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THREE-3-

 僕の造った舟の完成度は高いようだ。その証拠に、早くも4人の愚かな人間が死んだ。

 彼等もさぞや恐ろしかったことだろう。これまで自分より下だと思っていた存在が、突然牙を向いて襲いかかって来るのだから。人間とは案外弱い生き物だ。普段は偉そうに踏ん反りがえっているが、いざ危機に直面するとその殆どが尻尾を巻いて逃げ出すか、発狂して使い物にならなくなる。愚かな生き物だ。

 さて、僕の計画はまだまだこんなものではない。ネズミの暴走なんて序の口。もうじき、もっと面白いことになるだろうね。





 研究室が管理しているマウスが発見された、それは2つの可能性をあぶり出す。1つは、この1件の裏側に研究所の職員が関与していること。そしてもう1つは、たとえ意図的ではなかったにせよ、危険な生物を逃がしたとして批難を浴び、いずれここは……閉鎖される。

 職員の中に恐ろしい考えを持った者がいるのも恐ろしいが、それよりも自分達の居場所が失われることの方が恐ろしかった。これまでの努力が全て水の泡になってしまう。高田もそのことを危惧しているようだった。

「どうするんです? 見つかったら……」

「何とかするさ。まだ研究は続けなくてはならないし」

「へっ、いっそ止めちゃったらどうです?」

 言ったのは仁科だった。肩が少し震えている。

「何年実験したって、どうせ何も成果は得られないんだ。だったらこんな研究止めちまえば良いんだ」

「仁科君、何を……」

「だってそうだろ? 毎日毎日不完全なワクチン作って、何匹もマウス殺して、ただの鬼畜じゃねぇか!」

「仁科君!」

「……すいません」

 仁科は気まずそうに顔を背けた。

 高田はため息をつき、話を続けた。

「何にせよ、我々も調査をした方が良いだろう。事故にせよ事件にせよ、全てを隠蔽するのは好ましくない」

「仕事が無くなっても良いと?」

 今度は荻野が尋ねた。彼女も職を失うことの方が恐ろしいようだ。

「最悪、そのことも視野に入れておくべきだろうな」

 と、突然高田の携帯が鳴った。会釈をしてから部屋を出て電話に出た。廊下から彼の声が聞こえてくる。

 高田が退室したあとの部屋のムードは最悪だった。誰も言葉を交わさなかった。

 少しして、高田が焦りの表情で部屋に戻って来た。その様子を見て3人が覚悟する。いよいよ、最悪の事態を考えるべきだと。

 だが、高田の口から発せられた言葉は予想だにしないものだった。

「準備を始めるぞ」

「は?」

「都内の動物園で死傷者が出た」

「そんな」

「犯人は射殺したとのことだが、彼、或いは彼女とも関係があるのかもしれない」

 4人が、テーブル上の塊に目をやった。





 その動物園では警察が現場検証を行っていた。

「牧野さん」

「うん?」

 はげ頭の厳つい刑事、牧野平吉が後輩刑事の報告を聞いている。彼は大ベテランだ。いちいちメモをとらなくとも証言はしっかり記憶している。

 事件は恐ろしいものだった。

 動物園職員の話では、檻の清掃を行っている職員に、突然1匹のオランウータンが飛びかかったというのだ。彼等も案外凶暴だ。唸りながら職員の頭や身体を齧っていたそうだ。助けを求められたが、あまりの恐ろしさに被害者を置いて逃げてしまったとか。後に通報してくれたからまだ良かったが。オランウータンは駆けつけた警察隊に射殺された。被害者だけでなく、動物の遺体も研究機関に運ばれた。

「嫌な世の中になったもんだ」

「え?」

「人間と違って、動物には言葉が通じない。何考えてるかもわからねぇしな」

「でも、家の犬は言うこと聞きますよ?」

 後輩のとぼけた言葉に、牧野が彼の頭を叩いた。

「そんな話してんじゃねぇんだよ」

「すいません」

「何にせよ、ここ最近起きてる事件はどこか妙だな」

 他の3件も牧野も一緒に捜査を行っている。皆無惨な死に方をしていた。とある男女だけは手を繋いで最期を迎えたようだった。まだ20代で、牧野の娘と同い年くらいだった。胸が痛かった。

 人間業とは思えない殺傷方法。彼等を殺した者も、言葉の通じない、心を読むことが出来ない存在なのではないか。鍛え上げられた刑事の勘がそう告げていた。

「あの!」

 他の刑事が何か発見したようだ。全員の注目がそちらに集まる。

「監視カメラの映像に変なものが映ってました」

「変なもの? 何だそりゃ?」

「動物が暴れている様子が、映されていました。まるで、何かを振り払おうとするかのように」

「振り払う、ねぇ」

 あごを摩る牧野。推理をするときの癖である。

 今回の事件、犯人はやはり人ではない者の仕業なのか。警察にこの事件を解決することは出来るのか?

 取り敢えず自分でもその映像を見てみることに。職員に連れられて事務室に向かう。場所は檻のすぐ近く。今回のようなトラブルが起きたとき、すぐに対処出来るようにするためだ。

「これがカメラ映像です」

 モニターには現在の映像が映し出されている。職員と動物の血液だろうか、廊下が汚れている。それを清掃員が洗い流している。だが掃除は大変そうだ。血は広範囲に流れている。

「それでこちらが、事件発生時の映像」

 リモコンを操作して問題の映像を再生する。

 捜査員の報告通り、オランウータンが檻の中でもがいているのが窺える。時刻が深夜2時なのではっきりとはわからないが、確かにしきりに手を動かしている。30分ほど経つと今度は檻の柵を握りしめて吠え始めた。牧野さえおののく程だ。

「なるほど、予兆はあったわけだ」

「ちょ、ちょっと。それどういう意味ですか? 我々の管理がまずかったってことですか?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろうが!」

 普段後輩を叱るのと同じ要領で怒鳴ってしまった。だが人が1人死んでいるのだ。職を失うことよりもそちらの方が問題の筈だ。

「何にせよ、事件は必ず解決させます」

 刑事達は部屋から出た。

 風が心地良い。あの恐ろしい映像を観たからか、外の空気が美味しく感じられる。しかし、この安堵の瞬間もすぐに終わるだろう。すぐにまた、おぞましい事件が起こる。刑事の勘が、またしても牧野にそう告げた。








 研究所に2遺体が届けられたのは、連絡を受けてから1時間後のことだった。1つは人間の、そしてもう1つは動物の。

 先程の塊の調査はほぼ完了している。遺体からはやはりウイルスが検出されたが、それは峰達がこれまで1度も見たことが無いものだった。とりあえずわかっていることとしては、この細菌が空気感染しないということ。現に峰達の身には何も起きていない。

 新種のウイルスの感染。とんでもないことが起きてしまった。情報が無いためウイルスにどの程度の力があるかわからない。だが更に恐ろしいのは、一緒に見つかったマウスの死骸からも同じウイルスが見つかったということ。研究所の閉鎖は免れないだろう。

「始めよう」

 早速2遺体の検死が始まった。報告によれば、このオランウータンは前夜に暴れていたらしい。今回もウイルスが絡んでいるのかもしれない。血液を採取するため、注射器を取り出して死骸の腕に針をあてる。すると、その瞬間、

「ひゃあっ!」

 けたたましい悲鳴を上げて、死んだ筈のオランウータンが飛び起きたのだ。白目をむき、歯も剥き出しの状態だ。しかしすぐに力を失い、再び元の死骸に戻ってしまった。

「大丈夫か?」

 高田が声をかける。小刻みに首を縦に振った。

 今のは何だったのだろう。まだ僅かに息があったということなのか。気を取り直してもう1度注射針をあてる。今度は、起き上がることはなかった。

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