花園route1
ゆっくりと食事を取りたかったのだが、俺の不用意な発言と花園の乱入によって平穏な時間がぶち壊されてしまった。
とりあえず、それはおいていおいて、今は積と別れて学園を散策している。
厳密には、森を散策している。
正直に言うと、迷った。
今の時代はスマートフォンのGPSを使えばいいと思われるだろうが、そうはいかない事情がある。何せ俺のスマホにはGPSチップが搭載されていないのだ。だが、勘違いするなよ。俺はあえて不便な物を使っているんだ。
俺は外に基本出ない。理由は単純だ。ネットがあれば物には困らないからだ。
わざわざ外に行って買えるかどうかの賭けをするぐらいなら家にいるほうがましだ。
要は、使わない物はいらないということを伝えたい。
だけど、その意識高い系の行動が今仇となって帰って来た。
「クソッ、何てバカなことをしたんだ」
地面に拳を突き立てたが、虚しいだけが残る。
「せめて、誰かがいればなぁ」
「僕はここにいるよ」
花園が木の影から現れて俺のいる場所まで歩いてきた。
「ちょうどいいタイミングで来たな。俺を森の外まで案内してくれ」
自分でも何様だと思う頼みかたをしたが、花園は嫌な顔一つせずにこう言った。
「別に構わないよ。君と一緒にいると退屈しなくてすむからな。ついてきてくれるかい」
花園に案内されるがままについていった。
暫くしてアスファルトにおおわれた道にたどり着いた。
「悪いな案内させてしまってな。ところで、ここは何処だ?」
「ここは、学園内の旧宿舎連だ。僕は君と同じように、授業を受ける気は全くないから案内してあげよう。勿論、これは僕のわがままに過ぎないから断ってもらっても構わないよ」
「正直に言って、俺は花園の事は全く知らない。だというのに、お前は俺に干渉しようとする
何故だ?」
「僕はねぇ、君の事が大好きなんだ。勘違いしないでくれよ。loveじゃなくてlikeほうさ」
「てっきりホモかと思っていたよ」
「変な誤解を与えてしまったようだね。いくらなんでも今日初めて会った人を押し倒すようなことはしないよ」
「それもそうだな」
会話を終えた俺達は旧宿舎連の中に入っていった。
旧宿舎連は男子寮は木造建築で、女子寮は鉄筋コンクリートで作られていた。その中心部分にステンドグラスのある共同スペースがある。
見た感じで言うと、男子寮が先に建てられて、後から増築によって女子寮が建てられたようだ。
案内されるがままについていくと、急に歩みを止めた。
「君に見せたいのはここさ」
進んでいった行き止まりに置いてある花瓶を花園が回すと、新たな部屋が出現した。
「この部屋には君には馴染みの深いものが見つかったんだ。実物を見て貰った方がいいかな」
薄暗い中を俺達は進む。宿舎の構造的にこの先は存在しないはずなのだが、何故か進む事ができた。
たどり着いた先には、古めかしいPCや多量の半導体素子がところ狭しと透明の引き出しに入っていた。その所詮パーツに過ぎない物の中に一つだけ見覚えのある物が紛れ込んでいる。しかも、完成品で存在していた。
「まさかあれなのか……。でも、あれは作ることが不可能とされているオーバーテクノロジーの塊と言われるものじゃないか」
俺は急いでそれを取り出した。それの形状は一見するとただの懐中時計に見えるが、裏に刻印されている"Choro Clock laboratory edition world position"の文字を見てただ者じゃない事が分かった。
Chrono Clock とは未知の時計としてこの世界で有名な物だ。この時計は、まず材質が判明していない。シルバーの色をしているが金属ではない。各国の研究機関が解析を行ってもデータは無し。センサーにすら反応しないのだ。そのせいで、カメラにおさめる事すらできない。デジタルはおろかフィルムですら不可能だ。
他に特徴を挙げるのならば、何故か遺跡で発見されたり、絶対に壊れない、文字盤が17枚ありそれぞれが違う何処かの時間を示している。ただし、1枚のみ不思議な文字盤が存在している。それは誰も動いている所を見たことがないのだ。いつの間にか針だけが動いているのだ。
まあとにかくオカルト的な時計なのだ。
「僕はこれを見かけて驚いたよ。それでちょっと使ってみた訳なんだけど……」
「使うだって? あくまで時計に過ぎないこいつをか?」
「そうなんだ。時計を弄くっていたら、何故だかわからないないけど情報が流れ込んできたんだ。それは製作者の事で、名前はクロノ・A・レコードっていう人なんだけど、この人は別の次元の人のようなんだ。次元理論的には多次元に置いても、その人と同等の存在に当たる人がいるみたいなんだ。それが君の事なんだ」
突拍子のない発言に俺は目が点になっていた。
「君なら隠された機能が使えるはずなんだ。龍頭を回して見てくれ。勿論引っ張ってから回してくれ」
確か龍頭は引っ張ると時刻合わせが出きるんだったな。俺は龍頭を引っ張ると時計の針が静止した。それどころか俺の腕時計も静止したのだ。少しだけ回して押すと景色が変化した。
いや、違う場所が変わったのだ。ここは、宿舎入り口だ。俺は急いで隠し部屋の中に移動した。
「どうやら成功したようだね」
「これは一体?」
俺花園に尋ねた。するとこう説明した。
「この時計は正確な時間を刻む。君はその時計の時刻をいじっくったんだ。そこ時点で時に矛盾が生じる。矛盾を解消するために、君が弄くった時間に飛ばされるんだ。最も、時を巻き戻す事はできるわけないから君の居場所だけが変わったようだけどね」
「つまり、ワープ出きるのか」
「その例えはあまり好きじゃないけど概ねその解釈で間違ってないかな。
誰の所有物かは分からないけど、君しか使えないから持っていっても大丈夫だろう。
早速それを使ってあれをやってみよう」
「あれってなんなんだ」
「君の事は調べさせて貰った。あのゲームを一緒にやろうではないか。名前は確か、甲州街道とか言ったか? セーブファイルは君のPCにしか入っていないだろう。取ってきてくれると助かる。そのために君に時計を渡す事にしたんだ」
俺がトキワンをこよなく愛しているのをこいつは知っている。アフィブログで日常的にプレイ日記を挙げているのがリアル割れするとは恐ろしい奴だ。
だが、それがいい。俺と趣味があうのはこいつが初めてだ。ファンとして交流をしざるをえない。
「取ってくるのはいいけど、何処でやる?
俺のはPCカード版だから場所によってはプレイ不可能だぞ」
「その点抜かりない。この部屋でプレイするから機材に困る事はない」
「じゃあ、取ってくる」
俺は龍頭をひねって自宅に戻った。