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神影鎧装レツオウガ  作者: 横島孝太郎
#3 プロジェクト・ヴォイド
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Chapter10 暴走 05

TRRRRR。TRRRRRRRRRRRR。

「……おっと」

 鳴り響く通信音に、ギャリガンは目を開く。ここはレイト・ライト社執務室――だった部屋だ。今は随分と趣が変わっている。スレイプニルへの変形に伴い、壁から迫り出してきた大小の計器類、特に大型モニタが強烈に自己主張していた。

「ご主人、通信ッスよ」

 どうあれ、少し物思いにふけり過ぎたようである。

「ああ、分かっているとも」

 アオに促され、ブラウンは大型モニタの前に移動した。

「準備出来たぜ、社長」

 映り込んだのはグレンだ。部屋に備え付けのモニタはレックウに壊されたため、烈荒(レッコウ)のシートから通信して来ている。

「コイツも、そろそろ大丈夫そうだ」

「おふぁようございまふ」

 助手席を指差すグレンに、ペネロペは大きなあくびを返した。つい今し方、デミクサーの反動から復帰したのだ。

 更にペネロペは、烈荒のダッシュボードから一発のライフル弾を取り出した。計画の最終段階を担う、最も重要な一発だ。万が一の破損や紛失を防ぐため、今までここに置かれていたのである。

 その側面には、小さく『Snow』と刻印されているのが見て取れた。

「よしよし、そいつは重畳だ」

 頷き、ギャリガンは軽く顎をしゃくる。アオはそれを確認し、クチバシで器用にコンソールを操作。するとギャリガンの右手側に立体映像モニタが展開し、別の場所との回線が接続。

「こっちの準備は出来たぞ。ブラウン、そっちはどうだい」

 かくて映りだしたブラウンは、今まさにレツオウガの二刀を受け止め、弾き返した。

「おう!いつでも良ィ、ぜッ!」

 ぎぃん。巨大な刃の振動が、モニタ越しですら空気を振るわせる、錯覚を受けた。

 肌を焦がす闘気。久しく忘れていた感覚に、ギャリガンは片眉を吊り上げる。

「宜しい。では始めようか。最後の、仕上げのフェイズをね……アオ」

「うッス」

 アオはクチバシでコンソールを突く。起動コードが打ち込まれ、エンターキーが叩かれる。

 かくして装置は起動した。

 レツオウガの、レックウのボディ内部へ入り込んでいた、あの装置が。


◆ ◆ ◆


「む」

 アメン・シャドーの鎌を受け止めながら、辰巳(たつみ)は違和感を覚えた。

 霊力が減衰している。レツオウガの可動や、タービュランス・アーマーの使用とは無関係に。

 だが、何が?

 もう幾度目かになる切り結びの後、やや強引にレツオウガは跳び退いた。当然隙は生まれるが、上空の赫龍(かくりゅう)が的確な援護射撃でそれを潰してくれる。

「感謝するぜ」

 言いつつ、辰巳は機体の霊力状況をスキャン。結果はすぐに出た。

「やはり……」

 気のせいではない。想定外の術式か何かが、レツオウガの霊力を消費している。

 而して、原因は何だ? 機体のトラブルか? 敵の奥の手か? それともEフィールドのギミックか何かか?

 肉眼とセンサー、二つを駆使して辰巳は一帯を見回す。が、特に変わったような所は見当たらない。強いて言うなら、心持ちアメン・シャドーの攻勢が鈍ったような気もするが――。

「い、五辻(いつつじ)、くん」

「何だよ、今忙しいんだよ。それにファントム4だっていつも――」

「うし、後ろ!!」

「――後ろぉ?」

 辰巳は振り返った。そして、絶句した。

 辰巳の斜め後ろ、さっきまで(メイ)が立っていた辺り。

「こ、これ」

 レックウに跨ったまま、風葉(かざは)は真横に立つ招かれざる客を、震える手で指差す。

「GIGI、GI」

 隙間だらけの口から、軋むような声が漏れる。針金細工じみた霊力光の束が、骨組みを編み上げようとしている。

竜 牙 兵ドラゴントゥースウォリアー、だと」

 絞り出すように辰巳は呻く。ギャリガンがレックウへ秘密裏に取り付けていた装置。あの中に、カドモスの竜退治伝説の情報が刻み込まれていたのだ。

 その生成に伴い、装置はレックウの経路から霊力を吸い上げている。先程確認した霊力異常は、これが原因だったのだ。

「だが、いつ、どうやって……?」

 渦巻く疑問。きっとレックウで走り回ってる間に、何かされたのだ。

 だが、だとしても何のために――ごく短いその当惑が、状況の明暗を分けた。

「GIGIIIIIIIIIIッッ!!」

 太く短い、トゲだらけの凶悪な棍棒(メイス)。竜牙兵はそれを辰巳目がけ、振り下ろす。

 質量と遠心力に任せた単純な、しかし強烈な一撃。

「……く、う!?」

 脳天を狙うその一撃を、辰巳は防御しようとした。が、いつもの左腕はコンソールに固定されており。

「ん、な、ろ、っ!」

 故に辰巳は、生身の右裏拳で棍棒を迎撃した。

 ほぼ反射的に、かつ無理矢理に放たれた拳打は、どうにか竜牙兵の一撃を受け流した。

 だがその代償として、辰巳の右手は砕けた。ギャリガンが予知した通りに。

「ぐ、あ」

 ぽたり、ぽたり。流れる血に顔をしかめる辰巳。

「GIGIGIIIIIIIIIIIIIIIッッッ!!」

 その目の前で、竜牙兵は再度棍棒を振りかぶる。今度こそ叩き潰す為に。

「調子に、乗るなっ!」

 無論、二撃目まで許す辰巳では無い。片腕を固定した体勢とは言え、それでも切れ味鋭い背面蹴りが、竜牙兵を強かに打ち据えた。

「GGIIII!?」

「わぁ!?」

 叫ぶ風葉の真横を吹っ飛んでいく竜牙兵。そのまま背面の霊力装甲へと激突、停止。

「GI、GI、GI」

 半壊状態に陥りなりながら、それでも律儀に棍棒を構え直そうとする竜牙兵。

「ち。うっかりしてたぜ」

 舌打つ辰巳。排除ばかりが先立ってしまい、霊力装甲の透過設定を忘れていたのだ。

 辰巳はコンソールを操作し、竜牙兵背面の霊力装甲のみを透過するよう設定。入り込む外気を肌で感じながら、未だ赫龍と戦闘中のアメン・シャドーを警戒しつつ、叫んだ。

「ファントム5! 茶漬けも箒も無いが、客に帰って貰うぞ!」

「え? ……あ。ん、分かったッ!」

 未だふらついている竜牙兵へ、風葉はフェイスシールドを開けつつ振り返る。

 金色の双眸を光らせながら、大きく息を吸う。

「このガイコツ! 出てけぇーッ!!」

 ソニック・シャウト。やる気と出力が比例する攻性衝撃音波を、しかも至近距離から直撃した竜牙兵は、当然ながら粉微塵になった。

 断末魔さえ残す事無く、霊力装甲の外へと吹っ飛んでいく細かな欠片。

「ふ、ぅ」

 一息つき、風葉はフェイスシールドを戻す。

 いや、戻そうとした。

「ん、」

 風葉の背中を、悪寒が撫でた。

 それは視線だ。酷くまっすぐで、迷いなぞ微塵も無くて、しかもどこかで感じた事がある透明な殺気。

 あれは、いつだったか、そう。

「学、校」

 マリアが転校して来て、禍と一緒に戦ったあの日。あの日の戦端を開いた銃撃と同じ視線を、風葉(フェンリル)は嗅ぎ取ったのだ。

 だが、一体どこから? 霊力装甲越しに見えるのは薄墨色の海ばかりであり、せいぜい目につくのは抜け殻となったレイト・ライト社ビルくらいなもので。

「……ビル?」

 かくて、風葉は気付いてしまった。ほんの数秒前、グレンの転移術式で屋上へとやって来た、狙撃手の視線に。

 加えて、風葉は認識してしまった。その狙撃手が構えた、長大なライフルの銃撃を。ちかりと光った、針のように小さい閃きを。


◆ ◆ ◆


 銃声、銃声、銃声、銃声、銃声が響く。

 一直線に落下しながら、冥が拳銃を連射したのだ。直近に立つ柱を足場とした、三角跳びじみた急降下からの精密射撃であった。

「ほっ、と」

 猫のように柔らかく着地する冥。しゃがみこそするが、手はつかない。どちらも銃で塞がっているからだ。

 左手には自動拳銃(オートマティック)。辰巳が装備している物と同型の、ブーストカートリッジが装填されている移動装置。

 右手には輪胴弾倉(リボルバー)。グレンと戯れた時は空だった、硝煙代わりの霊力光を立ち上らせる対大鎧装弾発射装置。

「ふうっ」

 そんなリボルバーの銃口へ、冥は息を吹きかける。

「よもやと思うが。こんなもので僕をどうにか出来ると思っていたのか?」

 立ち上がりながら、冥は消え行く霊力光を目で追う。その向こう側で、ブラウンは相変わらず尊大に足を組んでいた。

「……あーららァ」

 腕も組みながら、ブラウンは冥の背後を見上げる。対人用の掌部霊力(エーテル)バルカンを展開したまま、タイプ・ブルーは案山子のように突っ立っている。

 ずん。

 ――いや、今両膝を突いた。首元、両腕付け根、胸部少し下。装甲の隙間からねじ込まれた対大鎧装弾により、霊力経路が寸断。機能停止に陥ったのだ。霊力装甲が揮発し、タイプ・ブルーは惨めな骨組みへと戻っていく。

「いや、いや、いや。まともな勝負になンねェこた見え透いてたがよォ。まさかここまでたァ思わなかったぜ」

 唸るように賞賛しながら、ブラウンはつい先程まで冥が見せた動きを反芻する。

 左の自動拳銃による高速軌道で、タイプ・ブルーの動きを攪乱。隙を造った。

 そして右のリボルバーによる的確な射撃で、タイプ・ブルーの各部を破壊。沈黙せしめたのだ。つくづく恐るべき技量である。

「流石は冥王ハーデスサマ、ってェトコだなァ」

 死者の能力を自身へ転写し、同等の能力を得る冥王特権。以前グレンを翻弄したその能力で、冥はかつて大鎧装との戦闘を得意とした戦士の技量を、自身に宿らせたのだ。

 そしてその技量に支えられた銃口が、まっすぐにブラウンの眉間を射貫いた。

「当然だな。こんなガラクタで僕を仕留めたいなら、せめてダース単位でもって来る事だ」

「あァ、まったくだな」

 ブラウンは片目を瞑り、両掌を上に上げる。降参のジェスチャーだ。

「……ふむ。その割には愉快そうだな」

「おやァ。分かッちゃいますか」

「分かっちゃいますとも。そんなに口元がつり上がってりゃね」

「おッと、こいつァうっかりだ」

 などと返すブラウンであるが、特に口元を隠そうとはしない。むしろ見せつけるように背筋を曲げ、静かに腕を下げた。

「しかし、まァ、なんだ。確かにこいつァオレの負けだ」

 ぱきん。ギャリガンは指を鳴らす。

「そして。オレ()の、勝ちだ」

 右手側、格納状態のグラディエーターにも匹敵する巨大な立体映像モニタが、唐突に横合いへ点灯。その画面を横目に見つつも、冥の銃口はブラウンの眉間からまったくブレない。

「一体――」

 何の真似だ。そう続けようとした二の句を、冥は告げなかった。

 正方形のモニタ内、映り込んだのはレイト・ライト本社。未だ幻燈結界(げんとうけっかい)の薄墨色に沈んでいる屋上で、長大なライフルを構える人影が一つ。

 十中八九グレンの転移術式でやって来ただろうその少女の顔を、何よりそのライフルの性能を、冥は知っていた。

 だが、一体何を狙っているのか。

「――まさか」

 この状況で、ああまでして敵が狙う標的なぞ、レツオウガ以外に有り得ない。

 故にその脅威を伝えるべく、冥は転移術式を開いた。

 もとい、開こうとした。

「おぉっ!?」

 ぐぅん、と。

 冥が腰裏のタブレットへ手を伸ばそうとした直前、唐突に床板が盛り上がった――いや、違う。古代エジプト様式の内装をすり抜けて、階下へ格納されていた待機状態のグラディエーターが、リフトアップされて現われたのだ。

 冥の動きを封じるため、ギャリガンが予知した通りに。

「ちぃ!」

 どうあれここには居られない。即座に冥は飛び降り、宙返りしながら着地。かくて冥は、その目に見た。

 等間隔に並並ぶ柱の名から、一面に広がる石畳の下から、大量の金属立方体が現われる一部始終を。

「なんだい、まだこんなにあったのか」

 タイプ・ブルー、タイプ・ホワイト、そしてタイプ・レッド。続々と変形する大鎧装部隊を侍らせながら、ブラウンは言い放った。

「さァ、在庫一掃処分だ! ダース単位なんてシケた事ァ言わねェ! 全部持ってってェ貰おォじゃねェか!」

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