わたし、再々試験
「あなたはそうやって、斜に構えて、諦めて、これからも好機を、契機を棒に振って生きていくつもりなんですか?」
天使は肥溜めを見るような眼で、落胆した口調でそう続けた。
「諦めるも何も、わたしにこれからなどないであろう、もう死んでいるんだから」
さあ、早く、わたしを天国へ連れて行け、もうわたしはこの世に未練はない
そう言って、わたしは胸に黒い淀みが渦巻いたかのように、気持ちが悪くなった。
本当に?わたしはこの世に未練はない?このまま終わることがわたしの望んだこと?
「あなたは勘違いしているようですけど、天国ってあなたが考えているほど良いところではありませんよ、わたしみたいに天使となってあなたのような魑魅魍魎の類を成仏させたり、あなたみたいな妖怪変化の類を天使に就職させるために教育しなくてはいけない。つまり、現世となんら変わりなく、働かなくてはいけないんです。そこに、職種を選ぶ権利もないんですから」
「人を妖怪扱いするな」
わたしは心底ゾッとした、死してなおも働かなくてはならないなんて。
わたしのイメージしていた、綺麗な花々に囲まれた、年中暖かく、美味しい食べ物が手をのばせばそこにあるような夢のような世界、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家、石油王の豪邸、ビルゲイツの別荘のような世界ではなく、本当は尺魂界のような世界であったなんて。
お花畑なのはどうやらわたしの頭であったようだ。
「あなた、本当のところどうなんです?このまま終わって天使としてフラフラ空を舞って良いんですか?大学まで行かせてもらっておいて、何も残さず、何も成し遂げず、人を愛せぬまま成仏して満足なんですか?言っときますけどあなたのような魂のステージが低い死人は平社員からスタートですよ。毎日便所掃除ですよ」
「それは嫌だな、しかし、わたしは生き返ったとしても、もう手遅れなのだ、それにわたしは心底死にたいと思っている」
天使は急にまじめな顔をして、諭すように、慰めるように、優しく、そして厳しい瞳で、わたしにささやいた。
「あなたは死にたいのではありません。本当は幸せになりたいのです」
全身の細胞が騒めいた、それは、その言葉が的を射ていたからなのか、それとも、その天使の表情が、声がわたしにとって決して忘れてはならなかった大切なものであったからなのか、どちらにしても、わたしはその瞬間、この天使に魅せられていた。
「もう一度聞きます、再試験、受けますか?受けませんか?」
「そんなもの決まってるじゃないか」
天使は胸に手をあて、不安げな表情でこちらを見つめる。
「受けるよ、その再試験」
天使の顔は嬉々とした表情に変わった。
そして、確信した、わたしは
この顔を知っている