色恋route2
「どれどれ…」
早速、弥生から渡された例のぶつを読んでみるか。
夜の野獣覚醒編
僕の名前は舞 翔
何の変哲もない●学生さ。
といってもそれは数週間前の事で今の僕は一風変わった●学生と言えるかな?
ゴメンゴメン、自分の紹介をしているというのに疑問で答えたら駄目だよねへへへ。
今の僕では自分を紹介するのには生憎力がまるで足りない。
だから、数週間前の出来事を代わりにいうことにするよ。
僕は、数週間前に公園でとある人物に出会ったんだ。
その人はオッサンであった。
加齢臭と汗の香りが強く誰も近づきたくない独特なオーラを放っていた。
俗にいう所の”世捨て人”だ
はあ、これはひどい。なにがひどいって、まず主人公の名前から○液ぶっかけを想像させる。別に俺はそういったR18ものは嫌いではないが、いきなり過ぎる。早漏だ。出落ちだ。期待を抱かせる前にネタバレからはいるこの姿勢はなかなか真似ができるような物ではない。
だけど、まだ駄作とは言いきれない。主人公の目線で物語が進行しているので、その姿が一切描かれていない。一人称が”僕”なので、恐らくは男の子だと思える。この本の作者は、主人公の体験を疑似体験させる構成になっている。こんな同人誌を読むのは初めてだ。
もう一つよい点は、おっさんの説明文があるところだ。同人誌では、キャラクター達が日常を過ごしている中で、突然おっさんが文脈もなく登
場して、皆を犯し始めるというものがある。結末は、お○んぽには勝てなかったの快楽落ちと、現実が嫌になったとかいっていわゆる”レイプ目”の状態になる絶望落ちの二種類ある。どっちがいいとかいわないが、俺は重要なのはそこではない。ある時は部屋のドアから、ある時は女子トイレに乱入、そしてひどい時にはパンツ姿で部屋に出現する。乱入でも、侵入でも、堂々と入った訳でもなく突然部屋に出現するのだ。このおっさんは某ファンタジーゲームのように誰かに召喚でもされたのかと俺は毎回思う。そんな召喚おっさんは不思議なことに、
大抵の作品では見た目が似ているのだ。具体的に挙げていくと、デブで、白ブリーフを履いている。
正直言って、ありきたり過ぎて飽きた。
そんな中この作品はそれらを見事とはいえないがそれなりに考えられている
さて、続きでも読もうか。
「ああはなりたくないな」
僕は”世捨て人”に気づかれないように言い捨てた。
「なんだ若いもの。俺だって好きでこんなところにすんでいるんじゃねえよ」
うっかりしていた。まさか地獄耳だとは思わなかった。
「ごめんなさい。おじさん」
「ガハハハハ。お兄さんと呼んでくれ。しっかり謝れるなんて最近の若いものはしっかりしておるな。ちょっとお兄さんの話でも聞いてくれ。お菓子あげるからさあ」
学校で聞いたことある。お菓子をくれる人は十中八九子どもが大好きで、連れ去ろうとするらしい。
「僕は……今日用事があって、あの……早くかえらないと……」
「そいつは嘘だな」
「僕は、う……嘘なんか……」
「まだまだ青いな若いの。過酷な環境で人は過ごすと人が嘘をついてるかわかるようになるんだ」
知らなかったよ、そんな超能力のような力があるなんて、その力欲しいな。この力があればあの子の心も読めるかな。
「話を聞いてみてもいいよ。べ……別にその力について気になるとか、ほ……欲しいとか、ぼ……僕は思ってないんだからね」
「若いっていいなリビドーから心が読める。素直になりな、お兄さんが教えてあげよう」
バレちゃった。恥ずかしい。
でも、心を読めるならみんなとお友達になれるかな。
「成れるさ。君になら」
それから毎日公園に通うようになった。
完
「ねえ、晴井君どうだった?」
俺は言いたいことがいくつかあったが、一言だけ言った。
「これだけかよ。薄い本だろ、エロ同人だろこれは?」
「私はそんな事一言も言ってないよ」
弥生は真顔で答えた。
「いや、弥生が言ったんだろ。薄い本だって言ったじゃないか?」
「そうだよ。薄い本だよそれはね」
「ならばなぜに、S○Xシーンが無いんだよ。それよりもどこにもエロスの欠片もない。ただホームレスと○学生が会話しただけじゃないか。
ストーリーの最低要素は起承転結だと言われているが、まだ始まったばっかりじゃないか。なにも起きていないのに話を終わらせるなんて、つまらない以前に、何も思えることがない。これはひどい」
熱論している俺の顔を見ないように弥生は後ろを向いて両手を口を塞いでいる。
「ぷぷぷ、予想通りだよ晴井君。まさかここまで理想的な反応を見せてくれるなんて、私は嬉しいよ。ぷぷぷ」
弥生は笑いを少し漏らしながらゆっくりと俺の方を見た。
「どういうことだ?」
俺は状況を飲み込めなかった。せっかくのプレゼントを酷評したというのに、機嫌を悪くすることなく、むしろ上機嫌になっていることが分からなかった。
「薄い本には違いないよ。厚みだって5ミリもないほど薄いよ」
「俺が言いたいのは業界用語での薄い本の事で、厚みの事じゃない」
「ねえ、晴井君。ここは仮にもここは学校だよ。そんな不健全な物を持ってくる訳ないじゃん。
もしかしてエロ同人だとでも思った? そういうの私は嫌いじゃないけど、人にあげたりしないよ。大切な”宝物”だもん。
この本の本来の目的は、変態っぷりを知って笑い物にする事だよ。クスクスクス」
「クソーまんまとはめられた」
こんな小学生がやりそうな単純な物に引っかかるとは。
今思えば、ミスリードの塊だ。ぶっかけも、●学生も、知らない人が見ても何も思わないが、ある種の業界を知っている人だけが騙されるという手の込んだ物だ。歴史で言うところの踏み絵のようなものだ。
「でもね晴井君。私はそんな正直者の晴井のことは嫌いじゃないよ。恋愛とかの意味じゃなくて、お友達としてね」
「いくら何でも、勘違いする奴なんかいないだろ」
「ははは……。そうだよね」
(キーンコーンカーンコーン)
「授業終了のチャイムがなったよ。晴井君が長田さんに見つかるとめんどくさいことになるからここから離れた方がいいよ」
「警告をどうも。美告に見つかると授業をサボれなくなる」
「美告か……。へえ、そういう関係なんだ。羨ましいな……」
「じゃあな弥生」
俺は彼女に見送られながら暇潰しが出来そうな場所を探しに歩き出した。