もうひとつの神社……そして……慟哭
「な、何をされているのですか?」
彼女は不意に戸惑った声色によって押し止められる。
「ぬしは魂の存在についてどう思う?」
「な、何をいきなり!?」
参拝客の彼は十円玉を握り締めながら眉をひそめた。
参拝客の彼の前には境内から賽銭箱に糸を垂らして釣りをたしなむ清楚な巫女を姿が。
その巫女は「ムフっ」などと獰猛な猛禽類の笑みを浮かべて彼を睥睨するのだ。
「地獄の亡者も金次第ゲームをしているの」
一人つぶやいているのだが、まだまだあどけないコロコロと元気な声だ。
参拝客の彼よりも頭一つ分背の小さい巫女は賽銭箱を覗き込んでいる。
その姿は金髪の長い髪はツインテールに結ばれて、お天道様の日差しをうけてキラキラと輝く。
巫女の衣装が大きめなのか? 小柄な少女を更に小さくみせる。
「お参りしないの? それとも冷やかし?」
不意に綺麗なつり目に射抜かれた参拝客の彼はドキッとさせられた。
幼いながらも人の欲情を堕落させるような秋波。
「えっと……」
戸惑う参拝者の彼の顔をいつの間にか巫女は上目遣いで覗き込む。
「あなた、幸薄そう。一度落ちてみる? 魔道冥府の木の下に」
【手っ―――】
初めてだ。
参拝客の彼は女性に手を握られる行為は初めてなのだ。
柔らかくて小さな手の感触。
参拝客の彼は思わず硬直して手に汗が滲んで鼓動が早まる。
「ふふっ、可愛い。あなたはもう、何も心配しなくてよいよ……これからは」
巫女は少しだけ微笑むと参拝客の彼の頬に唇を突き出す。
参拝者の彼の頬にそっと唇が触れると参拝者の彼の瞳が涙で溢れていた。
異変だった。
繊細な感覚に恐上げる。
走馬灯のように記憶が脳裏に映し出されて……やがて紙芝居の終焉のようにプツリと途切れる。
チャリン。
握られていたはずの十円玉が重力にひかれ大地にいざなわれた。
そこにはもう、参拝者の彼の姿はなかった。
巫女は何事もなかったように再び、賽銭箱に糸を垂らす。
時折、賽銭箱から聞こえる阿鼻叫喚の響き。
それでも巫女は釣りを続ける。
魔道冥府の亡者を釣り上げて血肉を神前に捧げるために。