あまりの痛さに起き上がることもできなかったが、十分ほどかけてなんとか立つことができた。一歩前進すると激痛が走る。慣れない作業をしたせいなのか、全身筋肉痛になっており、動けなくなったところにアリスがハジメの部屋にやってきた。朝食できたよ、といってなぜかその場に立って動かないハジメの手を引く。ハジメの切ない声が家の中に響いた。


朝食を食べ終わることには何とか動けるようになったハジメは、近くの農家を回って種をもらうことにした。アリスもついていきたいといったので、イリスに許可をもらいアリスと共に家をでる。道案内をアリスに頼むと手を引いて案内してくれた。あまり早く動くと身体が痛いのだが、言えないハジメであった。

農家の家々をある程度周り、ポテモとアップリの苗をもらうことができた。がんばれよ、と激励の言葉までもらい、村の人の温かさが身に染みた。


裏の畑に来たハジメは、土の状態を見る。農業に詳しくないハジメではあるが、この土が畑に適していないことだけは判った。砂漠一歩手前のような状態なのだ。農家を回ったとき、畑も何箇所か見たが、似たような土だった。この土、栄養がないんじゃないか。ハジメが思った疑問だった。肥料は何を使っているんですかと聞いたハジメに、肥料?と聞き返してきた農家の人の反応を見て、原因がわかった。


てっとり早い肥料は人の肥しである。が、アリスやイリスに頼むことなどできるはずもなく、肥料の概念のない村の人から集められるわけもない。完全に変人扱いになることは目に見えている。そこでハジメは残飯を肥料にする機械が日本の家にあったことを思い出す。残飯を箱の中に入れておくといつの間にか肥料になっているアレだ。残飯なら家からもでるし、食事屋にいけば大量にもらえるかもしれないと思ったハジメはさっそく向かう。アリスには留守番をしてもらい、村へと走っていった。


ほどなくして、残飯をもらってきたハジメは畑にまきながら耕す。臭いが出ては困るので、埋めるようにして耕す。その作業だけで時間を食ってしまったが、種を植え付けるとこまでは何とかすることができた。


「早く大きくなれよー。成長成長~」


と鼻歌交じりで水をまき、今日の作業を終える。


食事中、アリスが畑に何をしていたのと聞いてきたので、土に栄養をつけていたんだよと答えると、親子二人してキョトンとしていた。問題は次の日起きた。


「ハジメさん…ハジメさん…起きてください」


ゆさゆさと身体が揺れ、ハジメは目が覚めた。今朝は身体に痛みはなく、むしろ運動をしたせいか調子がいいようにさえ見えた。

目の前には少し困ったような顔をしたイリスがいた。朝食には少し早いとおもったハジメはどうしたんですか、とたずねる。するとイリスはやはり困ったように答えた。


「その…畑なんですが…昨日栄養がどうとか言ってませんでした?何かしたんですか?」


残飯をばらまきましたとは言えないハジメは、えぇ少し。と言葉を濁した。そこでまどから漂う臭いに気がつく。これは、確実にものが腐った臭いだった。まさか、と思ったハジメは急いで畑に向かう。異臭の原因がそこにはあった。畑からだだもれの異臭は、このままでは村に広がること間違いなしであった。


イリスにどうにかします、と謝り、朝食の準備をしてもらう。その際、家の窓をすべて閉めてもらうことにした。

一人になったところで、ハジメは考える。臭いをどうするか、では無く、成長が早すぎるということを。

昨日植えた種は、すでに芽が出て、葉をつけていた。土も、昨日のように砂漠のような土ではなく、栄養がありそうな土壌になっていた。なによりもこの臭い。いくら残飯とはいえ、一日で腐ったりはしないはずだった。一体どういうことだ、と考えている間に十分ほど過ぎ、考えがまとまらないと悟ると、やっと臭いをどうにかしないとな、と考え始めた。


さらに上から土をかぶす、しかしせっかく芽が成長しているのでこの案だけは使いたくない。どうしたもんかと考えながらもハジメは植物に水を撒く。臭い浄化の魔法でもあれば便利なのに、と考えながら水を撒いていたハジメは、


「臭い消えろー浄化浄化―」


と言いながら、やけくそ気味に作業を行う。すべての水を撒き終わる頃に異変に気がつく。臭いがしないのだ。さっきまでしていた臭いがまったくしない。水が臭いを消してくれたのか、水にそんな力はないと直ぐに考えを変える。これだけ成長が早い世界だから、分解も早く、臭いの原因である残飯が水と合わさることで即効分解された、というのが無理矢理なハジメの回答だった。とりあえず臭いは消えたのだ。少しほっとして家に帰る。ただいま、とハジメがなれてきた挨拶をすると、朝食の準備をしていたアリスとイリスがお帰りと答えてくれるはずだった。


「おかえ…」


言葉は最後まで発せられることは無く、イリスの気まずそうな顔と、アリスの驚く顔によってさえぎられた。どうしたんだろうと思っていると、イリスが優しい目と声で、大丈夫ですから、と言ってきた。なんのことだろうと思い、どうかしたんですか、とたずねると、少し恥ずかしそうな顔をしたあと、ゆっくりとハジメのズボンに向かって指を刺す。場所的には股間。少なくともイリスの様な女性が指を刺す場所ではなかった。が、ハジメがそこに目を向けると、今度はハジメが驚愕した。


濡れていたのだ。まるでお漏らしをしてしまったように。


「なんで…っ!」


思わず叫んだハジメは、自分の身に何が起こっているのかもわからず、混乱していた。



-side イリス-


朝、変な臭いがすることに気がつきイリスは目が覚めた。日に日に暑い夜になってきたので、窓をすこし開けながら寝ているが、その窓から臭いが流れ込んでいた。外に出てみると、どうも畑のほうから臭いが出ているようだった。

そういえば、昨日ハジメさんが何か栄養をやったといっていたわね…そう考えたイリスは、ハジメに聞いてみようと思い、ハジメの部屋に行く。寝ているハジメを起こすのは申し訳ない気持ちになるが、この臭いが村中に広がるのは少しまずい気がしたイリスは、心の中であやまりながらハジメを起こす。

直ぐに臭いに気がついたハジメと一緒に畑に向かう。どうにかしますので、と言い家に戻るように言われたイリスは、頼もしいわ、と思い言われたとおりに窓を閉め、朝食の準備をしていた。


朝食の匂いが家に広がるころにはアリスが起きてきた。おはようと挨拶をした後に顔を洗いに外に出る。帰ってくると、お外臭いといい、今朝の話をする。ハジメが言うなら大丈夫、と誇らしく言うアリスを見て、いつの間にそんなに仲良くなったのかしら、とイリスは思いながらもやはり嬉しく、ほほえましくなる。

アリスに手伝いをしてもらい、そろそろ料理が出来上がるというころ、ハジメが帰ってくる。ただいま、という声にかげりがないことを見ると、どうやら解決したようだった。お帰りなさいと答えようとしたところで、ある一点に目がいってしまう。女性としてそこだけに目がいくのはとても品のよくないことだとは思うが、しかしそれもしかたない。ただいまと言う笑顔のハジメの股間が濡れていたのだ。それはもう見事に。


イリスは、ハジメのことを二つ、勘違いしていた。一つは年齢、ハジメを十五、六歳くらいと思っていた。もともと童顔のハジメだが、日本人特有の黒髪黒目が特に若く見せていた。もう一つは身体の傷である。そのことでハジメを歴戦の戦士と思っていた。これら二つの勘違いと、目の前のことが合わさったとき、さらなる勘違いを生む。


戦いすぎて、身体に障害をもってしまったのではないか、と。


その後、ハジメが自分のズボンが濡れていることを発見すると、驚きのあまりに声を上げていた。それを見たイリスは、さきほどの考えが間違っていないこと確信し、ハジメに優しく大丈夫ですよ、と声をかける。それでもやはり恥ずかしかったのか、顔を赤くしてハジメは部屋に走っていった。その姿を少し可愛いと思ってしまったイリスは不謹慎と思い、首を振り考えを消す。

料理を盛り付け終わったところでズボンを変えてきたハジメが恥ずかしそうに帰ってきた。違うんです、アレは匂いを消すために水を撒いていて、その水が…と椅子に座った瞬間に言うハジメに、アリスが、私も昔していたから…と恥ずかしそうに、でも優しくハジメに言う。人に気を使えるようになった優しい娘を見て、イリスは嬉しくなる。ハジメの違うんだーと言う叫びも聞こえないほど胸のいっぱいになったイリスは、何事もなかったように食事にすることにした。


その日の朝食にはその話は一切でてこなかったが、それが逆にハジメをいたたまれなくしていた。


-side out-


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