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ただし、使うとズボンが濡れる  作者: 溝のライター
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イリスとアリスと始まりの村

 魔法、それは空想の力。それは奇跡。それはあってはならない力。すくなくとも科学万能の世界で生きてきたハジメにとって、魔法は漫画やアニメの中での力だった。手のひらから火を出す。水を操る。雷を落とす…など、ゲームではおなじみの力。しかし、モンスターに襲われ、怪我まで負ったこの世界、ここでは魔法は存在し、この目の前の小さな女の子が使えるというから驚きだ。


 魔法が使えるとカミングアウトしてからすでに十分。動かなくなったハジメをどうしたのかな、と思いながらもアリスはじっと待っていた。ようやく思考が落ち着いてきたハジメはアリスにお願いをしてみる。


「あー…アリス君、そのー…魔法を見てみたいのだが…だめ…かな?」


なぜか口調が変になってしまったハジメに首をかしげながらもアリスはこくんとうなずく。


「ん…」


と人差し指を立て、集中するようにアリスが何かを唱え始めた。すると小さな火が指先に灯る。マジックではない。魔法である。色々な視点からそれを興味津々で見ていく。まさしく魔法であった。


「これが…魔法…」


感動しているハジメに、アリスは少し気を良くしたのか、火の大きさを大きくしていく。火が十センチほどのボール上になったとき、アリスが口を開く。


「私は…火の属性だから…火が得意…」


そういって指先の火を小さくしていき、火は消えていった。まだ魔力量はそんなに多くないらしく、長時間使うと熱が出てしまうと説明を受ける。先日までの熱はそのためなら、無理をさせてしまったなと反省するハジメだった。

アリス先生の講義を受けたハジメは、ある程度の魔法に対する知識を手に入れた。要約すると、魔力を持った人には、それぞれ属性があり、それぞれの属性にあった魔法を使うことが出来るとのことだった。一人の人間が、二つ以上の属性を持つことはなく、一人一系統だという。火、水、土、風、これらの四大属性の他に、闇、光、雷などがあり、滅多に現れない属性だという。四大属性にも偏りがあり、魔力を持つものの五割が火、二割が風と土、残りの一割が水だという。それぞれの特徴を挙げるのならば、火と風は攻撃に、土は守りに、水は回復に適している魔法が多い。特に水の属性を持つものは数が少ない上に回復が出来るとのことで大変貴重な属性であり、仕事に困らないとのことだった。

ハジメが訳すると十分ほどで終わる説明も、アリスのポツポツとした説明ではおよそ一時間かかったことは、ご愛嬌だろう。


魔法の講義が終わることには、イリスが帰ってきた。お昼を一緒に食べ、一緒に行きたいというアリスを引き連れ、長老の家に向かう。その途中でアリスが魔法を使えることを教えてくれたことを伝えると、驚いた後、ややあってにっこりと笑い、アリスを優しく撫でた。その姿を後ろから見ていたハジメはあったかな気持ちになり、親子など、血のつながりではないな、と思っていた。


長老の家では、イリスが話を通していたおかげか、すんなりと話は進み、見事イリスの家への居候が決まった。魔物との戦いで記憶をなくし、森を彷徨っていたところ、イリスを助けることになった、という筋書きになった。


帰りにカディナの診療所による。自分の持ち物は捨てたのかとたずねると、一応とってあるとカディナは答えた。一応とはどういうことだとたずねたところ、


「白い袋みたいなのに入ってた魚、ありゃ腐ってたから捨てたけど、いるの?」


とジト目で見られた。どうやらかなり臭ったらしい。すぐさま土下座しそうな勢いで誤り倒す。まぁいいけど、といい、カディナは服とズボン、財布と携帯とカッターをもってきた。


「これで全部だろ?申し訳ないけど中身を見させてもらったよ。見たこともない通貨だったね。しかもかなり精巧な。どこの国のものだい?」


少し疑うように聞いてくるカディナ。さて、どうやってごまかす説明するかと悩んでいると、イリスから助け舟が入る。


「カディナさん、昨日そのあたりのお話を少し聞いたわ。今はそっとしてあげて。今長老様の家にいって、私たちと一緒に暮らすことになったわ。いずれ落ち着いたころにハジメさんから話してくれるはずよ」


そう言ってイリスはカディナを諭す。二十歳は年下であろうイリスには弱いのか、カディナは、今度教えなさいよ、と苦笑いし奥に引っ込んだ。イリスにお礼を言い、アリスと三人で家に帰る。その帰り道、父親に肩車をされてはしゃいでいる親子をじっと見ていたアリスに気づく。ハジメは体力や筋力に自身はないが、小さな子供くらいなら持ち上げられるだろうと思い、よし!と気合を入れアリスを後ろから一気に抱き上げ、肩車の体勢へ持っていく。可愛らしい悲鳴が聞こえたが、すぐに何をされたのかわかったアリスは、少し照れたように笑った。少し歩くと、恥ずかしかったのか、降りるといいだし、降ろしてあげると先に走って帰っていった。横では、あらあらとイリスが優しく笑っていたが、ハジメは内心ほっとしていた。

 アリスを一気に持ち上げたとき、ハジメは腰をやっていた。かっこつけた手前、どうにもならずに我慢をしていたが、もしアリスが途中で降りず、家まで肩車をしていたら大変なことになっていただろう。

 

 先に帰っていてください、もう少し街を見てまわりますとイリスにいうと、夜ご飯の支度をしながら帰りますといい、家に向かっていった。イリスの姿が見えなくなると即効で腰を叩く。


「あぁぁぁぁ…理系の俺、無理しすぎ…」


腰をとんとんと叩いていると、後ろから声がかかる。野太い男の声だった。


「おう!にぃちゃん!怪我良くなったんだな!」


筋骨隆々のおっさんだった。はて、こんな知り合いいただろうか、いや、男性の知り合いなんて長老くらいしかいないぞ…などと考えていると、それが顔にでたのだろうか、おっさんは自己紹介をしてくる。


「あぁ、そういや気を失っていたな!俺はアイン!この村の警備をしてるもんだ!気を失ってたおめぇさんを村から診療所まで連れてったのも俺だぜ?」


ひげ面のおっさん、アインは仕事終わりなのか、少しだらしの無い格好だったが、それが逆に似合っていた。


「あぁ、そうでしたか…。怪我はすっかり良くなりました。ありがとうございます」


お辞儀つきのお礼を言うと、アインは慌ててたいしたことしてねぇから頭をあげな!といい、俺のことはアインと呼べ、などとアニキ風をふかし、その場をさった。


腰の痛みが引いてきたところで家に戻ると、少し機嫌が悪そうに見えなくもないアリスと、くすくすと笑っているイリスが料理をしていた。ただいま、と少し照れくさく言うハジメに、二人はおかえり、と返す。その人のご飯は少し贅沢で、とてもおいしかった。




-side イリス-


 街を見てまわるというハジメと分かれて、イリスは家に戻る。今日のご飯は、ハジメが新しい家族になった記念に奮発しようと考えていた。

 家に帰って出迎えたのは、アリスだった。肩車がはずかしかったのか、先に帰っていたアリスは、平然とした顔でテーブルに座っていた。ただいま、というとお帰りと返す。しかし、そのあとで少し首をかしげる。どうしたのとたずねると、少し照れたように


「…ハジメは…?」


と聞いてきた。

アリスがハジメに魔法のことを自ら伝えたと聞いたときは驚いたが、アリスがハジメのことを日に日に気に入っていることがわかり、嬉しくなるイリス。今も姿が見えないハジメのことを気にかけている。

街を見にいったことを告げると、珍しく不機嫌になる。きっと連れて行ってほしかったのだろうことをすぐに見抜く母親は、その娘の姿がほほえましく、しかし少しさびしくなった。やはり、父親がいたほうがいいのだろうか、私では親としてできていなかったのかと。少し落ち込むが、それなら母親は私で、父親はハジメさんね…あら、嫌だわ…と一人で盛り上がっていた。


アリスは面白くなさげに皿を並べる。しばらくすると、思ったよりも早くハジメが帰ってくる。ただいまという言葉を少し照れくさそうに言うハジメに、アリスと一緒にお帰りなさいと伝える。すぐにアリスの不機嫌を感じ取ったハジメがイリスに目で合図を送るが、イリスはそれをニコニコと見るだけだった。


-side out-




いつもより豪華なご飯を食べ、いつもより不機嫌なアリスをなだめ、いつもの寝る時間になっていた。ご飯を食べながらハジメは思っていたことがあった。

俺、このままじゃ、ひもじゃね?と。


母と娘の二人暮らしというだけで、地球では大変な生活を送ることになるだろう。そんなところに男が転がり込んできたら、食費だけで大変なダメージを家計に与えてしまうのではないのか、そう考えていた。


これは火急に仕事を見つけなければならない、と思ったハジメは、イリスに聞こうと思うが、思いとどまった。イリスのことである、きっと遠慮することは目に見えていた。そこでハジメは、アインに聞くことを決め、眠ることにした。

朝、少し痛む気がする腰をちょっと気にしつつ、イリスから聞き出したアインの家を訪ねることにした。


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