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クリスマスの奇跡  作者: move
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わたし、空中浮遊

北海道の中心地であり、道庁所在地、政令指定都市でもある札幌。

聖人君子、悪逆非道の輩諸々が入り乱れるこの街の上空をわたしは悟空の武空術さながらのスピードで疾走していた。


もちろん一死人のわたしの力などではない、その隣にいる羽根も輪っかもない天使様の奇跡の技である。


何故わたしがこのように冬の寒空の下、こうして宙を飛んでいるのかというと、なんでも再試験を行うには、それ相応の場所へと移動が必要とのことであった。


一体どこへ向かうのか?


「あっあそこあそこ!」


天使は無尽蔵に並ぶビルの一角を指指し降下していく、それに合わせてわたしの身体も一緒に降下していった。


そこは大通り、狸小路であった。

札幌に存在する、食、娯楽、衣服まで取り揃う総合メディアアーケード街である。

再試験とは何なのか?まさかお買い物ちょっきし1万円、ぴたり賞で復活などではないであろうか?


そんな二流テレビ番組の企画のようなものの筈がないなどと思いながら、この天使ならばやりかねない気もしていた。


しかし、そんな想像の更に上を逝く場所へと、天使は降りたち、指指した。


「ここですよー」



皆さんはご存知であろうか?札幌にもオタクの聖地は存在する。しかも、それはビル一棟に全て凝縮されているのだ、名は丸大ビル。


明らかにその一角だけ異様な雰囲気を醸し出し、異様な客が往来跋扈している。


ビルの入り口には「とらのあな」と書かれた看板が立ち、その横に、上へ登る階段と、地下に続く階段がある。

その手のものを求める客は、その階段を使う。


天使様は迷いのない足どりで地下行きの階段へと進みだした。

彼女はわたしの心を読んであえてわたしのもっとも望まぬことを選択しているのではないかと思った。

そして、そんなわたしの複雑な心境を覗きほくそ笑んでいるのだとしたら、なんて嫌なやつであろう。


わたしはこれから始まるであろう再試験とやらを想像し、そしてすぐやめた。


何ひとつ良い映像が脳裏によぎらなかったからだ。


「さあさあ急いで急いで!速くしないとあなたの身体腐っちゃいますよ?一生腐敗臭漂わせて生きる事になりますよ!」


「そんな身体で生き長らえるくらいならいっそ天使として毎日便所掃除していたほうがマシだ」


重い足どりで階段を降りていく、隅には店の中に置き場がないためかガチャポンがところ狭しと置かれている。


その中のひとつ「撲殺天使ぷぷりんちゃん」なるものを見つけ、一体どんな天使なのかと気になった。


そういや、この目の前にいる天使に名前はあるのだろうか?いや、あるのではあろうが、聞いて教えてくれるのだろうか?

どうやら天使にも色々と規則があるようだし。


もし先程の不可解なガチャポンのタイトルのように、ぷぷりんなどという名前であったならわたしはそれを聞いてどうなるだろう?


そんなふざけた連中に世界を監理されていたことにショックで昇天してしまうかもしれない。


しかし、興味はある、知りたい好奇心には勝てなかった。


「え?わたしの名前ですか?」

少し迷った素振りをみせ、視線を左下にそらす。

わたしはその仕草から、この天使は真名は言わないだろうと思った。

大抵、人は考える時は下へ、記憶から思い出す時は、上へ視線を泳がせる。

この天使は、考えている。名を教えるべきか、それとも偽名を考えている。

恐らく後者。


「わたしの名前はレムです。」


レム…明らかに日本人の風貌で、思考したすえひねり出された名前がレム。


「ラピッドアイムーブメントの略、あとはX線と同じ損傷を与える電離放射線量って意味もあるな、あとはへブル語で…」


「一角獣でしょ!言っときますけど、盗ってないから!正真正銘わたしの名前ですからね!天名ですけど」


必死に偽名ではないことを身振り手振り使って説明する天使。

しかし天名とはなんであろう?わたしはさらに聞いてみた。

「天名はですねー俗世の名を捨て天使として生きるために授けられる名前のことですよ。名には言霊というものがあって、人を操る力や、人を縛る力があるんです。だから天使に生まれ変わったら現世で使っていた名は誰にも言わないんです。その変わりとしての天名でもありますね」


「ふーん、言霊ねえ、じゃあ本名を晒してる現世の人間は本人の気づかぬうちに操られ放題ってわけだ」


階段を下りているうちに、寝間着として履いていたジャージのポケットに異物を感じた。探ってみると、手のひらサイズの酷く趣味の悪い装飾が施された手鏡が現れた。

ああ、そういや、ポケットに入れっぱなしで死んだんだっけ。


「なんですか?それ。」

それを見た天使は不思議そうに首をかしげてわたしに尋ねる。


「真実を映し出す鏡だよ」

わたしは宝物を披露するかのようにそう答えた。



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