わたし、ご臨終
こんばんわー天使ですー、お迎えにあがりましたー。
世は12月24日、どこもかしくもクリスマスだの恋人だの乳繰りあってるなかで、わたしはインフルエンザにかかっていた。
体力を奪われ、隣の部屋からリピート再生されるアニソンに心身共にすり減り、世を憎み、世界滅亡を願っていた時であった。
チャイムの音と共に天使さんがうちにやってきた。
わたしは幻聴が聴こえるくらいに蝕まれているのかと、ポカリ飲んで寝ようとしたー・・
「ピンポーン、あのーいるのわかってるんですよー、でてきてくださいよー」
…
「おーい、居留守ですかー?そうやって受信料の集金も居留守決め込んでるんですねー?皆さーんここの人受信料払ってませー・・」
うるせえええええー!
わたしは弱った身体をひきずって、冷静に、悪魔で紳士的に戸を開け、そう吐き捨てた。
目の前にいたのは、もちろん天使ではなかった、白いダッフルコートをきた女の子が驚いた眼でこちらを見上げていた。
「うるせえええのあなたですよ!近所の迷惑考えて下さい!こっちはねーイエス様の誕生日も祝えずこうしてお仕事してるってのに!ムキー!」
驚いた眼を三角にして声を荒げる女の子。
ムキーなどと声に出して言う可哀想な子を見て、わたしの睡眠を妨害された事への怒りはすっかり忘れ、ただ目の前の電波娘の対応に、インフルエンザに蝕まれてた右脳と左脳をフル回転させていた。
「すまんかった、インフルエンザで具合が悪くて、つい酷い言葉を吐いてしまった。で、その仕事とは何ですか?学校の廃品回収か何かかな?」
「馬鹿にするなあーーー!」
二本の指が飛んできた直後、視界が真っ暗になり、両の目ん玉に激痛が走った。
「目があ!目がああ!」
「さっき天使っていったじゃないですか!職業天使です!」
お前のような天使がいるかといってやろうとしたが目の激痛からわたしはただ呻く事しかできず、ただ、目潰しという暗殺拳の凶悪さを思い知っていた。
「私はあなたを迎えにきたんですよ、あと、あなたのそれ、インフルエンザじゃないです、デング熱です」
「デン、デング熱!?今流行ってるあの!?」
「そうですよー、あなた病院行かなかったでしょ。」
たしかにわたしは最近懐が寒い状況にあり節約と称して病院代をけちり、自己診断でインフルエンザと自分に診断結果をだしていた、しかし、デング熱って・・そもそもこの小娘の言ってる事を信じてどうする。
「デング熱だという保障がどこにある、あまりふざけていると警察に通報しますよ」
女の子は大きく溜息を吐き、そしてさっきわたしがこの子にしていたような可哀想なものを見る目で呟いた。
「いるんですよね、自分が死んだことに気付かない人、自分のベットみてきたらどうです?」
ベットは玄関から廊下の先一枚の扉を開けたすぐにある。わたしは気が昂ぶっていたためその扉はもちろん開けっ放しだ、つまり、振り向けばベットが見える。一目で見える。一瞬で見える。振り向くだけで見える。
振り向いた先のベットの上で、わたしは死んでいた。
「ご愁傷様です」
そう言って天使は笑った。